新しい味
「で?」
俺はアイに尋ねる。
「まず何が必要だ?」
『完熟トマトを鍋一杯。玉ねぎを五、六個。ニンニクに似た物を一つ。それと干し柿を二つ。塩、お酢。スパイスとして使えそうな野草を何種類か』
「んー……」
俺は必要な材料を紙に書いていく。
「何作るんだ?」
『まずは、ケチャップです』
「おー!」
俺は思わず声を上げる。
「それなら作れそう!」
『はい』
「まずってことは……」
『他にもあります』
「何だ?」
『マヨネーズです』
「マヨネーズ!いいね!」
『卵、油、お酢、塩です』
「ん?」
俺は材料を見る。
「それだけで出来るのか?」
『はい。大丈夫です』
「うん!それなら俺でも平気そうだ!」
『その認識で問題ありません』
「よし!」
俺は材料を集めることにした。
◇
まずはケチャップ。
完熟したトマトを鍋いっぱいに入れる。
「これを潰して……」
トマトを潰していく。
「玉ねぎとニンニクっぽいのは、すりおろす」
『はい』
「干し柿も?」
『細かくしてください』
「砂糖の代わりか」
『その通りです』
「なるほど」
全部を鍋に入れる。
「後は煮込む」
『はい。焦がさないように、ゆっくり煮込んでください』
「うむ。簡単だな」
『誠様でも可能です』
「……」
「またその言い方」
『事実です』
「はいはい」
俺が鍋をかき混ぜていると――
「誠ー!」
「ん?」
ミィナがやってきた。
「また変なことやるのか?」
「変なことじゃない!」
「何作ってるんだ?」
「新しい調味料だ」
「調味料?」
「そう」
ミィナが鍋を覗き込む。
「何だこれ?」
「ケチャップ」
「……」
「完成してからのお楽しみだ」
「見てていいか?」
「いいぞ」
『それでは、ミィナ様。お手伝いをお願いします』
「おう!」
「ミィナにはマヨネーズを作ってもらおう」
「マヨネーズ?」
『まず、こちらのボウルに卵、油、お酢、塩を入れてください』
「これだけ?」
『はい』
ミィナが材料を入れる。
「何が出来るんだ?」
『完成したら教えます』
「分かった!」
ミィナは木の棒を持つ。
「混ぜればいいんだな?」
『はい。しっかり混ぜてください』
「おう!」
かちゃかちゃかちゃかちゃ。
「……」
俺は思わず手を止める。
「うお!すげー速度!」
「これぐらいやるのか?」
『もう少しお願いします』
「分かった!」
かちゃかちゃかちゃかちゃ!
「おお……」
「これ、いつまでやるんだ?」
『とろみが出るまでです』
「とろみ?」
『全体が、とろーんとなるまでです』
「分かった!」
ミィナはさらに混ぜ続ける。
「はぁ……これぐらいか?」
『はい。完璧です!』
「本当か?」
『はい』
「じゃあ……」
俺は少しだけ指につける。
「舐めてみて」
「おう」
ぺろり。
「……」
ミィナの目が大きくなる。
「何だこれ!?」
「どうだ?」
「うめー!」
「そんなに?」
「うめーぞ!」
『マヨネーズです』
「これがマヨネーズか!」
ミィナはもう一度舐める。
「美味い!」
「良かったな」
「何につけるんだ?」
『野菜などと一緒に食べることを推奨します』
「野菜?」
『はい。他にも様々な食品と組み合わせられます』
「なるほど」
ミィナは少し考える。
「これ、貰っていっていいか?」
「いいぞ」
「やった!」
ミィナは嬉しそうにマヨネーズを抱える。
「家で色々試してみる!」
「食べ過ぎるなよ」
「分かってる!」
ミィナはそのまま走っていった。
「……」
『新しい料理への反応は良好です』
「だな」
俺は鍋を見る。
「さて……こっちはどうかな?」
『そろそろ確認してみましょう』
蓋を開ける。
ふわっと、甘酸っぱい香りが広がった。
「おお……」
『良い状態です』
「これをもっと煮詰めて……」
『はい』
俺は鍋をかき混ぜる。
「ケチャップにマヨネーズか」
『どちらも様々な料理に使用できます』
「これなら、食事の幅もかなり広がりそうだな」
『はい』
俺は鍋を眺めながら笑った。
「ポテチから始まって、調味料まで作ることになるとはな」
『食事を楽しむ段階へ移行しています』
「なるほどな。生きるために食べる。腹を満たすために食べる」
そして今は――
「美味しい物を食べるために、料理を工夫する」
『はい』
「町が豊かになってきたってことか」
『その通りです』
俺は鍋をかき混ぜながら、少しだけ笑った。
「さて、完成したら次は何を作るんだ?」
『まだ候補があります』
「……」
「やっぱり、仕事は増えるんだな」
『はい』
「まあ……」
俺は完成に近づいていくケチャップを見る。
「美味い物が増えるなら、悪くないか」
『同意します』




