お菓子の誘惑
『誠様! 流石にダラダラし過ぎです』
「やっぱり?」
午後になってから、俺はずっとゴロゴロしていた。町づくりはナナたちが進めている。
ゴミの回収も終わった。特に急ぎの仕事もない。
「でもなぁ……」
俺は腹をさする。
「お菓子食べたい」
『ここにはありません』
「だよなぁ……」
村でお菓子らしいお菓子を食べた記憶はほとんどない。せいぜい果物や保存食。
「簡単なお菓子、作れない?」
『でしたら、ポテトチップスなどはいかがでしょう』
「ポテチ?」
『材料は揃っております』
「じゃあ作れるじゃん」
『スライサーがあれば理想的です』
「あー、あれか」
ジャガイモを薄く均一に切る道具。
「それなら作ってもらうか」
『はい』
◇
俺は職人にスライサーの説明をした。
薄く切るための簡単な道具。
刃を固定して、その上をジャガイモを滑らせる。
「これなら作れそうだな」
職人は図を見ながら頷いていた。
「まあ、そのうち完成するだろ」
そう思ったのだが――
「……」
「ポテチ食べたい」
『先ほどより欲求が強くなっていませんか?』
「だって作れるって分かったからな」
『包丁で薄く切れれば、現時点でも製作可能です』
「包丁で?」
『はい』
「じゃあ試してみるか」
『可能です』
「薄く切って、油で揚げて、塩を振るだけだよな?」
『はい。誠様でも可能です』
「その言い方……」
『事実です』
「まあいい」
俺はジャガイモを用意した。
「さて……」
包丁を持つ。
「薄く……」
慎重に切る。
「……」
一枚。また一枚。
「どうだ?」
『厚さに多少のばらつきがあります』
「やっぱりか」
『ですが、十分に調理可能です』
「よし」
どうにか薄切りにしたジャガイモを並べる。
「後は油で揚げるだけ」
『はい』
鍋に油を入れ温めて、ジャガイモを入れる。
「……」
パチパチパチ。
「お」
油の音が変わってきた。
「そろそろか?」
『はい。良いと思います』
ジュワワワワー。
「うん」
香ばしい匂いが漂ってくる。
「揚がってる! 揚がってる!」
俺は竹のザルを用意する。
揚がったジャガイモを取り出して、油を切る。
「最後に……」
塩を振る。
「おー!」
見た目は少し厚さが違う。
それでも、ちゃんとポテトチップスだ。
「いい感じ!」
『はい』
「美味そう!」
俺は一枚手に取る。
パリッ。
「……」
「うまい!」
『成功ですね』
「これは……」
もう一枚。
パリッ。
「止まらんな」
その時。
「おーい! 誠ー!」
遠くからミィナの声が聞こえる。
「いる……か?」
ミィナがこちらへ近づいてくる。
「何だそれ?」
「……」
「ポテチ」
「ポテチ?」
ミィナが覗き込む。
「何だそれ?」
「食ってみる?」
「貰うぞ!」
「おい」
パリパリ。
ミィナの目が大きくなる。
「……」
「美味い!」
「だろ?」
「もっと食わせろ!」
「ちょっと待て!」
ミィナは次々と手を伸ばしていく。
パリパリ。パリパリ。パリパリ。
「おい!」
「もっと!」
「俺の分!」
「まだあるだろ!」
「いや、それは俺が食う!」
「ケチ!」
「作ったの俺だぞ!」
ミィナは全く聞いていない。
あっという間に皿の上が減っていく。
「……」
俺はアイを見る。
『諦めてください』
「……はい」
パリパリ。
ミィナが美味そうに食べている。
「これ、村のみんなにも食わせようぜ!」
「いや……」
「何だ?」
「これ以上作るの面倒なんだけど」
『スライサーが完成すれば、作業効率は大幅に向上します』
「……」
「じゃあ、早く作ってもらうか」
『その方がよろしいかと』
俺は空になりかけた皿を見る。
「しかし……」
『何でしょう?』
「お菓子一つで、こんなに騒がしくなるとはな」
『娯楽と同様、食の楽しみも豊かさの一部です』
「なるほど。だったら、これも町が豊かになった証拠か」
『はい』
ミィナが最後の一枚を取る。
パリッ。
「あ」
「これ美味いな!」
「……」
「誠、また作ってくれ!」
「……」
『誠様』
「何だ?」
『スライサーが完成するまで、よろしくお願いします』
「俺の仕事が増えた……」
町づくりの合間に始まった、思いがけない新しい仕事。
それは――ポテトチップス作りだった。




