午後の楽しみ
「さて。午後は手が空くな」
午前中のゴミ回収を終えて、俺は手引き台車を所定の場所へ戻した。
『ゆっくり出来ますね』
「まあ、そうなんだが……」
俺は周囲を見渡す。
村人たちは、まだ働いている。
レンガを作っている者。水路を整備している者。建物を建てている者。畑で作業している者。
「皆が働いている中、俺だけブラブラしててもな」
『問題ないと思われます』
「いや、気分的にな」
それに――
「ブラブラする場所も、まだないしな」
『確かに』
町は作り始めたばかり。公園もない。宿もない。娯楽施設なんて、もちろんない。
「娯楽は、殆どないな」
『はい』
「リバーシはあるけど……」
『現在も子供から大人まで遊ばれています』
「それ以外は?」
『現状では、選択肢が少ないです』
「だよなぁ」
俺は少し考える。
「何か簡単に作れて、皆で遊べる物ってある?」
『……』
アイが少し間を置いた。
『そうですね……』
「お?」
『まだ、少し厳しいと思われます』
「そうか」
『道具を作るための材料や加工技術を考えると、すぐに作れる物は限られます』
「まあ、そりゃそうだよな」
俺は苦笑する。
「娯楽だからって、ポンポン出てくるわけじゃないか」
『残念ながら』
「じゃあ、今はリバーシくらいか」
『はい』
「建物が完成すれば?」
『ボーリングなどが可能になると思われます』
「あー!」
俺は思わず声を上げた。
「それなら皆で出来るな」
『はい』
「平らな板が必要か」
『その通りです』
「それと、ピンとボールか」
『はい』
「なるほど」
想像してみる。町の中に大きな建物がある。
そこに長い板が並んでいる。
皆で順番にボールを転がす。
「……結構楽しそうだな」
『はい』
「外で遊ぶなら?」
『サッカーやバスケットボールなども考えられます』
「それはいいな」
『ただし』
「分かってる」
俺は苦笑する。
「ボールだろ?」
『はい』
「今の技術じゃ、ボールを作るのは厳しい」
『革を使う方法などはありますが、現在の加工技術では安定した製品を作るのが難しいと思われます』
「なるほどな」
「じゃあ、まだ先か」
『はい』
「ボーリングは?」
『解決策があります』
「お?」
『現在の木工技術でも、簡易的な物なら製作可能です』
「本当か?」
『はい』
「じゃあ、後での楽しみだな」
『はい。任せてください』
「頼みますよ、アイさん」
『承知しました』
俺は少し笑う。
「しかし……」
町を見渡す。
「こういうのを考えられるようになったのも、豊かになったお陰か」
『はい』
「最初の頃なら、娯楽なんて考える余裕なかったもんな」
『生存が最優先でした』
「食べ物を作って、水を確保して、冬を越して、道具を作って、それだけで精一杯だった」
『現在は、それらがある程度安定しています』
「だから次は……」
俺は少し考える。
「楽しむことか」
『その通りです』
「生きるだけじゃなくて。生きることを楽しむ」
『人が豊かになることで、必要となる物も変化します』
「なるほどな」
俺は広場予定地を見る。
まだ何もない。
でも、いつかここに木が植えられる。
人が集まる。子供たちが遊ぶ。
大人たちが話をする。
そして、町のどこかには娯楽施設もできる。
「町って、住む場所だけじゃないんだな」
『はい』
「働く場所、食べる場所、眠る場所、そして遊ぶ場所」
『その通りです』
「……」
俺は少し伸びをする。
「じゃあ午後は、ゆっくりするか」
『推奨します』
「リバーシでもやるかな」
『ミィナ様を誘ってみてはいかがでしょう』
「……」
「負けそうだな」
『その可能性はあります』
「即答するなよ」
午後の仕事が減ったことを、以前なら不安に思っていたかもしれない。
だが今は違う。村は動いている。
町も少しずつ形になっている。
自分が休んでいても、誰かが働いている。
「これも、豊かになったってことか」
『はい』
誠はそう呟きながら、広場予定地を眺めていた。
何もない場所。だが、そこにはこれから――
人が集まり、笑い、楽しむ場所が作られていく。
町に必要なのは、仕事だけではない。
そんなことを考えられるようになったこと自体が、村が次の段階へ進んだ証なのかもしれなかった。




