町のゴミ
俺は町の設計が進んでいる場所を、のんびり歩いていた。
「……ん?」
ふと、足元を見る。
食べ物の残りに、小さな木片。
壊れた道具と灰。
「……ゴミが増えてるな」
『はい』
「前からこんなにあったか?」
『人口が少なかった頃は、それほど問題になりませんでした』
「そうだよな」
昔から住んでいる村人たちは、庭の隅などに穴を掘って埋めたり、燃やしたりしていた。
だが、今は違う。
新しく来た住民には庭がない家もある。
仮住居に住んでいる人もいる。
そもそも、ゴミをどうするのかという決まり自体がない。
「……」
俺は周囲を見る。
人が増えれば、当然ゴミも増える。
「下水だけじゃなくて、ゴミまでか……」
『はい』
『人口増加に伴い、廃棄物処理の問題が発生しています。また、以前から住んでいる住民は庭などに埋めていましたが、庭のない住民も増えています。そもそも、廃棄物処理に関するルールが存在していません』
「なるほど」
今までは、それぞれが適当に処理していた。
それで問題にならなかった。
だが、町になる。人が増える。家が密集する。
「同じやり方じゃ駄目になるな」
『はい』
俺は落ちている物を見る。
「これ……全部ゴミなのか?」
『分別すれば再利用できる物も多くあります』
「分別?」
『はい』
アイが分類していく。
『生ゴミ。木材。灰。金属。陶器。その他』
「なるほど。生ゴミは……」
『堆肥に利用できます』
「肥料作りか」
『はい』
「それなら無駄にならないな」
『灰も利用できます』
「灰も?」
『用途によって再利用可能です』
「木材の端材は?」
『燃料として利用できます』
「金属は?」
『回収して再利用を推奨します』
「陶器は?」
『状態が良ければ再利用。破損した物は砕いて別用途に利用できます』
「……」
俺は改めてゴミを見る。
「ゴミだと思ってたけど、結構使えるんだな」
『廃棄物の中には、再利用可能な資源が含まれています』
「じゃあ、全部捨てる必要はない」
『その通りです』
俺は少し考える。
「なら……分別する場所を作るか」
『推奨します』
「生ゴミは堆肥場。木材は燃料用。金属は回収。陶器は別に集める」
『合理的です』
「残った物だけ処分」
『はい』
俺は頷く。
「よし。ならルール作りだな」
『ルールですか?』
「今までは、それぞれ好きなように処理してた。でも町になるなら、それじゃ駄目だ」
『同意します』
「ゴミをどこに捨てるのか。何と何を分けるのか。誰が回収するのか。どこへ持っていくのか。そこまで決めないと」
『非常に合理的です』
「村長に相談するか」
◇
「ゴミの処理規則?」
村長が目を丸くした。
「ああ。今までは、それぞれの家で処理していたが……」
「人が増えた。庭のない家も増えた。それに、これから町になる。確かにな」
村長は腕を組む。
「町中にゴミを捨てられたら大変だ。だから決まりを作る。分別して、決めた場所に出す。誰かが回収する。そして再利用できる物は使う」
村長が頷く。
「生ゴミはどうする?」
「肥料にする」
「肥料?」
「前に作っただろ?」
「ああ、あれか」
「食べ物の残りも使えるなら、さらに肥料が作れる」
「なるほど」
村長の顔が少し明るくなる。
「ゴミが肥料になるなら、畑にも使える」
『循環が成立します』
「循環?」
『農地から食料を生産。食料を消費。生ゴミを回収。堆肥化。農地へ戻す』
「……」
「なるほど」
俺は笑った。
「町のゴミが、畑に戻ってくるのか」
『はい』
「これはいいな」
村長も頷く。
「なら、村人にも説明しよう」
「頼む」
◇
その日の夕方。
村の広場に人が集められた。
「これから町になるにつれて、人が増えます」
村長が話す。
「今までのように、ゴミを各自で処理する方法では問題が出ます」
村人たちも周囲を見る。
確かに、最近はゴミが増えている。
「そこで、ゴミを分けます」
「食べ物の残りは?」
「こちら」
「木材は?」
「こちら」
「金属は?」
「こちら」
「陶器は?」
「こちら」
村人たちから質問が飛ぶ。
「生ゴミはどうするんだ?」
「肥料にする」
「また肥料か!」
「畑がもっと良くなるかもしれないぞ」
「それなら捨てるよりいいな」
「木材は?」
「燃料にする」
「金属は?」
「鍛冶屋で使える」
「陶器は?」
「使える物は使う。壊れた物は砕く」
村人たちは少しずつ納得していく。
「なるほどな」
「捨てる物が減るのか」
「だったら分けた方がいい」
俺はその様子を見ながら思った。
今までは、
「何かを作る」
ことばかり考えていた。
食料を作る。道具を作る。建物を作る。水路を作る。町を作る。
でも、人が増えて町になるなら――
「作るだけじゃ駄目なんだな」
『はい』
「使った後のことも考えないといけない」
『その通りです』
「これも町づくりか」
『はい』
誠は広場を見る。
そこにはまだ何もない。
しかし、そこにはこれから市場ができる。
行政施設ができる。家が増える。人が集まる。
そして、ゴミも増える。
「町が大きくなるほど、今まで考えなくてよかった問題が出てくるな」
『それは、町が発展している証拠でもあります』
「……なるほど」
少し前まで、ゴミなんて問題にする余裕すらなかった。
食べ物が足りない。水が必要。
冬を越さなければならない。
そんなことばかり考えていた。
今は違う。
「ゴミの処理方法を考える余裕ができた」
『はい』
「それだけでも、かなり変わったんだな」
『その通りです』
町は、建物だけではできない。
人が増えれば、ルールが必要になる。
生活が豊かになれば、処理する物も増える。
そして――新しい問題が出るたびに、また新しい仕組みが生まれていく。
「さて……」
誠は村長を見る。
「次は回収方法だな」
「そうだな」
町づくりは、まだまだ終わりそうになかった。




