町の中心
「ここです」
ナナが地面を指差した。
「ここを町の中心にします」
「……ここ?」
俺は周囲を見渡した。何もない。
ただの空き地だ。
「ここ、何もないぞ?」
「はい」
ナナはあっさり答えた。
「だから良いのです」
「……なるほど?」
俺にはまだよく分からない。
ナナは地面に設計図を広げる。
「まず、この場所を中心にします。ここから市場。こちらに行政施設。宿は商人が入りやすいように、この辺りへ。倉庫は市場と道路の近くに。商店は市場の周囲に。工房は住宅地から少し離して配置します」
次々と指を動かしていく。
「そして――」
ナナが少し得意げに胸を張る。
「特に中心となるのは!村長が住む行政施設です!」
思わず村長を見る。
「わし?」
村長も驚いている。
「はい」
ナナは頷いた。
「この町を管理する場所になりますから」
「なるほど……」
村長は少し困ったような顔をしている。
「俺はただの村長なんだが……」
「もうすぐ町長になるかもしれません」
タタが笑う。
「おいおい……」
村長が頭を抱えた。
「そして、行政施設を中心として、必要な建築物を放射状に配置します」
ナナが地面に線を引いていく。
「道路も、この中心から繋げます。市場も商店も住宅地も工房も農地へ向かう道も」
「なるほど……」
俺は設計図を覗き込む。
今までバラバラに存在していたものが、一本の線で繋がっていく。
「そして最後に――」
ナナが空き地の中心を指差した。
「ここに広場を作ります」
「広場?」
「はい」
「何を置くんだ?」
「木を植えます」
「……木?」
ミィナが不思議そうな顔をする。
「木を植える?」
「はい」
「わざわざ?」
ミィナが首を傾げる。
「山へ行けば、木なんて沢山あるぞ?それとも、実がなる木を植えるのか?」
「いえ」
ナナは笑う。
「実を取るためではありません」
「じゃあ、何のために?」
「人が集まって、休むためです」
「……?」
ミィナはますます分からない顔をする。
「木陰で休んだり。子どもたちが遊んだり、人が話をしたり。町の人が自由に過ごす場所です」
「……」
ミィナは広場になる予定の場所を見る。
「山でいいんじゃないか?」
「……」
「山なら木も沢山あるし、休めるぞ?」
「まあ……」
俺は思わず苦笑した。
「ミィナの言ってることも、ごもっともなんだよな」
「だろ?」
ミィナが嬉しそうに頷く。
俺は地面を見る。
「でも、俺には分かる」
「何が?」
「公園みたいなものだ」
「公園?」
「人がわざわざ行くための場所。木があって、ベンチがあって、子どもが遊んだり、大人が休んだりする」
「……」
ミィナはまだ納得していない。
「でも、山に行けばいいじゃないか」
「まあ、そうなんだけどな」
俺は苦笑する。
「大きな町の中にこういう場所があるんだ」
「町の中に?」
「そう」
「わざわざ?」
「わざわざ」
ミィナは首を傾げた。
「変なの」
「まあ、そう思うよな」
この世界では、木は基本的に役に立つものだ。
薪になる。建材になる。実がなる。炭にもできる。だからこそ、「何も生み出さない木を町の中心に植える」という発想そのものがない。
俺には当たり前でも、ミィナからすれば不思議で仕方ないのだろう。
『誠様』
「ん?」
『広場には別の効果も期待できます』
「何だ?」
『住民同士の交流場所になります』
「なるほど」
『商業施設とは異なり、利益を目的としない場所です』
「そういう場所も必要だよな」
『はい』
俺は広場予定地を見る。
「仕事をする場所だけじゃなくて休む場所も必要」
『その通りです』
「町って、そういうものなのかもな」
◇
その横では、村長が設計図をじっと見ていた。
「ここが……」
「はい」
「町の中心になるのか……」
村長は、何もない土地を見る。
今まで、ここには何もなかった。
ただの空き地。それがこれから、行政施設。
市場。商店。宿。倉庫。工房。そして広場。
人が集まり、暮らし、商売をする場所になる。
「……本当に町になるんだな」
村長が呟いた。
「なるさ」
俺が答える。
「みんなで作るんだから」
村長は少しだけ笑った。
「そうだな」
ナナが再び設計図に目を落とす。
「では、ここから道路を――」
「待て」
俺はナナを止める。
「どうしたんですか?」
「広場に植える木」
「はい」
「せっかくだから、この辺りで育ちやすい木を選ぼう」
「それが良いでしょう」
「食べられる実がなる木も少し入れていいんじゃないか?」
ミィナが反応する。
「それなら賛成!」
「やっぱりそこは気になるんだな」
「当然だろ!」
俺たちは笑った。
町の中心。
そこには、人が働く場所だけではなく――人が集まり、休み、笑える場所も作られることになった。
まだ何もない空き地。
だが、いつの日かそこには木々が並び、その下で人々が過ごすことになる。
村から町へ。その中心となる場所の設計が、始まった。




