町の設計図
俺とミィナは、町の設計を始めたナナを眺めていた。
「……」
「……」
「ふふふ」
ナナが笑っている。
そして――
「シュッ、シュッ、シュッ」
藁半紙の上を、ペンがものすごい勢いで走っていく。
「……すげぇな」
「何だか楽しそうだな」
ミィナも少し引き気味に眺めている。
「ふふふ……ここをこうして……」
ナナは止まらない。
「ナナ、大丈夫か?」
「はい。大丈夫です!」
即答だった。
「むしろ楽しくて仕方ありません!」
「そうですか……」
俺とミィナは顔を見合わせた。
◇
どうやらナナは、測量も普通の方法ではなかった。
「ここから……」
ナナが目を閉じる。
すると、周囲を確認するように少しだけ顔を動かした。
「この辺りが少し低いですね」
「分かるのか?」
「はい」
「どうやって?」
「スキル……でしょうか」
「でしょうか?」
「私にも詳しい原理は分かりません」
『魔法かスキルの可能性が高いです』
「アイも分からないのか」
『これまで確認した能力と同様、この世界では魔法として認識されている可能性があります』
「なるほどな」
ナナは地面の高低差を把握しているらしい。
しかも、それを頭の中で立体的に捉えているようだ。
「ここは少し高い。ここは低い。ここに水を通せば自然に流れる」
そして、それを藁半紙へ一気に書き込んでいく。
「まずは道。次に上下水道。そして住宅地。ここは商業区。こちらは工房区。農地はこの辺りを残して……」
みるみるうちに、村全体の姿が変わっていく。
「すげぇ……」
俺は思わず呟いた。
今まで俺たちは、一つずつ必要な物を作ってきた。
だがナナは違う。
最初から町全体を見ている。
◇
「ここまで完成しました」
ナナが一枚の藁半紙を建築士へ渡す。
「ありがとうございます」
建築士は受け取った設計図を見る。
「この区画なら……」
今度は建築士が別の紙に書き始める。
「住居は三階建てにするか……いや、四階でも……三階の方が建設しやすい。しかし人口を考えると……」
二人で悩み始めた。
「なあ、誠」
ミィナが小声で言う。
「あれ、必要なのか?」
「俺もそう思う」
俺はアイを見る。
「アイ。あんな建物、本当に必要なのか?」
『恐らく、人口増加を見込んでいるものと思われます』
「人口増加か……」
『現在の人口だけを基準にすると、将来的に建て替えが発生する可能性があります』
「なるほど」
今、平屋を作る。人が増える。狭くなる。
壊す。新しく二階建てを作る。また人が増える。また壊す。
「それなら最初から三階や四階にしておいた方がいいのか?」
『長期的には、その可能性があります』
「時間も資材も無駄にならない」
『はい』
「なるほどな」
俺には思いつかなかった。
◇
ナナはさらに設計図へ書き込んでいく。
「ここに倉庫。こちらには宿。市場はこの位置。商人の荷馬車がここから入って……荷物は倉庫へ。人は市場へ。なるほど……」
俺は見ているだけだった。
だが、どんどん町の形が出来上がっていく。
「……」
『誠様』
「何だ?」
『言いづらいのですが』
「嫌な予感がする」
『レンガのさらなる増産を推奨します』
「……」
「まじか!?」
『はい』
俺は設計図を見る。
確かに、建物が多い。
家。宿。倉庫。工房。市場。
そして、おそらく公共施設。
「これ、かなり大規模じゃないか?」
『はい。当初の想定より、かなり大規模になる可能性があります』
「やっぱりか……」
『当初の想定よりも、かなり大規模に――』
「言い直さなくていい!」
『失礼しました』
俺は頭を抱える。
「レンガ……今でもかなり作ってるよな?」
『はい』
「それでも足りない?」
『現状の生産量では不足する可能性が高いです』
「……」
「焼き窯を、もう一つ作るってことか?」
『はい』
「分かった」
俺は諦めた。
「村の職人に伝えてくる」
『推奨します』
「なんか最近、俺の仕事が発注係になってないか?」
『適材適所です』
「便利な言葉だな……」
◇
俺はレンガ職人のところへ向かう。
「おーい!」
「誠殿か。どうした?」
「窯をもう一つ作りたい」
「またか?」
「町の設計が始まった」
「おう」
「思った以上に大きくなりそうだ」
職人は少し考える。
「……なら、窯を増やすしかないな」
「そうだな」
「レンガも増やす」
「頼む」
「U字溝もか?」
「……」
俺は少し黙った。
「たぶん」
「はっはっは!」
職人が笑う。
「忙しくなるな!」
「だな」
俺も苦笑する。
町の設計図が一枚できるたびに、必要な物が増えていく。
でも――それは同時に、町が少しずつ形になっている証拠でもあった。
「ナナが設計して、建築士が建物を決めて、村人が材料を作る。俺は……」
『発注係です』
「言うな!」
村に笑い声が響いた。
町を作るための準備は、少しずつ――いや。かなりの勢いで進み始めていた。




