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9 出発準備


 翌朝。

 俺は第6パーティーの3人と塔前広場の市場にいた。


「出発前の買い出しだ。各人、必要なものを調達してくれ」


「バナナねッ! 人数分のバナナね!? もちろん、あたしが全部食うわ!」


 お猿っ子グノンがマッハですっ飛んでいった。

 あの様子ではあいつの分の水と食糧も買い込んでおいたほうがよさそうだ。

 無論、ここでいう食糧にバナナは含まないものとする。


 さて、棍棒を持っていたグノンはともかく、ギンジェロウは見たところ丸腰だ。

 サムライは湾曲した剣――カタナを使う。

 しかし、ワキザシすら見受けられない。

 これから塔の中層域に行くのだが……。

 そもそも論、ペンギンの翼に武器を握る力があるのだろうか。

 ギンジェロウ――謎多き御仁だ。

 グノンよりは賢そうだから、放っておいてもいいと思うが。


「すごいな。これぞ潤沢な予算!」


 朝日に煌めく小金貨を見つめて俺は感動の念に打たれた。

 今回の冒険のためにギルドから授けられたものだ。

 仲間の分まで自腹で買わされていたマドルギス時代が嘘みたいだ。

 ちなみに、俺は生まれて初めて金貨に触りました。

 なんて素敵なんだろう。


「わぁー! トラッシュハルトさんが塔を見上げて目を輝かせています! なんて冒険熱心な方なんでしょう!」


 などとシエが俺を見上げて目を輝かせています。

 陽光に金貨をかざして悦に入っていただけのボンビー冒険者です、なんて口が裂けても言えません。


「シエ、精算書の書き方を教えてくれるか?」


「はいっ! わたしが手取り足取りお教えします! わたし、こう見えてトラッシュハルトさんの先輩さんですから!」


「……ほほう」


 この後輩感あふれる天使に先輩属性まで付与されていたとは。

 だいぶ尊いな!





「へえ。グノンとギンジェロウはCランカーなのか。トップギルドって最低でもBからってイメージだが」


「わたしたちは4人ともCランカーってことですね! でも、お二人とも、実力はAランカー相当だって豪語されてますよ!」


 シエとそんな話をしながらショッピング。

 楽しい時間がすぎるのはあっという間だ。


「グノンさんは奔放すぎて、ギンジェロウさんはペンギンなので昇級試験を落ちまくっているんです」


「無念にござる」


 戻ってきたギンジェロウが下唇、もとい下くちばしを噛んだ。

 その隣で、バナナを房ごと抱えたグノンが、


「あたしはランクなんてどうでもいいわ。ランクじゃバナナは買えないって言うでしょ?」


 と誰も知らないマイナー格言を吐いている。


「実力が確かなのはいいことだな。俺はご覧の通りの雑魚だから、大いに頼らせてもらうよ」


「トラッシュハルトさんは雑魚じゃありません! つよつよですっ!」


 俺を全肯定した後、シエは頬に指をあてた。


「そういえば、トラッシュハルトさんのポジションはどこなんですか? さっき、剣を売ってボウガンを買ってましたよね?」


「そうだな」


 このパーティーは問題児揃いだが、俺以外の3人はちゃんと強みを持っている。

 グノンとギンジェロウは曲がりなりにもトップギルドの戦闘職だ。

 相当な使い手なのは間違いない。

 シエにはヒーラーとしての役割がある。

 しかし、俺には何もない。

 ただ、人より多くのスキルを持っているだけだ。


 トルネライトはそんな俺に一体何を期待したのだろう。

 その答えは辞令に書いてあった。


 ――リーダーだ。


 パーティーの統率者。

 この問題児たちをまとめ上げる司令塔の役割を俺に期待しているのだ。

 よって、全体を見渡せる後方がベスト。


「俺のポジションは後衛――射手シューターだ。リーダー兼荷運び(ポーター)でもある」


「え、でも、ポーターって……」


「ああ、荷物持ちしかできない落ちこぼれのジョブだ」


 実際、俺は落ちこぼれだ。

 足を引っ張る自信しかない。

 でも、ポーターという職は俺のスキルと相性がいい。

 スキルには道具に関するものも多いから。

 背負った荷の分だけ、トルネライトの言うところの「可能性」を広げられる。


「でも……」


 シエは少し不満そうだ。

 俺にパーティーの花形――エースアタッカーを期待しているのだろう。

 俺だってそうなれるなら、なりたい。

 だが、俺にその才能はない。

 できることをするだけだ。


 そのためにも、こいつらの手綱を上手に握らないと。

 そう思ったそばから、


「あたしがリーダーよ! ついてきなさい!」


 さっそくグノンが暴走開始。

 さすが俺。

 手綱さばきまでゴミっている。


「だ、ダメですよ!? グノンさん、和を乱すのは」


 シエが抱き着いて止めるが、馬力が違いすぎる。

 そのまま引きずられていく。


「待ってくれ、グノン」


 と俺。


「なに? 説教ならぶん殴るわよ!」


「説教なんかじゃないさ。むしろ、お前にとても魅力的な提案がある」


「なら、さっさと言いなさいよ。あたし、3秒しか我慢できないから、グズグズしてたら殴るわよ? アンガー・マネジメントってやつよ!」


 怒りで相手を急かすことをアンガー・マネジメントとは言わねえよ。

 不機嫌ハラスメントだ、それは。


 俺はこほん、と咳払い。

 大仰に言う。


「パーティーリーダーである俺の権限で、グノンを戦時特別攻略隊長に命じるものとする」


「戦時、特別……攻略隊長?」


 グノンの頬がほのかに赤らみ、鼻の穴が広がった。

 かっこよさげな単語をテキトーに並べたからな、食いつくと思ったよ。


「ダンジョン内で魔物と遭遇したときにのみ、指揮権をお前に委ねる。俺は戦闘音痴だしな。これはグノンにしかできないことだ。頼まれてくれるな?」


 強い目で頼み込むと、グノンの瞳孔がくわっ、と開いた。

 その奥で喜色が揺れている。


「し、仕方ないわね! わかったわ! あたしが戦時特別攻略隊長よ! 戦いが始まったら、あんたたち絶対あたしに従うこと! わかったわね!?」


「はいっ、グノンさん!」


「拙者も異論ござらん」


 これで戦闘時以外は俺の指揮に従ってくれるはずだ。

 戦闘音痴なのはガチだから、俺の指揮でパーティー全滅というシナリオも消えた。


「んふふ! あたしは戦時特別攻略隊長! 早く戦闘にならないかなあーっ! んふふ!」


 俺が塔へと歩き出すと、グノンは尻尾の先で棍棒をぶんぶん振りながら機嫌よさげについてきた。


「すごいですっ! 誰も手に負えなかったグノンさんがトラッシュハルトさんに従ってくれてますよ! トルネ姉さんの言葉にも従わないのに!」


 シエがまたキラキラを飛ばしてくる。


「ご機嫌取っているだけだ」


 俺みたいな底辺冒険者には目上の方の機嫌を取るスキルが求められる。

 神与ではなく技術がな。


 だが、とうの上位冒険者たちは逆だ。

 彼らはとても誇り高く、決して他人におもねったりしない。

 グノンの奔放な振る舞いを決して許しはしないだろう。

 俺のリーダー像が少し見えてきた気がする。


 そんなわけで、


「『星風の団』第6パーティー、これより中層未攻略区の探索を開始する!」


「おぉーっ!」


「出陣でござる」


「このバナナ、んまいわよ! 見なさいよホラ! 見るだけなんだからね!?」


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