8 波乱の自己紹介
早くも窓ガラスを失った俺の自室を出て、ギルド本部のフリースペースに場所を移す。
羽なし・輪なしの白髪天使。
猿っぽいダイナミック窓割り少女。
しゃべるでかいペンギン。
そして、『ゴミ山』の俺。
テーブルを囲むのはそうそうたるメンバーだ。
もちろん、悪い意味で。
「……」
「………………」
「…………」
「……」
いや、雰囲気まで悪くない?
ギルド本部がだだっ広いせいか、静寂に重さを感じて息苦しい。
「なんだかみんなテンション低いな。ほら、登場シーンはけっこうノリノリだったじゃないか。出落ち感すごいぞ。特に、そこの小猿」
新パーティーの顔合わせだぜ?
アゲていこうぜ、と俺は今だけ陽キャオーラを放出する。
「誰が小猿よ!」
とお猿っ子の調子が上を向く。
「あんな殺気浴びたら誰だってテンション下がるわよ!」
「あんな殺気? ……ああ」
一瞬なんのことかわからなかったが、トルネライト団長殿が吹かせた突風のことか、と思い至る。
まだ引きずっていたのか。
姉がすみませんっ、とシエがテーブルに釘でも打ち込む勢いで頭をブンブンやっている。
「で?」
がつん。
お猿っ子がテーブルにかかとを乗せた音である。
椅子の前足を浮かした後ろ体重の姿に、早くも問題児臭が香っている。
「これ、なんの集まりよ? あたしの配属先、決まったわけ?」
「新設された第6パーティーにな。今日から俺たち4人は家族も同然ってわけだ。よろしく」
「素敵ですねっ! まずは自己紹介からしませんか!」
「あたしはグノン・アッフェアープ。グノンでいいわ」
お猿っ子が気だるげに言う。
皿のような耳と、太くて長い尾。
尻尾の先で8の字を描いているのは木製の棍棒である。
このビジュアルからして、
「猿系の獣人か」
「そ。好きなものはバナナよ。それ以外のすべてが嫌いだわ」
副団長より極端な好き嫌いである。
殺すを連呼しないだけマシだが、グノンの場合、無言で棍棒を振り下ろしてきそうなおっかなさがある。
「ポジションは魔術師よ。氷結魔法と植撃魔法を使えるわ。もちろん、近接もいけるわよ? 好きなものはバナナよ」
「二度も言わんでよろしい」
いわゆる殴り魔術師か。
そして、棍棒ではなく、魔杖鎚と。
遊撃手に向いていそうだ。
「趣味を当ててやろう。他人の部屋に窓から入ることだな? がっちゃああんん、って」
「違ッがうわよ! 趣味はバナナに決まっているじゃない!」
こんな奴だが、みてくれは悪くない。
でかい耳による小顔効果のおかげだろう。
パーティーに美少女が2人もいるなんて、俺は果報者だ。
マスコットのペンギンも今ならセットでついてくるぞ。
「拙者は名乗るほどの者ではござらん」
一人、床に正座しているデカペンギンが瞑目したままそう言った。
こいつが一番異質だ。
ただでさえ得体が知れないのに、名乗らないとなると怖いしかない。
「あー、もう少し何かないか? ポジションとか」
「ム。前に出ることを好む。拙者は逃げも隠れもせぬ。いざ尋常に勝負」
「あー、志望するジョブは?」
「剣士……否。サムライでござる」
サムライ。
というと『黒の塔』が建つという海洋国家の剣士か。
「…………」
「……」
「………………」
なぜペンギンなのか、当然説明があるものと思っていたが、ペンギン氏は黙秘の構えだ。
3人分の期待はあえなく裏切られた。
ちなみに、辞令には「ギンジェロウ/男」と記されている。
よろしく、ギンさん。
「皆さんっ! よろしくお願いいたします! わたしはシエロマリア・フーヴェントです! 治癒術師です! 頑張りますっ! 一緒にパーティーを盛り上げていきましょう! おぉーっ!」
シエが小さな拳で天を突いた。
一挙手一投足がマジ天使。
しかし、こんな様子のおかしな連中に平然と挨拶できるとは、意外と豪胆でもある。
「最後にリーダーの俺だな」
俺は立ち上がって一同を見渡した。
シエのキラキラお目目に下から照らされながら、スッと息を吸い込み、
「俺は――」
「名乗らなくてもいいわ。知ってるもの」
グノンが胡乱な目で横槍を入れる。
「あんた、『ゴミ山の虎』でしょ?」
ぐは。
転職先に悪評が伝わっているの辛いな。
リセットしてやり直すという選択肢がさっそく消えてしまった。
しかも、虎とかいう謎の尾ひれが付与されているという。
キッ、とギンジェロウが片目を開ける。
「拙者も存じているでござる。なんでも、不遇のSランクスキル持ちとか」
ペンギン界隈にまで知れ渡っていたか。
「誤解ですっ! トラッシュハルトさんは素晴らしい方なんです! 超一流の冒険者なんですぅ!」
俺の評判がいいのは天使界隈だけと。
それすら誤解という。
「あんたみたいな雑魚がリーダー? あたしは認めないわ。なぜなら、あたしがそう思ったからよ!」
なぜならをロジック以外に用いるな、小猿。
「拙者も風の吹くまま気の向くまま、たださすらうだけにござれば。そも、群れるなど性に合わぬでござる」
こっちは、もはや、なぜギルドに所属しているのか不明だ。
さすが問題児……。
と思ったが、この反応は当然かもしれない。
俺が今ここにいるのはトルネライト団長の勘によるものだ。
2人を納得させる要素を俺は持っていない。
俺自身、自分にリーダーが務まるなんて思っていない。
自分すら納得していないのだから、他人を納得させるなんて不可能だ。
才気ある彼らのことを思うなら、正解はひとつ。
俺がこのギルドを去ることだけだ。
「……でも、まあ、少し様子見かしらね」
グノンが組んだ腕の向こうから難しい表情を投げかけてくる。
「あんた、ダンチョーの殺気を浴びてもケロっとしてたじゃない。それも真正面からぶちかまされたのに。どんな神経してんのよ?」
「拙者も底知れぬものを感じ申したでござる」
小猿とデカペンギンが熱い視線を向けてくる。
「保留ってことにしておいてあげるわ」
「右に同じ。虎と呼ばれる所以、見極めさせてもらうでござる」
「でも、覚悟なさい。ゴミだと判断したら速攻切ってやるわ」
「暗君討つべし」
わぁーっ、とシエが可愛らしく拍手する。
「パーティー始動ですねっ! お二人もすぐにわかりますよ! トラッシュハルトさんの素晴らしさがっ! ねっ!? トラッシュハルトさん! そうですよね!?」
「お、おう……」
団長よりたまわったありがたい辞令には、こいつらと塔の中層域未攻略エリアを探索・マッピングせよ、とある。
先が思いやられる。
なにより危惧すべきは、この中で一番の無能が確実に俺ということだ。
「トラッシュハルトさんっ! 頑張りましょうね!」
「お、おう……」




