10 再戦のコボルターズ
大きな荷を背負い、動きは鈍重。
そぞろ哀れを催すその姿から、ポーターはこう呼ばれている。
「早くしなさいよ、このカーメ!」
冒険者の世界は非情だ。
優しさの欠片もない。
のろまな亀に歩幅を合わせてくれる殊勝な奴はシエくらいのもので、ポーターなんてやっていると仲間に罵られる日々が普通になる。
そんなときにはスキルの出番だ。
《背負った荷をちょっと軽くするスキル》
《筋力を少し強化するスキル》
《息の乱れをちょっと整えるスキル》
《荷の揺れを少し抑えるスキル》
ゴミと呼ばれるCランクスキルでも重ね掛けすればそれなりのものだ。
「よっよっ、ホイ!」
「な……!? 亀のくせにこのあたしを抜いてんじゃないわよ!」
白亜の階段を軽々と駆け上がる俺に、グノンが猿みたいにブチギレ、ここに競争が始まる。
「発動! 《動きを少し鈍くするスキル》!」
「ぬぬムムム……ムキイイィィ!」
デバフをかけると、怒り狂った猿が背嚢にしがみついてきた。
重い……。
俺は背負った剣を抜くような仕草で、背嚢から丸めた地図を引き抜いた。
「現在地はここだ。まだ、第1層の入り口付近だな。目標とする中層域ははるか上の第3・第4層。団長の話では、このポイントに秘密の抜け道があるらしい」
俺が指でなぞったところに光の線が引かれる。
《指で光る線を引くスキル》という、そのまんまのスキルだ。
「面妖な技にござるな」
ギンジェロウが眉をひそめ、
「とっても便利なスキルですねっ! さすがトラッシュハルトさんです!」
シエがパチパチパチと拍手喝采を送ってくる。
「市場でスキルを選りすぐっておいたからな」
俺のスキル《神与収集》は周囲にいる人のスキルを集めるというもの。
周囲に人がいないダンジョン内ではスキルが更新されにくい。
だから、入塔前に役立つスキルをどれだけ溜められるかが最初の勝負になる。
「どうせゴミでしょ?」
フンとグノンが鼻を鳴らす。
「そうでもないぞ。使い方次第だ」
俺はグノンの顔の前でサッと指を振った。
光の粒子が目を覆い、
「ちょ、ふぎゃ!? な、なにも見えないじゃないのぉ!?」
とまあ、このように目潰しにも使えたりする。
そんなスキルが100個もあれば、俺にもできることはあるはずだ。
白塗りの迷宮を進んでいると、不意にピンときた。
俺は鋭く指示を飛ばす。
「警戒してくれ! 《敵が近くにいると1/3の確率でピンとくるスキル》でピンときた!」
「……あてになるんでしょうねぇ?」
グノンの白い目が痛い。
「トルネライト団長のスキルの劣化版と考えてくれていい。要は、勘だ」
「……あてになるんでしょうねぇ?」
「二度も言うなよ……」
「あてになりますよ! そもそもトラッシュハルトさん自体あてになりますっ!」
「ご両人、どうやら班長殿の言は正しいようでござるぞ」
ギンジェロウの巨体の向こうに白い影が踊る。
石器を持った、二足歩行の犬。
コボルトだ。
5体。
目の周りがただれているのを見るに、先日俺の唐辛子バブルを食らった連中らしい。
「ギギイイイイッポオオオ!」
「ギャッギ! ギギポオ!」
コボルトたちも俺に気づいた。
地団駄を踏んで、激昂している。
よし、戦闘は避けられそうもないな。
「任せた! グノン隊長!」
「プッキイイイイ! キタキタキタァー! あたしの出番よッ!」
メイスを振りかぶってグノンが突っ込んでいく。
「総員突撃ィ! 戦時特別攻略隊長のあたしに続きなさい!」
まさかの総突撃。
具体的な作戦なし。
グノンは壁を走り、天井の突起を掴んで回転。
敵の直上から強襲をかけた。
あんなのに続けねえよ……。
野生児め……。
メイスがコボルトの頭をスイカみたいに割り、
「《アイザー・リット/下級氷撃》――!」
氷の矢がコボルトを壁にめり込ませる。
グノンは天井の柱に尻尾でぶら下がり、コボルトの頭部を鷲掴みにした。
そのまま、宙に吊り上げ、握力だけでブチュゥッ!
と握り潰す。
「なによ、きったないわね。おえェ……」
「拙者も負けてはおれぬ!」
残り2体。
ギンジェロウが刀を抜く感じで両翼を広げた。
「抜刀《ペンギング・ブレード/変銀化翼刃》!」
翼が淡い光を帯びて、銀色に変わった。
そして、ギンジェロウの姿がブレた。
銀の閃光がコボルトと交錯。
両刀を振り抜いた姿で立つギンジェロウがつぶやく。
「――二刀流奥義《ペンギング・クロス/変銀刀十字》」
ざばああ、と。
コボルトが残骸と血の雨に変わる。
猫系の獣人族が使う武技に《魔爪》というものがある。
魔力を束ねて爪とする技術。
それに似たようなものだろう。
翼を魔力でコーティングし、刀としたのだ。
「なんと歯ごたえのない。岩より軟弱なものは斬るに味気のうござる」
二人とも馬鹿強い。
「俺の出番なしだな」
「わたしもですっ! またトラッシュハルトさんとお揃いですね!」
シエがすごく嬉しそう。
変な奴。
◇
「モヤモヤしているな」
「モヤモヤしてますっ!」
「モヤモヤしてるわねッ」
「モヤモヤにござる」
白の塔内部は空間がねじれているらしい。
そのせいか、たまに「穴」があいている。
空間の穴だ。
たいてい、どこか別の場所に繋がっていて、うまく使えば離れた地点に一瞬で移動できる。
みんな転移門とかゲートとか呼んでいる。
モヤモヤして見えるからモヤモヤと呼ばれることもある。
それが俺たちの目の前にある、――コレ。
出口のない空間に繋がっていたり、魔物の巣窟に飛ばされたりと恐ろしい罠でもある。
ノリと勢いで飛び込んだきり帰って来なかった奴もごまんといる。
安全に利用できるゲートは極少数。
そういったゲートは一部の上位ギルドの専有物になっていて、その位置情報は最高機密に指定されている。
「ここに飛び込めば、一瞬で第3層らしい。俺、ゲート初めてなんだよな」
「わたしもです! またお揃いですねっ!」
「で、誰から行くのかしら? あたしは慎み深いから譲るわよ?」
「拙者はしんがりを務めたく存じる」
「ファースト・ペンギンって言葉知ってるか?」
「拙者はしんがりを務めたく存じる」
譲り合い……否、押し付け合いが生じる。
なんと浅ましい。
仲間だろうがァ。
みんなで同時に行くぞ。
おら、手ェ繋げ。
という感じで、俺たちは中層域に飛び込んだ。




