45 凱旋
宝物殿は階層主の間の地下にあった。
水位が引いて初めて入ることができる構造になっていた。
中の様子を一言でたとえるなら、そう……。
ギラギラしていた。
黄金の夕日を眺めている感じだ。
この世の贅のすべてを集めたような金銀財宝の山野で、俺たちは金貨の雪合戦や延べ棒のかまくら作りを思う存分楽しんだ。
トルネライトのヒャッハー姿を目に焼き付ける栄誉を賜り、特にガーファスが泣くほど喜んでいた。
宝物殿のお宝はギガンポスが100人いないと持ち帰れない規模だった。
これらは組合のほうで運び出してくれるらしい。
確実に誰かがネコババするだろう。
それすら広い湖のごとき心でゆるしてしまえそうなほど金銀財宝はうずたかく積まれている。
「これ、水魔じゃないよな、じゅる……」
「おい、貴様! さすがにグヘヘ、不謹慎だろ! 殺すぞヒッ!」
「金に目をくらませるとはサムライに非ず」
「ギンジェロウさんっ! 黄金の刀もありますよ!」
「ム! 拙者、それ欲しいでござる!」
「なんでバナナがないのよッ!?」
「トマドもないヴぉ……」
「ガッハッハ! 金の盃、発ッ見だぜえ!」
「忍法、金貨手裏剣だYO! YEAHHHHH!」
「ヒャッハー!」
かくして、白の塔から戻った俺たちは何百という冒険者に出迎えを受けた。
隠密行動を徹底していたわけだが、すでに周知の事実になっているあたり、さすが地獄耳だ。
冒険者ほど屋根に向いていない人種はいないだろう。
あっちこっちから情報ダダ洩れ。
雨漏りしすぎで、リビングで傘が入り用になる。
『星風の団』の名声がまたひとつ上向いたことは喜ばしいことではあるが。
うちのお猿がおだてられるままにご祝儀をバラまくので、ギルド本部まで凱旋パレードが続いた。
王都中のバナナを買い占めると息巻いていたグノンだったが、背嚢の中身をバラまき尽くし、朝起きたら金庫の中身がカラになっていた大富豪みたいな顔でぽつねんとたたずんでいる。
高い勉強代だな。
ギンジェロウは金の王冠をかぶり、一日限りの金ジェロウを謳歌している。
サムライ感はないな。
「がしいいー!」
翡翠宮の扉を開けると、冷たい目のたんぽぽみたいな奴が飛びついてきた。
そういえば、こんな奴もいたな。
ゾフィオーネだ。
団章付きの服を着ているのは、ちゃっかり『星風の団』のギルド職員の座に収まったからだ。
「私ぃー! トラッシュハルトさんならぁ! 必ず成し遂げてくれると思ってましたぁー! お帰りをお待ちしていたんですよぉ? ちゅぴぃ!」
「ちゅぴぃ、じゃあるか。離れろ」
「ンゴぉ……!?」
《鼻フックの成功率を少し上げるスキル》でたんぽぽを除草する。
「お帰りをお待ちも何も、お前、何も知らずに待ちぼうけくらってただけだろ」
ゾフィオーネには階層主討伐作戦の情報は伝えられていない。
いかにもな口軽女だからな。
情報を掴んだのは、ついさっきってところだろう。
「出迎えるなら裸エプロンにしろ。やり直せ」
「はあ? きっしょ、キモキモ! でも、出世株だし、懐も温かそうなのでカッコイイかもです! やっぱりトラッシュハルトさんって私的にはアリっちゃアリなんですよねぇー」
「俺的にはナシ一択だよ」
庭掃除でもしてこい。
シッシ。
「あれ、トラッシュハルトさん……」
ゾフィオーネが目を丸くした。
まじまじと俺を見上げている。
「なんだか少し背が伸びました?」
「身長ならずっと停滞期だ」
「じゃあ、人として成長したってことじゃないですかねー。男になったってことですよぉ」
ゾフィオーネはニチャアと笑って指を絡めてきた。
「実は今私ぃ、一流ギルドのスタッフとして過ごしつつ陰で暗躍、トルネライト団長を蹴落として、私の旦那をギルマスに据えるって計画を画策しているんですけどぉ、トラッシュハルトさんは今のところ私の旦那さん候補の筆頭でぇーす!」
その計画、見通しのアホさに同情を禁じ得ない。
俺がお前の旦那になるルートなど存在しないし、よしんば、トルネライトが失脚したとして、俺が船頭をやれば船が地中に埋まるぞ。
「まあ、頑張れ」
なんの野心も持たない仙人みたいな奴よりはきっと仕事に精を出してくれるのだろう。
とまあ、こんな具合に、愛しのマイホームに戻った俺たちは、口々に、ただいまーとか言ったのだった。




