31 中央神殿・再訪
「すごいな、これは」
中央神殿を見上げ、トルネライトが息を呑む。
その横顔がハチャメチャ美人なのはともかく、討伐隊はついに決戦の地を踏みしめていた。
「ガッハッハ! 本ッ当に中央神殿だぜえ!」
「ベリーベリーゴイスーだYO! フゥフー!」
「ヴぉ! ヴぉお!」
名だたる英傑たちが幼子みたいに飛び跳ねている。
「ミーたちもココ、来ようと頑張ったYOねー。キャプテン・トルネが行ける気がするって言い出してさ!」
「ガッハッハ! あんッときだなあ! ヤツダイルの頭を飛び石にすりゃ行ッけんだろってよお! マッジでけっこうイイ線いったんだよなあ! しっかも普ッ通に泳いで帰ってきやがってよお!」
「ヴぉ! ヴぉお!」
それはぜひ見たかった。
さぞかし人間離れした動きだったことだろう。
「誰もが憧れた景色だ」
トルネライトも神殿を見上げて歓喜している。
濡れた彼女は大変に色っぽくていらっしゃる。
「はい。まったくです、団長……」
ガーファスなんて神殿を全然見てない。
トルネライトだけを一心に見つめ、その顔は酒噴蛸みたいに赤々している。
が、それが怒りの赤に変わって俺に降りかかった。
「おい、貴様! なぜ《速乾性を高めるスキル》など使った!? 殺すぞ!」
「そこは俺も猛省中だ。団長といい男には水がしたたっていたほうがいいのにな」
「おい、貴様! その通りだ! でも、貴様は団長を見るな! 殺すぞ!」
「少し歩こう」
というトルネライトの提案に全員が乗る。
広大な湖の中央にそびえる白亜の巨城。
その華やかなたたずまいに反して、ここには俺たちの足音を除けば波の打ち寄せる音しか聞こえない。
二度目の俺としては感動より不気味さがいささか勝っていた。
幽霊屋敷を数千倍のスケールにしたと言えば伝わるだろうか、この肌寒さが。
「ねえッ! ボス戦いつ始まんのよぉ! 早く挑むわよ!」
神殿見学ツアーはお猿には退屈な催しだったらしい。
グノンが俺の背嚢にセミみたいに張り付いてミンミンし始めた。
「ボス戦はトゥモローだYO! 今日は周辺調査だYO!」
さらに重くなったと思ったら、ガンヴァーナが張り付いてヨー、ヨーしている。
お前ら、荷物ごと投棄するぞ。
ワニが待つ水面にな。
どばああああああんん、と巨大な影が宙に躍り出る。
影龍だった。
その圧倒的スケールは神殿に向いた関心をすべて引っぺがして釘付けにした。
「あんな感じで、白の塔にはいろんな奴がいるからな。ボス戦の障害となりうる脅威を調べ、あらかじめ取り除く必要があるんだ。それが今日やることな?」
わかったかね、グノン君。
だがまあ、さすがに、あの巨大モンスターを倒すのはボス戦並みに手間がかかるだろう。
影龍のみ目をつむろう。
「あいつが階層主という可能性もあるのか?」
俺は誰にというでもなく問う。
「BOSSが複数体いる階層もあるYO! 区画主って可能セイもあるネー! 乳首ズバアアアア!」
俺の胸を突然手刀が横薙ぎにした。
ノリが寒くてだるいガンヴァーナが、butと続ける。
「デンシンやセキイーのプッマーはたいてい階層主の間にBOSSがいるもんだYO! YEAH!」
神殿や遺跡のマップでは、階層主はたいていボス部屋にいる、と。
それもそうか。
えらい奴というのは特別な場所にふんぞり返るものだ。
トルネライトだって立派な団長椅子を持っている。
しかし、だ。
だとしたら、あのざっばんざっばんしている巨大ドラゴンは一体なんだろう。
考えてもわかるわけがないのだが、神のごとき直感なら、この疑問の答えを知りうるのだろうか。
そう思い、チラリと視線を投げかけてみるも、トルネライトはすでに本丸を見据えていた。
まあ、神殿には入って来られないようだから、ほうっておいても差しさわりはないと思うが。
無視するにはデカすぎる部外者なんだよな……。
頭から水しぶきを浴びながら、俺は苦笑した。




