表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/46

30 違和感とドアノック


「ん?」


 件の遺跡が近づいてきたところで、俺は誰にも聞こえない程度の戸惑いを口にした。

 だというのに、だいぶ先を行っていたトルネライトが引き返してきて、こう言う。


「何か感じたようだな、ハルト」


 地獄耳……否、直感か。

 ご神託が下ったということは、俺が覚えたこの違和感にはきっと大いなる意味があるのだろう。


 俺は少し声を落として、


「今、新しいスキルが更新された感触があって。どうも近くに冒険者がいるみたいですよ」


 全員の目が鷹のように研ぎ澄まされる。


「ちなみに、どんなスキルだ?」


「《指をパキッと鳴らす音を遠くまで届けるスキル》です」


「そうか。君のスキルは便利だな。Cランクスキル持ち限定だが、探知魔法のように機能する」


 そう言うトルネライトの顔には不気味な笑みが張り付いていた。


「そのスキルの持ち主には心当たりがある」


「団長、例の5人組でしょうか」


 チッ、とガーファスが舌打ちした。

 この分だと、その持ち主氏は歓迎すべからざる人物なのだろう。


「うむ。『支役咲花シャークサッカー』のチュー・サングレーに相違あるまいな」


「『コバンザメ』のチューか……」


 その名は俺も知っている。

 上位ギルドにくっついて、おこぼれを狙う小物冒険者だ。

 とはいえ、Aランカーなので、俺みたいな木っ端冒険者からすれば雲の上の御仁である。


「たまたま居合わせた……ってことはないよな。尾行されているなら、まきます?」


 言っていて、それが難しいのはわかる。

 追跡系スキルをまくのは容易なことではない。


「……いや、無理にまく必要はないだろう。競合相手は常にいるものだ」


 トルネライトの返答には一瞬の間があった。

 それはきっと天啓を授かるための時間なのだろう。

 神がおうおっしゃるなら、俺も異論はない。

 でも、


「《足跡の向きを逆にするスキル》発動――。ささやかですけど嫌がらせしておきましょう。連中、ここで犬みたいにぐるぐる回りますよ、きっと」


「君は愉快なスキルを持っているな!」


 ハッハッハ、とトルネライトが腹を抱えて笑うので、俺は少しホッとした。

 あんなことがあった後だけに。


 トルネライトは軽やかな足取りで一行の先頭に戻った。

 ガーファスは残っている。

 何かモジモジしているが、なんだろう。


「おい、貴様」


「なんだ貴様」


「礼を言っておく。団長の笑顔を見られた。僕はだいぶかなり滅茶苦茶極めてすごく嬉しい。だから、貴様みたいなゴミにもマガマカクの毛1本分くらいの感謝をしてやる。……ありがとう」


 それと殺すぞ、と付け加えて、ガーファスも先頭に戻った。

 一途な奴だな。


「しかし、競合相手がいるのか。なんとなくわかってはいたが……」


「一発勝負ってことですよね……」


 シエが小さく喉を鳴らす。

 中央神殿へのルートが知られれば、千客万来だろう。

 いずれ誰かが階層主を討つ。

 これが最初で最後のチャンスかもしれない。

 こんな場面で笑えるのだから、


「シエのお姉さんは強いな。世界一」


「わたしもそう思いますっ!」


 シエの笑顔は夏の日射しを振りまく白天井よりずっとまぶしかった。





「ここだ」


 と俺は水を吐くモヤモヤの前で足を止める。

 遺跡の狭い通路には討伐隊一同がみっちり詰め込まれている。


「ゲートの向こうは水中だ。暗いうえに流れがあって、おっかないワニさんがうじゃうじゃしている」


「そうか。さっそく行こう」


 トルネライトは逡巡さえしなかった。


「ガーファス、ドアをノックしてくれ」


「はい、団長。先方にたっぷり挨拶させてもらいます」


 ガーファスがそう言って杖を構える。

 杖の先はゲートにまっすぐ向けられている。


「えっと、……え?」


 何やってんだ、こいつ、と俺は首をかしげる。

 ガーファスも胡乱な目をしている。


「おい、貴様! そこをどけ! 殺すぞ?」


「杖なんて何に使うんだ?」


「貴様は馬鹿か? 杖は魔法を放つのに使うものだろ」


 俺はなぜゲートに魔法を放つのか疑問に思っているわけだ。

 はあ、とガーファスはドでかいため息をつく。


「知恵のある魔物はゲートのそばで待ち伏せするんだ。こんな見え見えの罠に引っかかるようなマヌケを狩るためにな。おい、貴様のことだ!」


 そのマヌケが我が班には4人いるわけだが、ガーファスが睨んでいるのは俺だけである。


「なるほど。峠に出る山賊や海峡に現れる海賊と同じか」


 ボトルネックは狙い目だ。

 この場合、ゲートと。


「そういう、――ことだ!」


 凄まじい閃光が網膜を焼いた。

 雷撃魔法。

 光の濁流はすべて空間の穴に吸い込まれていった。


「こんなものだろう」


 しこたまブチ込んでからガーファスは杖を引き上げた。

 薄闇の中、しばらく水の音だけが通路に響く。

 その中に、――ぼどん。

 8本脚のワニが吐き出された。

 蜘蛛鰐ヤツダイルだ。

 脚をピクピクさせているのは感電したからだろう。

 そんなのが次々に排出される。


「安全性を確認できないゲートを通るときは事前にたらふく魔法を食わせておくんだ。これをドアノックという。そんなことも知らないのか貴様? 殺すぞ?」


「家主ぶっ殺してからお邪魔するとか、ドアノックじゃねえよ、そんなもん」


 少なくとも、俺たち下位ランカーの間にそんなエチケットは存在しない。

 魔力量に余裕がある上位ランカーにのみ許される贅沢だ。


「さすが攻略ガチ勢。やり方がえげつない」


 合理的とも言える。

 しかし、やはりえげつないって表現がぴったりだ。


「ギンジェロウ、家主の安否確認をしてきてくれ」


「承知!」


 その間に、俺は討伐隊一同にスキルを重ね掛けした。


「《撥水性を高めるスキル》と《速乾性を高めるスキル》、それと、《水の中でモノがよく見えるスキル》だ」


 今回のために、水に関するスキルを集めておいた。

 役立ててくれ。


「君のスキルは面白いな」


 トルネライトがポニテを団子にまとめたところで、ギンジェロウが戻ってきた。


「ワニどもは皆、討ち死にしてござった」


「ならばよし! ――行こう、諸君!」


 ギンジェロウを差し置いて、団長自ら水を吐く奈落の穴に飛び込んでいった。

 俺たちは大いに鼓舞されながら、その背中を追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ