29 トップランカーの戦い方
階層主討伐作戦の最大の敵は、同業他社と言われている。
つまり、ライバルギルドだ。
情報が洩れて先を越されることもあるし、あと少しのところまで追い込んだ階層主の首を横からかっさらわれることもある。
最悪の場合、背中を撃たれることも……。
人間にとって最大の敵は常に人間なのである。
とまあ、そういうわけで、我々討伐隊は時刻をずらしてギルド本部を出発した。
ショッピングでも楽しむふうを装い、町を歩き、その流れでふらりと入塔。
白の塔の中で落ち合う。
「道中、すれ違う冒険者がみんな敵に見えましたよ」
「うむ。秘密を持つ者にとって、他者はそれを狙う強盗のようなものだ」
「おい、貴様! 尾行されていないだろうな? 殺すぞ!」
「尾行者をか?」
「貴様ごと殺してやる! 僕は団長の邪魔をする奴を殺すためだけに生まれてきたんだ!」
「妙なキリング・マシーンに付きまとわれて団長も災難ですね」
「まったくだ」
トルネライトを先頭に、白の塔を進む。
てっきり一番下っ端の俺たちが露払いを務めるものと思っていたが、肝心の露どもが勝手に蒸発していく。
トップ冒険者の一団が放つ渦とも風とも言えぬ何かが雑魚どもを圧している。
コボルトたちはこちらを一目見るや、蹴られた犬みたいに逃げ出していった。
戦わずして勝つのが真の強者か。
俺が100人いても真似できんな。
ゲートで一足飛びに第3層の密林地帯に飛ぶ。
鬱蒼とした緑と降り注ぐサンシャインでギンジェロウが早くも死にかけの魚みたいに痙攣している。
ここにいる禍魔猿たちは下層のコボルトと違って、好戦的だ。
「キギャアアアアアアアアアアア!」
と人を絶妙にイラつかせる咆哮を上げ、木の上から石やら枝やら青いバナナやらを投げ落としてくる。
そのうちのひとつが、トルネライトの靴にコツンと当たった。
ぷっちーん。
……いや、そんな可愛いものじゃない。
ガーファスがブチギレた。
キレすぎて逆にフリーズしている。
ヤバいと見たか、デッガードナーが大盾を振りかぶった。
「おいごらあ! 猿ども下りてこいやあ! ――どッらあッ!」
大盾をぶん投げる。
盾は巨大なブーメランと化して木々を薙ぎ倒した。
猿の雨が降っている。
なんだろう、これ。
俺の知っているタンクの戦い方じゃない件。
「ヴぉ。トマドら。トマド降っでぐるヴぉ」
『巨腕』のギガンポスが落ちてきたマガマカクを巨大な手でまとめて鷲掴みにした。
「ヴぉ? よぐ見だらトマドでねえヴぉ。そんなら、おめえトマドさなれ」
ぐぐぐ、……ばちゅ。
マガマカクたちが真っ赤に弾ける。
「トマドぉ。トマドトマドぉ。ヴぉトマドだあ」
握っては潰し、握っては潰し……。
その単調な作業の中でマガマカクたちが急速に数を減らしていく。
緑だった密林はトマト投げ祭りの会場じみた散らかり具合になっている。
さしものマガマカクたちも、これには肝を潰したようだ。
我先にと樹上に逃げていく。
が、安全な高いところに登ったはずの個体から順番に、糸が切れたように落ちてきた。
枝から枝へ黒い稲妻みたいなものが走っている。
俺のゴミみたいな動体視力では視認すら困難だが、
「YEAH! 《シノビック・ブレード/忍刀》だYO!」
などと言っているから、ガンヴァーナなのだろう。
上は忍者祭り、下はトマト祭り。
吹き荒れる殺戮の嵐の中を逃げ惑うしかない猿たちには同情しかない。
心なしか、グノンも耳と尻尾を縮こまらせている。
「おい、貴様ら! 邪魔だ! 殺すぞ!」
熊が吼えたような怒声。
発したのはガーファスだった。
杖が赤く明滅した。
次の瞬間には樹上が真っ赤になっていた。
常夏の第3層に秋が来たのかと思った。
頬に熱波が押し寄せてこなかったら、あと10秒くらい紅葉シーズンだと勘違いして行楽に興じていたかもしれない。
それほどまでに、見える範囲すべての緑が火炎に包まれていた。
炎撃魔法。
それも聖級に格付けされるとびっきりおっかないヤツだ。
「くそが」
ガーファスはまだ気が晴れないのか、腹立ちまぎれに遺跡を蹴っている。
団長の命運をかけた大事な作戦だ。
気がはやるのはわかる。
だが、もう少し穏便に願いたい。
みんなビビってるから。
「それにしても、これがSランクギルドの戦闘かー。すげー」
俺は能天気な野次馬みたいなことを言った。
すげー勉強になる。
一挙手一投足が教科書だ。
俺たちもそれなりに連携が取れるようになってきたつもりだが、さすがに精鋭たちは動きが違う。
学んでも活かせそうにないくらい次元が上だな。
「なあ、ギンジェロウ、お前の踏み込みはまだ甘いんじゃないか?」
「拙者もそう思っていたところにござる」
「グノン、お前はお馬鹿だ」
「あたしはお馬鹿だわ」
「シエは迫力に欠けるな」
「はい、皆さんを見ていると迫力不足を痛感します! すごいです! 皆さんっ!」
「俺は貫禄がな」
「ござらんな」
「ないわね」
「ありますよっ! 足りてないだけで!」
俺を全肯定するシエにすらこう言わしめるとは、さすがトップギルドの猛者たちだ。
練り歩く英傑たちの後ろ姿には数万の正規軍にも勝る頼もしさがある。
「今のところ、俺たちは金魚の糞だ。絶対爪痕残すぞ」
「ファイトですっ! おぉー!」
「あたし、トマト嫌いなのよね! バナナ祭りだヴぉッ!」
「拙者もライサムのスピリッツがうずくでGO-ZARU!」
若干名、影響されちゃってる奴もいるが、まあ、「学ぶ」の語源は「真似ぶ」らしいから、いいか。
殺すぞっ!




