28 討伐隊
そして、出発の朝。
俺はゾウの群れに囲まれていた。
ゾウどもは一見人間の姿をしている。
しかし、どいつもこいつも人間と呼ぶにはあまりにも強大なパワーを秘めている。
それがひしひしと伝わってくる。
中にはゾウを遥かに超えた超大なる力の持ち主もいて、俺にはドラゴンに見えているわけだが、まあ、アレだ。
要するに、討伐隊の面々が一堂に会しているわけね。
場所は翡翠宮・中庭。
秘密保持の観点からも大々的な出陣式とかエイエイオーとかできないが、こうしてそうそうたるメンバーが集まるとビッグプロジェクトが稼働中なのを実感できる。
ついでに、俺がそのそうそうたるメンバーの中で一番小物だってこともな。
「ハーイ! あんたが……じゃない。こほん。ユーが噂のトレジャーマウンテン?」
トルネライト団長の短くもありがたい挨拶が終わると、見慣れない顔の女冒険者が声をかけてきた。
平たい顔だ。
どこかギンジェロウと同じ匂いがする。
獣臭いとかではなく、異国の文化に染まって背伸びしている感じの痛い匂いだ。
「あたし……じゃなくて、ミーはガンヴァーナだYO! ファスガーのティーパーでジャーレンYOってるヤー!」
「なるほど、ガーファスのパーティーでレンジャーやってるYOなヴァーナガンさんか」
「そこはフツーにガンヴァーナだYO……」
ガンヴァーナといえば、トップパーティーには珍しい二つ名を持たない冒険者だ。
サムライの国の出で、元々は「クノイチ」なるスパイをやっていたと聞き及んでいる。
そのほかの情報は一切なし。
謎多き人物だが、トップ冒険者の一人には違いない。
「第6パーティーのリーダーをやらせてもらっているトラッシュハルト・オルデュールだ。よろしく」
「ユー、ゴイスーだね! キャプテン・トルネに直接スカウトされたってリッスンYO! それもいきなりダーリーティーパーだってね。ミーもユーには期待してるYO! 乳首ツーン!」
両乳首をツーンとされた。
スパイと呼ぶにはあっけらかんとした人物だ。
「へえ、お前が話ッ題の超新星かあ」
巨大な盾を亀の甲羅みたいに背負った戦士が、珍しい小動物でも見るみたいに俺を覗き込んだ。
「オレはデッガードナーってんだあ。よろッしくな!」
ほう。
筆頭パーティーのタンク役、『鉄亀』デッガードナーか。
ギルド本部でたまに見かけることはあったが、顔を合わせるのは初めてだ。
盾持ち全員の憧れと称えられる人物だけあって、堂々たるたたずまい。
思わずヘコヘコしてしまうところだった。
「よろしく。俺は――」
「トマドぉ食べヴ?」
「おおお……!?」
大柄なデッガードナーの背後から、さらにデカイ奴が現れた。
マジでゾウ級。
山みたいにデカイ。
巨大な手になぜかトマトを握っていて、グチャン、グチャンと咀嚼音を立てる大口も赤々している。
「トマドぉ。なあ、おめえトマド食べヴか?」
「い、いや……」
「馬ッ鹿。受け取っとけえ。お前がトマトにされっぞ」
「じゃ、じゃあ……」
デッガードナーが冷や汗垂らしながら言うので受け取って置く。
リンゴみたいに大きな、それはもう立派なトマトだった。
「『巨腕』のギガンポスさんか。よろしく……」
王都にいる何万という冒険者の中でも超がつくほどの有名人だ。
名乗られるまでもなく知っている。
目立つしな。
ガーファス率いる次席パーティーで前衛を務める、巨人族の拳闘士。
肩に鳥が留まっているから、たぶん優しい奴なのだろう。
「あらためて、個性派揃いだな。このギルド……」
「ガッハッハ! そうッだろうなあ! 塔のてっぺん目指してる連ッ中にまともな奴ぁいねえのさあ!」
デッガードナーは豪放にして磊落に笑った。
「でもよぉ、みんな腕ッ利き揃いだぜえ? そんで、お前もその一員だ。まあ、頑張ろうやあ」
そうか。
そうだな。
了解。
スター冒険者と比べて縮こまったって意味はない。
俺は俺なりの全霊を尽くす。
大事なのは、それだけだ。
俺は肩の力を抜いて白の塔を見上げた。
隣で同じように上を向いている奴がいる。
シエだ。
こっちはずいぶんと肩に力が入っている。
「トルネ姉さんはあの人が来ると、いつも辛そうにしているんです」
ベギアード中爵のことか。
「わたし、トルネ姉さんには笑っていてほしいんです」
かつて、白の塔に一人で挑んだシエ。
実績が欲しいとか言っていたが、それもひとえに姉のためだったのだろう。
トップランカーの姉と肩を並べるために。
その望みは叶った。
シエは討伐隊の一員として階層主に挑む。
そして、絶対失敗する。
大きなヘマをやらかす。
髪の毛をぶわっと逆立てて真っ赤な顔で塔を見上げる姿を見れば、一目瞭然だ。
「シエ」
俺は猛る小さな肩にそっと手を置いた。
「誰かに笑ってほしいなら、まずは自分からじゃないか?」
気負いすぎはよくないぞ、と瞳で伝える。
「トラッシュハルトさん……」
肩からすっと力が抜けていった。
目だけは強い力を秘めたまま、シエは大きな笑みを浮かべた。
「はいっ!」




