27 秘密会議
第4層の階層主討伐に向けた準備が秘密裏に、着実に進んでいた。
『星風の団』ギルド本部はひっくり返された蜂の巣みたいに忙しい。
しかし、団長のトルネライトに普段と変わったところはない。
豚に凌辱された事実など微塵も感じさせないクールビューティーで指揮を執っている。
階層主を討ち、宝物殿のお宝を借金返済に充てる。
討伐作戦が失敗に終われば、当然その目論見もパーだ。
失敗はイコール身の破滅。
それでも気負わずにいられるのは、彼女にとってこの程度の修羅場は何度も乗り越えてきたからだろう。
失敗が許されないなんて、いつものこと。
どんな困難も踏み砕いていくのがSランカーなのだ。
そして、それはこれからも同じ。
トルネライトの快進撃は続く。
誰にも止められない。
止めさせてはならない。
豚の肉欲のはけ口にするなんてもってのほか。
と、ガーファスも考えているらしい。
彼は気負っている。
何かに追い立てられるような気迫、焦燥感、苛立ち、緊張……。
団長へのいろいろな想いが綯い交ぜになって混沌としているようだ。
そういった感情は、ときにマグマのように噴き出し、ときにカミソリのように周囲を切りつける。
度を越した懸命さが良くも悪くも団員に伝播していた。
トルネライトが普段通りに振る舞っているのは、そんな浮足立つ団員を律するためかもしれなかった。
そうして、『星風の団』はほどよい予熱に包まれていた。
「――討伐隊の構成は以上だ」
トルネライトは凛とした声でそう締めくくった。
数種の魔法と稀少な魔道具、高位のスキルで厳重に守られた地下防諜室。
これでも諜報系スキルによる盗聴を100%防ぐのは難しいらしい。
秘密の作戦会議は、なんとなく誰かに見られているような違和感を抱えたまま佳境に差し掛かっていた。
「団長麾下の筆頭パーティーが参加するとはいえ、3パーティー構成ですか。階層主に挑むにしては小勢ですね」
ガーファスが眉をひそめた。
階層主戦はギルド総当たりが基本だ。
複数ギルドで連立を組むこともある。
3パーティーはたしかに少ない。
少数精鋭なら、まだいい。
だが、討伐隊には俺率いる第6パーティーのポンコツどもが含まれている。
精鋭? なにそれ、って感じ。
ゴミが座長の、ペンギンと猿のアニマルショーだ。
唯一の救いは天使がいること。
だいぶ尊い。
「うむ。これで十分と判断した。私の勘がそうささやくのだ」
「さすがです、団長! きっとうまくいきます! 団長の勘がそうおっしゃるなら!」
「そこはこう、副団長として戦力のより一層の拡充を諫言するとかしないのか、あんたは」
俺は太鼓持ち眼鏡に白い目を向ける。
未だ正体すらわからない階層主を倒そうってんだ。
戦力は多いほどいいだろう。
「おい、貴様! 団長を諫める言葉などこの世界のどこにも存在しない! むしろ僕が団長に諫められたい! わざと馬鹿なことをして叱責を食らってやろうか?」
「あきれられるだけだぞ?」
「おい、貴様! それは嫌だ! 絶対に嫌だぞ! おい!」
じゃあ、もうちょっとシャキっとしてくれ。
とはいえ、第3~第5パーティーは高層域に長期出張中。
呼び戻して編成に加えているうちに、ほかのギルドに先を越されるかもしれない。
スピード感が大事だ。
「ハルト」
組んだ両手の上にシャープな顎を乗せてトルネライトは俺を見つめた。
「君にとって初めての階層主戦だ。パーティーメンバーを預かる身として不安を感じるのはわかる」
まさかまさか、不安だなんて。
俺は実力と身長を足したよりプライドが高い人間なので、女子の前で不安そうな顔は見せませんよ。
特に、美女の前では。
「だが、私はね、君がいることに安心感を抱いているのだ。なぜなら――」
トルネライトの瞳がファセット・カットされたエメラルドみたいに煌めいた。
「階層主を倒すのは君だと思っているからだ、ハルト」
またまたー。
と俺は冷やかそうとした。
だが、瞳の圧力がそれを許さなかった。
机の向こう側ではガーファスが小さくうなだれていた。




