22 返答
『星風の団』ギルド本部・翡翠宮――。
表門に面した通りにはガヤガヤと野次馬が集まっていた。
そりゃそうだ。
Sランギルドの前でCランギルドの面々が整然と正座させられている光景は、妙な笑いを催す。
いちおう、ギルマスのマドルギスだけは立っている。
だが、絵ヅラ的には立たされている感じだ。
先生に怒られた男の子みたいな、丸まったデカイ背中がなんとも情けない。
対するは、我らが大将トルネライト。
ただ立っているだけなのに場を圧する空気を放っている。
たぶん、この人は俺たちより生物として上位なんだと思う。
割と本気でそう思う。
そして、毛色が違う奴がもう一人。
ゾフィオーネだ。
なぜか決闘立会人みたいなポジションに収まっている。
まあ、組合職員なのでギルド間トラブルの仲立ちをするのは仕事の内なのだが、存在感としては立会人というより道端のたんぽぽ。
ピリついた場に引き攣った笑顔を添え、凍りついている。
「えー、本日はァ……お日柄もよろしくゥ、そのォーあー、さきほども申し上げたようにィ、ワタクシどもはァえー、そちらにいるトラッシュハルト君様をォお迎えに来たんだァ、ですハイ」
マドルギスが泣きそうな顔でそう切り出した。
トルネライトと向き合い続ける度胸はないらしく、目を背ける感じで俺と向き合う。
途端に威勢のよさを取り戻すマドルギスである。
「単刀直入に行ってやらァ! 『ゴミ山』、うちに戻ってこい!」
「こっちも単刀直入に言おう。嫌だと」
「えェ!? そいつァなぜだ?」
「え、逆になぜ戻ってくると思ったんだ?」
「あァ、ええっとォ……」
マドルギスはもともと頭が弱い。
中身の入ってなさそうなデカイ頭をしきりに捻っているが、ろくな答えは出てこないようだった。
「だって、お前はオレらの仲間だったろォ?」
「ああ。そして、追い出された。こっぴどくな」
「そのへんはあれだろォ? いつまでも根に持つもんじゃねえよ。宇宙の、その、大きな流れから言えば、その、小っせえことだろォ?」
「そうかもな。だから、俺も別に気にしちゃいない。役に立てなくて悪かったと思っているくらいだ」
「じゃァ戻ってこいよ! 今度こそ役に立てよ、おめえよォ!」
話はすんだとばかりに俺を引っ張っていこうとするマドルギス。
無論、話などついていないので、俺は非力ながら抵抗する。
「マドルギス……とか言ったか? 君はハルトをゴミだと判断したから手放したのだろう」
「団長のおっしゃる通りだ! さしずめ、名を立てたこいつを惜しく思い、連れ戻しに来たのだろう。いまさら浅ましいぞ。殺すぞ!」
トルネライトとガーファスが声を上げると、悪党ヅラの巨漢がまたショボくれた。
「こいつはもう僕らの仲間だ」
一瞬ガーファスに親しみを覚えた俺だったが、
「殺すとしたら僕らだ!」
気のせいだとすぐに判明。
「……い、いい加減にしやがれェ!」
ずっとプルプル震えていたマドルギスがついに牙を剥いた。
部下の手前、弱っちい振る舞いはできないのだろう。
「殺す殺すってなんだよォ? 命はひとつだろ! 簡単に殺すとか言うんじゃねえ! みんな誰かの子で、誰かの友で、殺されていい人間なんて一人もいねえんだよォ!」
まさかのド正論である。
これには、ガーファスも何も言えない。
「それによォ、身の振り方を決めるのはトラッシュだろうがァ! 冒険者は自由だ! トラッシュを自分のもんみてえに言ってんじゃねえよ!」
これも一見、正論である。
しかし、俺の自由意思を無視して拉致ろうとしたのはマドルギスよ、お前である。
「いかにも決めるのはハルトだ」
トルネライトの静かな言葉で、熱していた場が常温に戻される。
そして、俺に集まる無数の視線。
「決めるのは、俺か」
大袈裟なことだと思った。
俺が『星風の団』をブッチして、いまさら古巣に戻るわけもないだろうに。
そのへんは神のごとき直感がなくてもわかるはずだ。
訊くまでもないんじゃないか?
「トラッシュハルトさんっ、行かないでください!」
がしっ。
天使みたいな子が俺の腰付近にタックルしてきた。
シエである。
脇の下からマドルギスたちを一生懸命睨んでいる。
「トラッシュハルトさんはわたしたちの大切なリーダーさんなんですっ! すっごく頼りになる人なんです! 連れて行かないでくださいっ!」
「よく言ったわ、シエ! そうよ、こいつはあたしたちものよッ!」
ガシッ!
頭付近にはグノンが猿っぽく飛びついてくる。
「あたしが一番好きなのはバナナよ! で、こいつは言うなればバナナの木なのよ! つまり、そういうことよッ!」
どういうことだよ……。
人間にもわかるロジックで頼む。
「拙者も黙ってはおれぬでござる」
大きな背中が壁のように反り立った。
「班長殿をよこせと申すなら、このギンジェロウ、壮絶なる立ち合いを所望するでござる」
そこは平和裏にいこう。
気持ちは嬉しいがな。
「そういうわけだ。俺はこのギルドでやっていこうと思う」
と俺は肩をすくめた。
「俺を『宝の山』と呼んで頼ってくれるのは世界でここだけだからな」
「おい、貴様! 僕は宝の山などと呼んだ覚えはないぞ! 頼ってもいない!」
「うるさいぞ、眼鏡君」
今のは俺ではない。
トルネライト団長だ。
ガーファスの耳をつまんで引きずっていくが、とうの眼鏡君はどこか嬉しそうだ。
「さあ、そういうわけだ諸君。帰りたまえ。一度は掴んだ宝を諸君らは手放した。もうハルトは私たちのものだ」
去れ、と。
静かな、そして、刃のような声がそう告げた。
王都に5人しかいないSランク冒険者様に凄まれては大の男たちも退かざるを得ないようだった。
「ぐぬぬ……。覚えてろよォ」
マドルギスがうなり、手下どもも息巻く。
「そうだそうだ。オレたちに恥かかせやがって」
「マジで覚えてろよ! 痛い目見せてギャゥあ!?」
ごつん――!
マドルギスのゲンコツが手下の脳天を捉えていた。
「違うだろォ! この悔しさを覚えておいて次に活かすんだろうがッ! 逆恨みしてんじゃねえよ、ドチクショーどもがァ!」
「す、すいやせん、頭ぁ……!」
マドルギスは全員分の頭頂部にゲンコツを配った後、俺に太い人差し指を向けてきた。
「おいッ! ゴミや……宝の山ァ! オレたちゃ、マジで上ェ目指してっからなァ! 追い抜かれてから戻ってきたくなっても遅せえぞォ! 後悔させてやらァ!」
「そうだぜ、ギャハハ!」
「吠え面かかせてやらァ!」
「バァーカ、バァーカ!」
「ギャハハハハハァ――ッ!」
「おらァ、てめえら! そうと決まりゃ高層域を目指すぞ! 今月の目標は第3層でマガマカク3頭の討伐だァ! 出発準備急げェ――ッ!」
「「オオオオオオオォォォォォッ!!」」
こっちに一礼してから騒々しく去っていく悪漢たち。
「なんというか、君の元同僚は変な連中だな」
いつもクールなトルネライトも意表を突かれたって顔である。
「こうして見ると、あいつらはあいつらなりに頑張っていたんですね」
去っていく背中を見送っていると、ふと、そのひとつが自分の背中に見えた。
何かひとつ違っていたら、俺もあの中にいたのかもしれない。
だが、今、俺はここにいる。
仲間たちに求められ、ここにいる。
きっとそれがすべてであり、答えなのだ。
「負けてられないな。こっちも次の冒険に向けて打ち合わせといきますか!」
「はいっ! トラッシュハルトさん!」
「茶菓子はバナナにしなさいよッ!?」
「拙者はスシが食いとうござる」
いつか俺もSランカーになる日が来るのだろうか。
塔を見上げてふと思った。
想像もできない。
俺は根っからのCランカーってことだろうな。
それでも、こいつらと一緒なら高層域だって行けてしまう気がする。
仲間たちに頼られて、ここのところ毎日が楽しい。
彼らにふさわしいリーダーになれるように頑張らないとな、などと思いつつ、俺はギルド本部に引き上げるのだった。
次話から新章です。
よろしくお願いします。




