20 帰還報告
「よくやってくれた」
俺の顔を見るやトルネライト団長はそう言った。
ギルド本部最上階・団長執務室には、ほかに副団長ガーファスとシエの姿もある。
「君を入団させた私の判断に間違いはなかったようだ」
白の塔から本部に直帰。
さっそく団長に報告をと疲れた体に鞭打ってやってきたのだが、トルネライトはすでにすべてを知っているような顔で俺たちを迎えていた。
神から直感でも授かったのだろう。
でも、いちおう報告はする。
「――そんなこと信じられるか!」
俺の報告が終わるやいなや、副団長ガーファスが執務机をぶん殴った。
眼鏡をくもらせるほどいきり立っている。
「中央神殿のマッピングに、影龍の全貌模写!? 嘘をつくな! どちらもこれまで誰も成しえなかったことだぞ! 貴様のような新入りにできるわけないだろ!」
「いいや、ハルトは嘘などついていない。報告にあることはすべて事実だ。私の勘がそう告げている」
「おい、貴様! すごいじゃないか! よくやった! 素晴らしいの一言に尽きる! 大手柄じゃないか! だが、貴様! 僕は認めないぞ! でも、さすが団長です! 団長はさすがだ!」
「相変わらず、うるせえ眼鏡だな……」
心の中で言ったつもりが、全部声に出ていた。
ギロッとレンズの向こうからすごい目が飛んでくる。
面倒くせえ奴。
「期待以上だ」
トルネライトは組んだ手の上にシャープな顎を乗せ、満足げな顔で俺を見つめている。
「それはどうも」
『天啓』と呼ばれるトルネライト団長の想定をわずかにでも上回れたのなら、俺としても嬉しい。
「トルネ姉さんっ! トラッシュハルトさんはすごかったんですよ! 問題児揃いのパーティーをちゃんとリードしてくれて! とってもかっこよかったですっ!」
問題児の一角を担うシエがぴょんぴょん飛び跳ねながらそうおっしゃる。
「わたし、パーティーリーダーを誤解していました。トルネ姉さんみたいに先頭で引っ張る人のことだと勝手に思っていました。でも、トラッシュハルトさんは違いました。一番後ろで見守っていてくれて、どんなときでも冷静に導いてくれて、困ったときには寄り添ってくれて、すっごく頼もしかったんです!」
このべた褒めっぷりよ……。
自己評価とかけ離れているから、誤解だと言いたくなる。
「うむ。我が『星風の団』は私のようなエースアタッカー型のリーダーばかりだからな。ハルトのリーダー像は新鮮だったことだろう」
トルネライトは少しバツが悪そうにしている。
「みな、私の真似ばかりで困る。同じリーダー像は同じ結果しか生まない。私は少し反省しているんだ。各班のリーダーたちに個性を求めてこなかったことを」
「そんなことはありません団長! でも、団長がおっしゃるなら、まさにその通りかと! どうか反省なさってください! 反省をなさるなんて団長はすごい! おい、貴様! 団長ほどのお方でも反省されるのだ! 貴様はもっと反省しろ! 生まれてきたことを悔い、もう死ね! 殺すぞ!」
ホントやかましいな、この眼鏡。
「君もひと回り大きくなって帰ってきたようだね、ハルト」
「そうです?」
「私の目に間違いはない」
「おい、貴様! 団長の目を疑う気か!? 貴様はどう見てもひと回り大きくなって帰ってきただろう! 腹立たしいことだ、まったく! ふざけるな貴様!」
自分の大きさがどんなものかは知らない。
でも、ギルド本部までの帰路、通り慣れた大通りの景色がいつもより鮮やかに見えた気がする。
第4層・中央神殿に続く転移門確立。
長年謎とされていた影龍の全貌を暴く。
目に見えた成果があると、自然と顔も上を向くものだ。
「でも、一番の成果は仲間との絆を得られたことですね。俺一人じゃ第4層なんてたどり着くこともできませんでした。仲間との相乗効果って感じですかね」
そう言うと、エメラルドの瞳が明るさを強めた。
「そうだ。その慎み深さこそ我がギルドに欠けているものだ。ハルト、君のおかげで我々はまた一段と強くなれる」
「そうですかね?」
「おい、貴様! 団長のお言葉を――」
「ガーファス、うるさいぞ」
「はい、団長! 僕はうるさいです! 気づかせてくださるなんて、団長はさすがです! なんてすごいんだ!」
ともかく、あれだな。
俺みたいな雑魚にトップギルドの、それもパーティーリーダーなんて務まるかと不安に思ったが、それ自体、俺の誤解だったようだ。
トルネライトが俺に求めているのは、これまでにないリーダー像。
俺には最初からリーダーらしいリーダーをやる必要などなかったのだ。
俺は、俺らしく。
我が道を行けと彼女は背を押してくれているわけだ。
なら、そうさせてもらおう。
どうせ俺には強いリーダー像とか向いていない。
誰も見向きもしないゴミ山の中に秘宝を見出せるような、そんなパーティーリーダーを目指していこう。
「もって、第6パーティーは実用に足ると判断された。これからもよろしく頼む」
差し出された手を握り返す。
この瞬間、初めて俺はギルドの一員となれた気がした。
シエが嬉しそうにパチパチと拍手を添えてくれた。
俺も嬉しい。
「ハルト、今回はご苦労だった。感謝する」
「……感謝、ですか」
冒険者をやっていて感謝されたのは初めてかもしれない。
いや、チラホラ感謝くらいされていたと思うが、自分の中で納得できる感謝は初めてだ。
「どういたしまして」
俺は照れ臭さを噛み殺しながら、小さめの声でそう答えた。
窓の外に見える塔の白さが、いつになくまぶしかった。




