19 クソデカ作戦会議
「さて、現状を整理してみよう」
と、俺は一同を見渡す。
シエがパチパチと可愛い手で拍手し、グノンは護岸からワニに石を投げて猿みたいに爆笑、ギンジェロウは静かに正座しサムライの風格を漂わせている。
「俺たち第6パーティーの現在地はココ、第4層・中央神殿だ。ご覧の通り、馬鹿でかい湖のど真ん中で、馬鹿でかいドラゴンと無数のワニさんたちに行方を阻まれている」
「そうですねっ! 脱出不可能で絶体絶命、一巻の終わりです!」
「サムライはただ散るのみ」
「ま、いずれ散るにせよ、今回頑張った分のご褒美はもらわないとな。なんせ俺たちは前人未到の中央神殿をマッピングしたんだ。無事帰れれば大ニュースになるぞ」
「で、どうやって帰んのよ?」
スイカ大の石材を投げ込んで水柱を立てていたグノンが核心に踏み込んできた。
「湖を渡るのは不可能だろう。よって、俺たちに残された唯一の退路は、ここに来たとき通ったゲートに入り直すことだ」
ゲートは基本的に双方向になっている。
来られるということは、帰れるということ。
「問題はあいつらだな」
下でバチャバチャやっている8本脚のワニ。
蜘蛛鰐――。
水中にあるゲートに飛び込むには奴らが邪魔だ。
「押し通るでござる!」
「それしかないだろうな」
「トラッシュハルトさんのことですから、すごい作戦があるんですよねっ!?」
「すごいかどうかは不明だが、考えておいたぞ。作戦会議だ。耳を貸してくれ」
「サムライはコソコソせぬでござる」
「ということなので、ここはあえてクソデカボイスでいこうッ! ワニさんたちも聞いてくれえ! これからお前たちを倒す方法を話し合いまあーす!」
「見なさいよ、ホラ! あたしが投げた岩、直撃したわよ! キキキキキッ!」
「グノン君ッ! 話を聞くようにイー!」
◇
というわけで、開けっ広げな作戦会議が終わり、イチニのサンで俺たちは動き出した。
開戦の銅鑼を鳴らすのは、この人。
「ブチ食らいなさい! 《アイザー・エリシュ/上級氷撃》ッ!」
高い護岸の上から特大の氷塊を叩き落とす。
餌が落ちてこないかと下で首を長くしていたヤツダイルたちが、透き通った落石を浴びて湖底に叩きつけられる。
周囲にいた奴らも凍った湖面に囚われ、身動き困難に。
そこに、
「《動きを少し鈍くするスキル》――!」
で俺が畳みかけ、
「我が名はギンジェロウ! いざ、推して参る!」
とダイナミックかつ美しい飛び込み姿勢でギンジェロウが斬り込んだ。
一人で大丈夫か!?
という俺たちの心配は一瞬で杞憂だと証明された。
ギンジェロウは水中戦のほうが得意らしい。
銀色に光る二刀が水中でぎらり、ぎらり、と閃く。
そのたびに、薄氷の下が赤黒く染まっていった。
低温と俺のスキルで動きが鈍ったヤツダイルたちは、水を得たペンギン侍になすすべなくナマス斬りにされていった。
と、この隙に荷物を担いで暗渠に駆け込んだシエが小さな手を鉄格子の隙間から振っている。
かわいい。
というのはさておき、荷の運び込み完了。
あとは逃げるだけだ。
「ギンジェロウ! 水路へ急げ!」
俺は《水中に声を届けるスキル》で、刃の渦と化した水棲サムライに合図を送った。
ボウガンと氷魔法でヤツダイルを牽制しつつ、水路へと飛び込む。
「面目ござらん! ワニどもめ、蜂の群れのように集まってござった!」
水路の暗い水から顔だけ出してギンジェロウがギリリとくちばしを鳴らす。
たしかに、サメの背びれみたいに目玉の群れが追いかけてくる。
ゲートがあるポイントまでは、もう少しだ。
「今は走れ!」
ぬかるんだ暗渠の、細い通路。
もうじきゲートがあるポイントだが、
「普通に追いつかれてるな……!」
「目が光ってて怖いですぅっ!」
「あたしが水路を凍らせるわ!」
「いや――」
水深もあるし、幅もそれなり。
流れもある。
すべてを凍結させるのは難しいだろう。
「それより妙案がある! グノン、そこの光る水草を大増殖させてくれ! 魔力、全部使っちゃっていいから!」
「アイアイサー! ――《ヘルヴァ・エリシュ/上級植撃》ッ!」
グノン渾身の魔法。
土下座でもするような姿勢で注ぎ込まれた魔力により、水底で揺れる水草が急激に繁茂、水面を持ち上げるほどに水路を埋め尽くした。
草原を疾走する馬も、草原が突然樹海に変わればその健脚は失われたも同然。
ヤツダイルたちは水草に絡まり、大渋滞を引き起こした。
「あそこですっ!」
光が強くなったおかげで水中のモヤモヤも見えた。
ゲートだ。
「ギンジェロウ! グノンを頼んだ!」
「頼まれ申した!」
俺は魔力切れでへろへろになったグノンを水路に突き落とした。
気分は死体遺棄。
俺もこれから後を追うから無理心中感もある。
「行くぞ、シエ! 全力で泳げ!」
「はいっ! トラッシュハルトさん!」
揃ってダイブ。
ゲートに流れ込む渦に乗り、体が沈んでいく。
そして、不意に、上下感覚を喪失。
自分という人間の形が失われ、細い管の中を流れるような錯覚の後、気づけば、俺は見覚えのある遺跡の通路に尻もちをついていた。
第3層のあの遺跡だ。
「か、帰ってこれましたぁ……」
「大冒険でござったな」
「あたし、腹減ったわ。誰かバナナよこしなさいよ。ひっかくわよッ」
「ひーふーみぃ……。おーし全員いるな」
第4層脱出作戦、成功だ。
俺たちは力なくグータッチを交わし合った。
モヤモヤの中に水草らしき光と、その前を横切る黒い影がいくつも見える。
どうやら向こう側では、まだヤツダイルが未練がましく泳ぎ回っているらしい。
「このゲートは『星風の団』で専有しないとな」
多少安全性に難アリで全身びしょ濡れになるが、第4層の中央神殿に向かう唯一の道だ。
「さて」
と、俺は気だるげに立ち上がる。
また水魔に襲われても面白くない。
マガマカクの群れも怖い。
とっとと第3層からも脱出しよう。
「帰りますか」
「ですねっ。もうへっとへとです」
「天然痩せバナナでもいいから食いたいわね……」
「拙者は刺身など嗜みたい気分」
というわけで、第6パーティーは帰路につくのだった。




