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第十三章 ティファニー・エターナルサークル・ラトル(2)

 そんなある日。〈琥珀〉にやって来たヒロが俺の顔を見るなり、

「イチイ。悪い」

 と言った。

「なにが」

 訊くと、後ろを指さす。

 ヒロの背後からのぞいた顔に、俺は思わず「げ」と声を漏らした。

 男みたいにキッパリしたショート、百七十三センチのすらっとした長身、そしてめったにないような中性的な美貌に浮かぶ不敵な笑い。

「ユミさん……。お久しぶりです」

 ヒロの姉さんだった。

 チラッとヒロを見ると、ゴメンというように手を合わせている。ヒロが謝るなんて、すごく悪い予感がする……。

 ユミさんはさっさとカウンターに座った。ヒロが首輪でも引っぱられているかのように隣に座る。ユミさんがジロリと俺を見た。

「イチイ。今、私の顔を見て『げ』って言わなかった?」

 俺は慌てて言った。

「いや、その……、ユミさんに会えて、つい感動の声が出ちゃいまして……」

「ふーん」

 まだ疑っているようなユミさんに急いでメニューを出す。

「なににしますか」

「〈ロンリコ151〉」

 ユミさんはメニューも見ずに注文した。

「はい」

 〈ロンリコ151〉は夕方六時の食事前に飲むような酒ではないが、俺はおとなしく出す。口答えなどしたらどんな目に合うか分からない。

 灰皿を出すと、「下げて」と手を振られた。俺はちょっと驚いてユミさんを見た。ユミさんはクスリと笑った。

「タバコは、もうやめたんだ」

「えっ!」

 一日四〇本以上吸うヘビースモーカーが、どうしたんだ?

「体の具合でも悪いんですか?」

「バーカ。これが病気もちの顔に見える?」

「……見えませんね」

 病気の人間が七十五・五度のラムを一気飲みするわけがない。俺はホッとしたような、残念なような気持ちで、〈ロンリコ〉のお代わりを注いだ。

「ヒロは?」

「えーと、とりあえずビール」

「バカじゃないの」

 ユミさんが間髪入れず突っこんだが、ヒロは聞こえないふりをしていた。生まれてから二十年間突っこまれ続けてきた弟の、これが唯一の防御方法なのかも知れない。


One day, Hiro came into “Kohaku”, took one look at my face, and said,

“Ichii. Sorry.”

“For what?”

When I asked, he pointed toward the back.

The face peered out from behind Hiro, and I involuntarily let out a sound.

“Ugh.”

A decisively short haircut like a man’s, a slender figure one hundred seventy-three centimeters tall, and a fearless smile on a rarely seen androgynous beauty.

“Yumi-san…. It’s been a while.”

It was Hiro’s older sister.

When I glanced at Hiro, he had his hands pressed together as if to say sorry. For Hiro to apologize—this gives me a really bad feeling…

Yumi-san briskly sat down at the counter. Hiro sat beside her as if he were being pulled along by a collar. Yumi-san glared at me.

“Ichii. Didn’t you just go ‘ugh’ when you saw my face?”

I hurriedly said,

No, well… seeing you, Yumi-san, a sound of excitement just slipped out…

“Hmm.”

To Yumi-san, who still seemed suspicious, I quickly handed the menu.

“What would you like?”

“’Ronrico 151’.”

She ordered without even looking at the menu.

“Yes.”

“Ronrico 151” isn’t something you drink before dinner at six in the evening, but I served it without a word. If I talked back, who knows what might happen to me.

When I set out an ashtray, she waved her hand.

“Take it away.”

I looked at her, a little surprised. Yumi-san gave a small laugh.

“I’ve quit smoking.”

“What?”

A heavy smoker who used to go through more than forty cigarettes a day—what happened?

“Are you feeling unwell or something?”

“Idiot. Do I look like someone who’s sick?”

“…No, you don’t.”

Someone who’s sick wouldn’t down seventy-five–point-five proof rum in one gulp. Feeling something like relief and disappointment, I poured her another drink of “Ronrico”.

“Hiro?”

“Uh… beer for now.”

“You idiot.”

Yumi-san snapped instantly, but Hiro pretended not to hear. Maybe this is the only defense of a younger brother who has been snapped at for twenty years since he was born.

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