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第七章 プリングルズ・チェダー・チーズ・テイスト(4)

 *

 目覚ましがうるさく鳴って、俺は強引に起こされた。めくらめっぽうに手を伸ばし、時計を探したが見つからなかった。

 そしてようやく気がついた。目覚まし時計なんて、うちにはない。鳴っていたのはケータイだった。ケータイは俺の足もとのほうに財布や鍵なんかと一緒に転がっていた。

 俺は表示も見ずに出た。

「イチイ?」

 サキだった。

 俺は黙っていた。

「どうしたの? 大丈夫?」

 大丈夫って、なにがだ? なんでサキがそんなことを訊くんだ?

「十五分経っても待ち合わせの場所に来ないから、どうしたのかと思って……。具合でも悪いの?」

「……今、何時?」

「七時十五分」

「夜の?」

「そう」

「ああ……。寝すごしたよ。すぐに行くから」

「じゃあ、ここで待っているね」

 俺の胸がざわりと騒いだ。

「サキ。今どこにいる?」

「どこって、橋の公園のところよ」

「十五分間?」

「うん……」

 俺はつい声を荒げた。

「そこにいちゃダメだって、何度も言っただろ! そこは暗いから、俺の姿が見えなかったらバス停のところにいろって」

「……ごめんなさい」

 俺は泣きたくなった。

「……いや。遅れた俺が悪いんだ。これから準備するから時間がかかる。だから先に家に帰っていてくれないか」

「分かった。ゆっくり来ていいからね」

「うん。じゃあ、あとで」

 起き上がって、ぐしゃぐしゃになった服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。下着のまま歯を磨き、水を飲んで、小便をする。それから新しいシャツとジーンズを着た。

 鏡に自分の顔を映す。一日分の無精ひげが生えているほかは特に変わった様子はない。酒はすっかりぬけていた。

 さっきの会話を思い返す。まるで夕べのことがなにもなかったみたいだった。サキはホテルに行かなかったし、俺もミワの部屋に行かなかった。そんな感じだった。

 昨日のなにもかもをなかったことにする。本当にそんなことができるかも知れない、そう思った。


*

An alarm blared, forcing me awake. I flailed blindly, reaching for a clock that wasn’t there.

Then I finally realized—there was no alarm clock in my place. The sound was coming from my phone. It was lying near my feet, scattered there with my wallet and keys.

I answered without even looking.

“Ichii?”

It was Saki.

I stayed silent.

“What’s wrong? Are you okay?”

Okay? What does she mean by that? Why would Saki ask me something like that?

“You were fifteen minutes late to the meeting place, so I got worried. Are you feeling sick?”

“…What time is it?”

“Seven fifteen.”

“At night?”

“Yes.”

“Oh… I overslept. I’ll head over now.”

“All right. I’ll wait here.”

Unease rippled through my chest.

“Saki. Where are you right now?”

“Where? At the park by the bridge.”

“For fifteen minutes?”

“…Yeah.”

I raised my voice without meaning to.

“I’ve told you so many times not to stay there! It’s dark—if you can’t see me, you’re supposed to wait by the bus stop.”

“…I’m sorry.”

I felt like crying.

“…No. It’s my fault for being late. It’ll take me a while to get ready. Could you head home first?”

“That’s fine. Take your time.”

“Yeah. See you later.”

I got up, stripped off my rumpled clothes, and took a shower. In my underwear, I brushed my teeth, drank water, and pissed. Then I put on a fresh shirt and jeans.

I looked at my reflection. Aside from a day’s worth of stubble, nothing seemed different. The alcohol was completely gone.

Thinking back on the call, it felt as if none of last night had happened. Saki hadn’t gone to a hotel. I hadn’t gone to Miwa’s place. That was how it felt.

Maybe we could make it as if nothing from yesterday had ever happened. I thought that might really be possible.

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