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第六章 ノキア6630(6)

「なにか言ったか?」

 私は顔を上げた。

「違うの」

 タカヤがいぶかしげな表情になる。

「なにが」

「今の人、友達じゃないの」

「へえ?」

 タバコの匂いも、声も、仕草も、なにもかもタカヤとは違う。そして私に対する想いも。

「今、つき合っている人なの」

 タカヤは目を細めて私をじっと見た。

「ごめんなさい。ここまで来て悪いんだけど、もうあなたとは終わりにしたいの」

 タカヤはふうっと煙を吐いてタバコを灰皿に押しつけた。

「そうじゃないかと思っていたよ」

「え?」

「ここ最近さ。なんだかサキの様子がいつもと違うから、もしかしてとは思ったんだけど、やっぱり新しい男ができたんだな」

「私、いつもと違うふうだった?」

「うん。なんだろう、休みの前になるとすごくウキウキしているっていうか」

 私はびっくりした。はた目から見てそんなに分かるほどだったのだろうか?

「そいつに惚れちまったのか」

 惚れた? さあ……。

「会って一ヶ月にしかならないからよく分からないけど、でも私をとても大事にしてくれるし、私も彼を大事にしたいと思うの。だから……」

 タカヤに嘘をつく必要はない。それがこの三年間で唯一の収穫だ。

「そうか」

 私がバッグを持って立ち上がると、タカヤも立ち上がった。

「お別れにキスくらいはしてくれるかい?」

「ダメ」

 タカヤはニヤリとした。

「残念だな。……三年間楽しかったよ。ありがとう」

「うん。じゃあ、さよなら」

 出ていこうとする私に向かって、タカヤは、おい、と声をかけた。私が振り向くと、

「明日の朝の会議、遅れるなよ」

 と言った。

「はい、課長」

 そしてドアを閉めた。


“Did you say something?”

I looked up.

“It’s not that.”

He gave me a puzzled look.

“What is?”

“The person just now wasn’t a friend.”

“Oh?”

Everything was different from Takaya—the smell of his cigarette smoke, the voice, the gestures. And what he felt for me.

“I’m seeing someone now.”

Takaya narrowed his eyes, studying me.

“I’m sorry. I know it’s late to say this, but I want to end things with you.”

He let out a slow breath of smoke and pressed his cigarette into the ashtray.

“I thought so.”

“What?”

“Lately, you haven’t seemed like your usual self. I wondered if maybe—and sure enough, you’ve got a new guy.”

“I didn’t seem like myself?”

“Yeah. I don’t know how to put it, but you seemed unusually buoyant before days off.”

I was taken aback. Was it really that obvious from the outside?

“So you fell for him.”

Fell for him? I don’t know…

“It’s only been a month since we met, so I’m not sure. But he treats me very carefully, and I want to treat him carefully too. So…”

There was no need to lie to Takaya. That was the only thing I gained from those three years.

“I see.”

When I stood up with my bag, Takaya stood as well.

“How about a goodbye kiss?”

“No.”

He grinned.

“Too bad.…I had fun these three years. Thank you.”

“Yeah. Then—goodbye.”

As I was about to leave, Takaya called out,

“Hey.”

I looked back.

“Don’t be late for tomorrow morning’s meeting.”

“Yes.”

And I closed the door.

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