↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/126

第十四章 ザ・ローズ(9)

 その後も、他美術館との定期意見交換会スケジュール、所蔵作品貸し出し予定、美術館友の会との懇親会開催、ワークショップ企画などの書類を一応示してみたが、ネヅは全部〈おまかせ〉だった。私はなかばヤケクソになり最後のファイルをとり出した。

「これが一番重要なものですが、来年四月以降の展覧会を立案しなければなりません。本当は海外美術館との提携企画があったのですが、県の指示でとり止めになってしまいました。当初、常設展で対応するようにとのことでしたが、指定管理会社とも協議の結果、低予算であってもなんらかの特別展は必要だということになりまして、県もこれを了承しました。なんといっても特別展は、美術館運営のかなめ、目玉ですから」

 最後の言葉に力を入れてみたのだが、ネヅはチラリと書類の中身を見ただけだった。

「どうせ管理会社の言いなりになるんだろう?」

「しかし、具体的な企画はこちらでたてなければなりません」

 ネヅの次の言葉はもう予想できた。

「それこそ君たち学芸員の本領発揮の場じゃないか。……よろしく頼む」

「来週水曜日に会社との第一回目打ち合わせがあって、あちらの担当者が美術館に来ることになっていますが」

「水曜日は推進班主催の相談会がある。君で対処しておいてくれ」

「分かりました」

 私はバタンと音をたててファイルを閉じ、すべてをドンドン紙袋にしまった。ネヅがビール瓶をさし出した。

「仕事は終わったな。さあ全然飲んでいないじゃないか。グッとやってくれ、サキ」

 名前を呼び捨てにされゾワゾワしたものを感じながら、一瞬「もう帰ります」と言いかけたが、思い直し、グラスを一気に空けた。気のぬけた生ぬるい液体がドッと胃の中へと落ちる。

「おっ、イケる口じゃないか」

 ネヅの酌を受ける。

「サキ。君はいくつなんだっけね? 二十五?」

「……二十九です」

 ネヅの口調が微妙に変わる。

「へえ、そりゃ……。今、つき合っている人はいるのかい?」

 なんであなたにそんなことを教えなくちゃいけないのよ、と心の中で憤慨したが、それを呑みこみ、急いで冷えた茶碗蒸しを口に運ぶ。空腹にアルコールを入れたので頭がフラフラしてきた。こんなところで酔っ払うわけにはいかない。

「別に、いません」

 答えると、ネヅは、ホウ! と声を上げた。なんだか、この人の一つ一つの反応がいちいち気に食わない。


 その後も、他美術館との定期意見交換会スケジュール、所蔵作品貸し出し予定、美術館友の会との懇親会開催、ワークショップ企画などの書類を一応示してみたが、ネヅは全部〈おまかせ〉だった。私はなかばヤケクソになり最後のファイルをとり出した。

「これが一番重要なものですが、来年四月以降の展覧会を立案しなければなりません。本当は海外美術館との提携企画があったのですが、県の指示でとり止めになってしまいました。当初、常設展で対応するようにとのことでしたが、指定管理会社とも協議の結果、低予算であってもなんらかの特別展は必要だということになりまして、県もこれを了承しました。なんといっても特別展は、美術館運営のかなめ、目玉ですから」

 最後の言葉に力を入れてみたのだが、ネヅはチラリと書類の中身を見ただけだった。

「どうせ管理会社の言いなりになるんだろう?」

「しかし、具体的な企画はこちらでたてなければなりません」

 ネヅの次の言葉はもう予想できた。

「それこそ君たち学芸員の本領発揮の場じゃないか。……よろしく頼む」

「来週水曜日に会社との第一回目打ち合わせがあって、あちらの担当者が美術館に来ることになっていますが」

「水曜日は推進班主催の相談会がある。君で対処しておいてくれ」

「分かりました」

 私はバタンと音をたててファイルを閉じ、すべてをドンドン紙袋にしまった。ネヅがビール瓶をさし出した。

「仕事は終わったな。さあ全然飲んでいないじゃないか。グッとやってくれ、サキ」

 名前を呼び捨てにされゾワゾワしたものを感じながら、一瞬「もう帰ります」と言いかけたが、思い直し、グラスを一気に空けた。気のぬけた生ぬるい液体がドッと胃の中へと落ちる。

「おっ、イケる口じゃないか」

 ネヅの酌を受ける。

「サキ。君はいくつなんだっけね? 二十五?」

「……二十九です」

 ネヅの口調が微妙に変わる。

「へえ、そりゃ……。今、つき合っている人はいるのかい?」

 なんであなたにそんなことを教えなくちゃいけないのよ、と心の中で憤慨したが、それを呑みこみ、急いで冷えた茶碗蒸しを口に運ぶ。空腹にアルコールを入れたので頭がフラフラしてきた。こんなところで酔っ払うわけにはいかない。

「別に、いません」

答えると、ネヅは、ホウ! と声を上げた。なんだか、この人の一つ一つの反応がいちいち気に食わない。


After that, I went through documents on the schedule for regular inter-museum meetings, loan plans for works in the collection, gatherings with the museum friends’ association, and workshop plans with him, but it was all “leave it to you.” Half exasperated, I took out the final file anyway.

“This is the most important matter—we need to plan exhibitions from next April onward. Originally there was a collaborative project with an overseas museum, but it was canceled at the prefecture’s direction. At first, we were instructed to rely on permanent exhibitions, but after discussions with the designated management company, it was concluded that even on a low budget, some form of special exhibition was necessary, and the prefecture approved this. More than anything, special exhibitions are the core and the main attraction of the museum.”

I put some emphasis on the last words, but he only glanced over the documents.

“You’ll just end up doing whatever the management company says, won’t you?”

“But we have to draw up the actual plans ourselves.”

I could already predict what he would say next.

“That’s exactly where you curators shine. …so I’ll leave it to you.”

“The initial meeting with the company is next Wednesday, and their representative is scheduled to come to the museum…”

“I have a consultation session hosted by the Gender Equality Promotion team on Wednesday. Handle it on your own.”

“Understood.”

I closed the file with a thud and shoved everything back into the paper bags. He held out the beer bottle toward me.

“Work’s done. You haven’t been drinking at all—come on, take a good drink, Saki.”

Hearing my name spoken without honorifics made my skin crawl. For a moment I almost said, “I’ll be leaving,” but thought better of it and emptied the glass in one go. The flat, lukewarm liquid dropped into my stomach.

“Oh, so you can drink, huh.”

He poured me another drink.

“Saki, how old are you again? Twenty-five?”

“…Twenty-nine.”

His tone shifted subtly.

“Well, now… Is that so… Are you seeing someone?”

Why should I have to tell you that? I fumed inwardly, but swallowed it and quickly brought the chilled chawanmushi to my mouth. Having drunk on an empty stomach, my head was starting to spin. I couldn’t let myself get drunk here.

“No, I’m not.”

When I answered, he said, “Well, well.” Somehow, every one of his reactions got on my nerves.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。