06 会談と甘いお茶
さすがにこういう時には絨毯に座るではなく、椅子にテーブルだよな、とヴィートは重厚な椅子に座りながら思う。そしてすぐに目の前に置かれたのは、メシュラルドでは必ずと言っていいほどに目にする茶だ。
茶葉自体はロトアロフでもあるようなものだが、香辛料とミルクに砂糖をくわえて煮詰めたものだ。
ヴィートは慣れ親しんだ味ではあるが、ロトアロフで振る舞う相手は妻であるセレスだけだ。例え自分の子どもであろうと振る舞おうとは思わない。何せそれがセレスのいじらしい願いであったから。
「おーい、どうしたんだよ。フェルド。なんか疲れた顔してんぞ?」
「そういえば、ロトアロフの方々とお話をなさっていたようですね」
「ああ……、うん。少しね」
向かいの席に座る葦原国の第一王子、煌河とラグニフォルスの王弟、エリオスが奥の席に座るフェルドの様子を不思議そうに見ていた。フェルドは笑みを見せるが視線は大きく泳いでいた。黙って様子を見ているタリマ・ジャビの国王、ギークが茶を嗜みつつ、鋭い視線をフェルドへと向けていた。
フェルドはそれに気づいた様子で、誤魔化すように茶を飲む。フェルドの後ろに控えて立つのはベルナルトだ。王兄でありながら同席しないのは何か理由でもあるのか。
ヴィートはほんの少しばかりの疑問を抱きつつ、目の前に置かれた茶へと伸ばしながら、さり気なく周囲を見渡した。
席の順は、昨夜の宴と同じような並びであったが、ヴィートは当然知らないことだ。
なかなかに良い場所を用意してくれたとヴィートは素直に思いつつも、隣からの圧に少しばかり肩身の狭さを感じた。
「父上。黙っているだけでも十分に圧があるのですから、あまり見てやらないでください。申し訳ありません」
「いやいや、そんな。知らないのが混ざっているんだから、そりゃあ見ちまいますよ」
ヴィートの隣には焔瑞の国王、豪景。さらにその隣には王子の一人である風宇が座っていた。
この豪景はずいぶんと巨体で且つ、口元には黒いひげをたくわえている。鋭い鳶色の瞳はまっすぐにヴィートに向けられるが、そこに敵意はない。むしろ、大きく太い眉は何故か歪み、どこか申し訳なさそうに見えた。
ヴィートは持ち前の明るさで軽快に笑って見せると、すかさずにランスロットがヴィートへ手のひらを向けた。
「彼はヴィート。昨日の宴でも言った通り、メシュラルドの生まれではあるのだけど、今は我が国の大事な国民の一人だ。どうか僕も含めてお手柔らかに頼むよ」
「大切な、だなんて。いやあ、張り切り過ぎないようにしないとじゃないですか」
わざとらしく、大きく声を跳ねさせてだらしなく口元を緩ませてヴィートは笑う。と、煌河がテーブルに肘をつき、身を乗り出した。
「商人と聞いたぜ、あんたのこと。どんな物を扱ってんだ?」
「そうですねえ。本当に様々というか……、流行りものは当然として、ほとんど売れないようなものまでありますよ。ええ」
正しくは、市場の元締めであるが対してやっていることは変わらないのでヴィートはそのまま話を煌河に話を合わせる。
まさに商人らしい笑顔と下から見上げるような話し方。精々、商人相手に見せる警戒の目を向けられるが、そんなものは些細なものだった。
そしてヴィートは、周囲を見渡すエリアスへと目を向ける。視線に気付いたエリアスは誤魔化すように眼鏡の縁を押し上げた、
「例のもう一人、ロトアロフのお方と会えるかと楽しみにしていたのですが」
「ああ、俺の息子ですね。本当、見た目だけは俺にそっくりで、中身は妻にそっくりなんですよぉ。いやぁ、けどそのせいで面倒なことにさせてしまって。面目が無いというか」
これはヴィートの素直な言葉だ。心底、ルイスには申し訳ないと思っている。この見目はやはり異国嫌いのロトアロフでは厳しいものがある。せめて肌の色が違えば、と何度も思ったことか。
そして一人、茶を楽しんだ様子のギークがようやく口を開いた。
「聞けば騎士らしいね」
「ええ。そっちの方が性にあったらしいんですよ」
「父親としたら同じ道に進んで欲しかったんじゃないかい?」
「いやぁ、無理に進んでもらってもなぁって感じですね。とりあえず生きてくれりゃぁ何でも良いやって思ってたくらいなんですよ」
ギークはヴィートの嘘偽りない、父としての言葉に共感するかのように笑みを深めて頷いた。
それでも生き続けてくれた。もうそれだけでヴィートには十分であった。
「同意する」
隣から重く、低く響く声が鳴った。見れば豪景が腕を組み、数度頷いていた。
「申し訳ありません。父上はこちらの言葉が苦手なものでして。聞き取りはなんとか出来るんですが」
風宇が慌てて説明をする。なるほどだから口数が少ないのかと理解したが、それはそれとして元から少ないのかもしれないとヴィートは察した。
「どうだい? この後、時間があるようなら父として話をしたいんだけども」
「それは私も同席しなければならないものですよね」
「ありがとう、風宇。いつも豪景の言葉を訳してくれて」
ギークの提案に、風宇がいかにも嫌だと言わんばかりに顔を歪めた。
確かにそうだろう。誰が好き好んで父達の会話を聞きたい息子がいるだろうか。きっと耳が痛くてたまらないはずだ。ルイスがいたら無言で睨みつけてくるはずだ。
以前よりもずいぶんと話してくれるようになったルイスだが、やはり幼い頃よりも距離は遠くなった。成長したと思えば良いのだが、父としては何とも寂しい思いを抱いてしまった。
「しかし大変なことに巻き込まれたね。親善大使だなんて」
「ええ、まぁ。なので本当、お手柔らかにお願いしますよ?」
とはいえ、いつまでも感傷には浸れない。同情的なギークに、ヴィートはすぐにまた商人の顔を見せた。
この場にいるのは親善大使として。そしてロトアロフの人間として、国に利益になるように事を運ぶことが役割である。
己の役割を全うせねば、誰にも顔向けなんて出来やしない。
そうして、王族達に一人混ざり、ヴィートはこの会談の目的であるスライムを使用した魔具について説明をするために口を開いた。
一通りのスライム素材を使用した魔具。主に衣服についての説明の他、ロトアロフにいるスライムの生態等々をヴィートは説明をする。
宴の時にある程度は説明をしたとは聞いているが酒の席でもあった為、改めてヴィートは繰り返すように丁寧に言うことにした。
耳を傾けている誰もが神妙な顔をしている中、ヴィートが説明を終えれば一同息をつき、茶を飲んだり、頭を抱えていた。
「凶暴ってことを抜きにすれば、うちで育てたいところなんだけどなぁ」
「やっぱりスライムっていうのは、便利な素材だよね。せっかく隣国にいたというのに、知らずにいただなんて惜しいことをしたよ」
煌河が深く背もたれに座り直し、ギークは顔をしかめる。
やはり、あのスライムは異国にこそ需要があった。しかしまだ、大手を振るい異国へと出せるものでないのが惜しいところではあった。だから今回は確認のみである。
ヴィートは頭を抱えていたエリアスへと笑いかけた。
「いかがです? エリアス殿下」
「素晴らしい素材ですね。本当に」
エリアスは、ラグニフォルスの王族でもあるが、魔具の開発者でもあるのだと聞く。この話は、ヴィートが管理する市場へとやってきたラグニフォルスの商人から聞いた話だ。
国内では当たり前に知られていることであるが、それと同時に役に立たない物ばかりを作ることでも有名なのらしい。
そんなエリアスは、素晴らしいと言いながらも表情は一向に変わらない。何かを思い悩んでいるように見えた。
ヴィートはすぐ、その理由に検討をつけた。
「そう言えば、近頃そちらは魔力不足だそうですけど。これならば僅かな魔力でも十分に使えるのでお勧めですよ」
「やはり、そちらでも話が届いておりましたか」
エリアスはそこでようやく無意識につめていたであろう息を吐きだし、また眼鏡の縁を押し上げた。
「困ったものですよ。効率を求めて開発をし続けていますが、その為には魔力が必要になってくるという悪循環。話になりません」
「そこまで言っても良いんです?」
「この場の全員は知っていることなので問題ありません。そもそも、陛下自らこちらに来てないので僕には分からないところではあるんですが」
若干、愚痴が漏れ出ているが、開発者側でもあるエリアスからすれば、当然の口ぶりであった。しかしまさか、自身の兄でもある国王に対しても不満を口にするとは思わず、ヴィートは僅かに赤い瞳を丸くした。
「今回はとくに来てほしかったのだけど……。やはり、賢者殿が?」
「はい。年々、病が悪化する一方で……」
この場にラグニフォルスの国王が来ていない理由をフェルドが問うと、エリアスはすぐに頷いた。
ラグニフォルスの賢者。この人物についても、ヴィートは前から話をたまにだが聞いたことがあった。
「確か、王族お抱えの賢者殿。素晴らしい発想、知識により魔具等の技術が格段に上がった、と。ただ、何故か誰もその姿を見たことがないだとか」
「元々、体が弱い人だったので。フェルド陛下が我が国にいらした時、是非とも会っていただきたかったのですが、我が国の陛下がそれを良しとせず」
「仕方がないよ。無理に押しかけてもね」
フェルドは肩をすくませ、笑う。
まさかフェルドさえ会ったことがないとは思わず、ヴィートはさらに目を丸くした。
誰もその姿を目にした者はいないらしいが、さすがに王族であれば面会が出来そうなものだが、どうも何か違うらしい。
今、ラグニフォルスの国王はランスロットと歳がそう変わらない若き王だ。即位の時に何かひと騒動があったらしいとも聞こえるが、今の状況では聞くことは出来ないとヴィートは判断し、思考を飲みこんだ。
「申し訳ありません。話が逸れてしまい」
「僕が発端なのだから気にしなくて良いよ。それより話の続きをしよう」
話の腰を折ったことに、エリアスは律儀に謝罪をする。その一端でもあるフェルドが片手をあげて首を横にふる。そしてギークが話題を修正するように問いかけてきた。
「そのスライムの素材について、なのだけど。今回、初めてなんだろう? しかし、もうすでに実用されているわけだけども」
その問いに、ヴィートが答えるよりも早く、ランスロットが答えた。
「実用というか、試用だね。ロトアロフ国内では試しようがないから仕方がないのだけど。笑顔で試作品といって渡してくるんだから困ったものだよ」
「国王相手にとは。肝が据わっているね」
「ふふっ、この冬はまだ王位を継いでいなかったから余計にね。おかげで、この道中に何度か凍傷になりかけているけどもその程度だから問題はないよ」
「問題はあるかな?」
実を言えば、支給されている魔具の服の品質には、わざとばらつかせている。完全に実験だ。
とくに魔力操作が得意な者は、粗悪品とも呼べるような物を開発局は提供している。それが例え、ランスロットやヴィンセントにルイスが相手であろうとも。むしろ嬉々として与えていた。
さすがに聖女相手にはしていないので良いとしているが、ヴィートはその開発局に対し、明確な恐怖を覚えたのは記憶に新しい。
今の会話を頷きつつ聞いていた風宇が、横から問う。
「なるほど。では、素材だけとなると……?」
「今は難しいな。加工が手間でね。確実に需要があるならば本格的に進められるのだけど……」
何せあのスライム素材は、魔力を通すと冷気を発する。つまり、凍結の恐れがあるわけだ。魔術を使わずに書こうともなれば、それなりの労力が必要になる。
では加工せずに取引するかと考えるも、ほぼ形のある水である為に運ぶことさえ一苦労なうえに重い。今回のことで特別に狩ったわけだが、二度とやりたくないという声が噴出していたほどだ。需要がないと分かれば、二度目はないだろう。
ヴィートは参加しなかったが、参加していたランスロットが最終的に遠い目をしていたので相当の労力なのは間違いないだろう。
しかしロトアロフは魔鉱石の鉱山があれど、凍土の地。より良い発展をする為にも、これは成功させねばならない事業であった。
ランスロットの今の発言に対し、風宇は考えるようにテーブルを指先でこつり、と小さく叩いた。
さて、どう出るか。
ヴィートは風宇の反応を待つと、何故かとても良い笑顔を浮かべた。
「分かりました。では、そちらに視察に伺ってもよろしいでしょうか? あ、私の他に隼偉もよろしいですか? 視察ではなく、留学という名目でも良いですね。よろしいですよね、父上」
「……すまぬ」
風宇は口早に、まるで押し切らんばかりに言い放つ。豪景に確認を取るも、何故か豪景は謝罪を口にする始末。
なるほど、父でもこれは覆らせるのに一苦労なものだとヴィートは理解した。
「確か、異国には大変厳しいとは聞いておりますが、それはそれ。良い経験として学ばせていただきたく」
「けどさ、確かロトアロフって信仰深いっていうか。そういうの厳しそうだよな」
明るく押し切ろうとする風宇に、横から煌河が口を挟む。そして二人の睨み合いが始まるが、周囲の様子が変わらないところを見るに、いつものことだろうとヴィートは察した。
しかし、留学とは思い切ったことを考えるものだとヴィートはつい顔をしかめかける横から、ランスロットが問いかけた。
「どうかな、ヴィート殿。我が国は厳しいかい?」
「別に決まりさえ守ればそうでもないですよ。けど来るんだったら、まずはうちにしばらく滞在してもらっても良いかもしれないですね」
「ああ……、その方が早そうだ」
来るのは別にどうだって良い。ただ、我らが神に対するものと決まりを守ってくれるなら、という前提がある。
であれば、狂信者とも呼ばれているエヴァンハイン家が教えるにちょうど良いだろう。ジェラルドだって笑顔で肯定してくれるはずだ。
「この外では門番なんて呼ばれていますけど、ロトアロフでは守護伯。もしくは狂信者なんて呼ばれておりまして」
ついでだからと、ヴィートはここまで口を閉ざしていた正体を明かすことにした。
そしてすぐ、エリアスが顔を強張らせ、ギークが額を抑えた。
「まさか」
「これはこれは……。先程のフェルドの様子はこれが原因か」
隣国の代表としてこの場にいる二人が顔色を即座に変える中、煌河と風宇がそろって顔をしかめた。
「ああ? 門番?」
「狂信者とは、なかなかな呼び名ですが……。どうされたんですか?」
二人の問いに、フェルドが口を僅かに歪ませながらも何とか笑みを浮かべる。そして、エリアスがその様子を見て、声を荒げた。
「フェルド陛下! あちらの神に触れてはいけないとお伝えしましたよね?!」
「いや……うん、話の流れでいけるかと」
「しかも、門番がいるだなんて……! ベルナルト殿下、何故お伝えをなさらなかったのです?」
矛先はすぐ様に控えていたベルナルトへと向けられる。ベルナルトは対し、変わらずに落ち着いた様子で平然と答えた。
「知らんかった。それにあちらに赴いた時にも会わんかったんだ。仕方がないだろう? しかしどうしてそう焦るんだ」
「当然でしょう?! 先々代が愚かだったが為にロトアロフに攻め入った結果、門番の一族に全滅しかけたんですよ?!」
まるでベルナルトは開き直るかのような言い放った。
こんな対応をされれば頭に血が上るのも致し方がない。それにエリアスはラグニフォルスの王族である。それはもう、当時のことを嫌でも聞かされているはずた。
苛立ちを隠せずにいるエリアスに、周囲は比べて落ち着いた様子で眺めている。その中、ギークは大きく息をついた。
「なるほど……。君はその一族の一人、ということか」
「運良く、当代の妹君に見初めていただきまして。今は、国境手前にある市場の元締めをしております」
「……商人というのも嘘か」
「似たようなものでしょう?」
商人らしい笑顔を浮かべるヴィートに、ギークは苦々しげに顔を歪めた。
そんな二人の会話を他所に、すぐに落ち着きを取り戻したエリアスに風宇が僅かに身を乗り出し、問いかけた。
「しかし全滅とは……。しかし、もう過去のことなのでしょう?」
「傍から見れば、ですがね。おかげで本当、どういう話になったのか全く分からないのが不愉快ですが、遠縁の姫を一人、ロトアロフへと差し出さねばならなかったんですよ」
「おや。それはつまり縁ができた、というわけでは?」
「体の良い人質。もしくは……そう、ただの贄ですよ。まぁ、子を設けたという話は聞きますが……」
落ち着いたと思ったが、まだ内心の苛立ちは収まっていない様子でエリアスは言葉荒く答えた。正直、そこまで話して良いものかとヴィートが耳を傾けていれば、ランスロットがヴィートを呼んだ。
「ヴィート殿、やはりそれはそれとして手心を加えてはくれないかな?」
「……仕方がありませんねぇ」
正体を明かし、さてこれからどうやってつつみ込んでしまおうかと考えた矢先、まさかの味方から出鼻を挫かれてしまった。
文句の一つくらいはこぼしたって良いだろうが、それは今この場ではない。それに、ヴィートはそのランスロットの思惑を十分に察したからこそ大人しく頷き、ふてくされるように深く椅子に座った。
「そう。そのお方なんだけどね? 息子共々、二年ほど前に国家転覆を企てて今は罪人になっているよ」
エリアスは無言で眼鏡をはずし、片手で目を覆った。思わずというように、煌河が手を伸ばしてその肩に触れるも反応はなかった。
「息子の名はマティアスと言うんだけど、僕達の不手際のせいで逃げ出してしまって。もしかしたらメシュラルドにいる可能性があってね。ロビンがこの国に訪れていたのもそれが理由というわけさ。彼の仲間はどうやら呪術を得意としているから困ったものだよ」
「……まさか、急にメシュラルドで呪術関連の事件が多発しているのは」
「そういうことだろうね。おそらく」
フェルドは鋭い赤い瞳をランスロットに向けるが、ランスロットは変わらずに微笑みを浮かべたままだ。
しかしどうしていきなりこの話をしようと思ったのか。ちょうど良い話の流れだったから、なのかもしれないが、それにしたってもう少し手心を加えても良かったのではないかとヴィートは自分のことを棚に上げ、ランスロットの続く言葉を黙って聞くことにした。
「すでにヴィンセントがそのうちの一人と接触したんだ。けど記憶には残らないという異質な人間。どうにか思い出せても素朴な男としかいうことが出来ないほどだ。そして体に青の魔鉱石を埋め込み、呪術に近いものを使う。聖女様方はそれを忌まわしきものと呼んでいる」
ランスロットは自身の胸の中央を指し示す。
慌ててエリアスが眼鏡をかけ、煌河はまるで射殺さんとばかりにその位置を見やる。誰もがランスロットの話を聞き逃さぬようにしていた。
当然であった。
国家転覆という罪人よりも、その素朴な男が今後、確実に脅威になり得る存在だからだ。
体に魔鉱石を埋め込むことがどれほど危険であるかは歴史が全てを語っている。そして、成功したとしてもその後はどうなるか、ということも。さらには呪術だけでも脅威だというのに、それに近い力を扱えるとなれば話がずいぶんと変わってくるだろう。
「とりあえず、それを見つけたら僕達は僕達で動くけども、見逃してくれると嬉しいな」
「……しかし、ここはメシュラルドだ」
「そちらには迷惑はかけないようにするよ。なるべくね」
「期待はしないでおく、が……。そうか、それならば話が早いな。ベルナルト、すぐに調べてくれるか?」
フェルドはすぐさまにベルナルトへと指示を出す。ベルナルトは無言で頷き、すぐさまに部屋を後にした。
異母兄弟であるが、その扱いはまるで配下のそれだったがメシュラルドではよくある話であった。そして気づけば王座から蹴落とされるということも。
少しばかり情けないところはあるが、それでも王としてこの国に君臨しているということは器があったということだ。
いや、情けない人間味があるからこそ、だからだろうか。
ヴィートはもたれかかっていた背もたれから背中を離し、残りのすっかり冷えた茶を飲み干した。
「お代わりもらって良いです? 話長くなりそうなんで」
「もちろん。やっぱり、こういう時は茶がなければね」
長い話には茶がつきものだ。フェルドが軽く手をあげれば、室内にいた従者がせわしなく動き出す。
「さて。一気に話さないといけないことが増えたけども、おかげで良い話がこれから出来そうだ。やはり来てもらって良かった」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。もし可能だったら、なんだけども。もう少し甘さを控えたものはもらえるかな」
「これでも甘さは控えめにしているのだけど……」
フェルドが大きく首を傾げる中、ランスロットは口元を引きつらせた。
「ランスロット陛下。大丈夫、慣れますから」
「……異国は恐ろしいな」
先ほどまで、ずいぶんと威圧を放っていたのが嘘のようにランスロットは大きく肩を落とした。
話はまだまだ続く。その間にランスロットはこの国の茶に慣れるだろうか。せっかくならば慣れてほしいと思ってしまうのは、ヴィートがやはりこの国の生まれだからだろう。
カップに温かな茶が注がれる。
ヴィートはすぐにまた茶へと手を伸ばし、香り高い香辛料と、とろりとした甘さが広がる茶に舌鼓を打った。




