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04 宴の裏側で

 そういえば、と静は改めて隣の集団。焔瑞、葦原国、ラグニフォルスの衣服を見る。

 ラグニフォルスはロトアロフとそう変わりないが、焔瑞はくらべて暑そうだ。布が重ねるし、袖口から白い毛皮が見え隠れしている。おそらくはあれに秘密があるのだろう。そして葦原国の巫女服のような衣服は違えど、王子二人の衣服もそこそこ暑そうではあった。


「いろいろと作ったと言っても、ただの冷気を発する布なんだけどね」

「ああ、やはりそこに辿り着くでしょうね。ということは、そちらのショールが?」

「そうなんだ。後はこの狼達の衣服と僕も今着ているのだけど、直接日差しの下にいるとなかなかに厳しかった」

「狼にも、とは」


 エリアスは眼鏡のふちを押し上げつつ、興味深げに目を細めた。ランスロットは微笑み、風宇(フォンユー)に話しかけた。


「焔瑞の衣装は……とても豪華だね? しかし毛皮とは」

「ええ、はい。これも実は同じく冷気を発するものなので、素材となる魔物は大型の獣なのですよ」

「大型の獣か。なかなかに厄介でありそうだ」

「ええ。あれらは険しい岩山を住処としていますので。ただ、それ以上に厄介なのが人間の欲。この美しい毛皮を求めて乱獲し、今はずいぶんと数が減ってしまったのです。このままでは滅ぶ可能性があるということもあり、今は代替えの素材も広まってはおりますよ。後は人工繁殖ですね」


 風宇が大きく息をつく。何故か煌河とエリアスが、それに対して大きく顔をそろってしかめていた。


「で、うちはその貴重な毛皮というか、体毛を輸入して服に織り込んでいるってわけだ。ラグニフォルスもだろう?」

「ええ。素材が素晴らしいからこそ、なのですが海を渡ってまでくるので無駄に高価でして」

「いつもありがとうございます」


 そんな魔物を素材として輸入している側からすれば困った話だ。しかしそれ以外に良い魔物の素材は今のところ見つかっていないのだろう。もしくは、その美しさからからこそ王族としては使わざる得ないということか。


「ああ、なるほど。つまり、安価で手に入りそう、ということかな」

「ええ、隠さずに言えばそういう事ですね。しかし狂暴ということであると……」

「いや。別に良い訓練相手になる程度で、残骸は捨てる以外に使い道がないから有用に使えそうだと思っただけだよ」

「国内では需要がないのです?」

「残念ながら。冷やすなら魔術を使えば良いし、夏でも今ぐらいの気温だからね。だから隣国というだけでここまでの気温差があるなんて驚いたよ」


 風宇は目を丸くし、顎をさすりながら僅かに身を前に乗り出した。


「そのスライムを素材として使用する場合、布の素材は特定の物のみしか使えないのでしょうか?」

「いや? とくにそれはないな。騎士達の衣服にも使えるし、面倒だからと糸から加工するのも問題ないとは聞いているよ」

「それはそれは……。しかし冷気の調整はどうなされているんです?」

「それと同じじゃないかな? 魔力の調整をすれば良いだけだし、不得意な者であれば魔石か魔鉱石を使えば問題ないからね」

「それはそれは……」


 静は詳しいところ分かっていない。だが用意してもらったショールはおかげで羽織っているだけでだいぶ涼しく感じられた。また四隅に付けられている銀の魔鉱石の飾りは取り外しも出来る為、気温によっては外して冷気を調整できる仕組みになっている。

 当然ながらユアンが開発したものだ。これについてはランスロットが直接指示したものであるため、認可はすぐに下りたと聞いている。


「席を改めて話をさせていただけると」

「僕も同席させていただいても?」

「あ、俺も。ギークもフェルドもだろ?」

「当然。是非とも詳しく聞かせてもらえると嬉しいな」


 風宇の申し出に、エリアスと煌河、そして黙って聞いていたギークも頷いた。そして最後、フェルドが全員を見渡し、一つ頷いた。


「うん。明日にでも改めて話をさせてもらいたいんだが」

「もちろん。その時、我が国の親善大使も同席させてもらうけど構わないかい?」

「ああ、確かいるとは聞いている」

「メシュラルド出身の商人なんだ。その方が話がはやいだろう?」

「ふはっ……! 確かに! 我が国の商人相手ともなると一筋縄ではいかなそうだ!」


 ヴィートは確かに商人という顔を持っている。ランスロットがそれだけを告げれば、フェルドは大きく笑い、膝を叩いた。

 メシュラルドの商人というのは、なかなかに手ごわいらしい。


「そう、そうだ。確かに同胞がロビンの他に二人も来ているとナターシャから聞いているよ」

「ああ……、そうか。そうだね」


 そしてフェルドが思い出したかのように他にメシュラルドの人間がいるらしい、ということを口にすればランスロットは僅かに口角を下げた。

 するとすぐ、控えていたロビンが口を開いた。


「あのー、発言よろしいです?」

「久しぶりだな、ロビン。元気そうで良かった」

「ええ、まぁ。で、同胞ってことなんですけど」


 ロビンはフェルドとの挨拶をそこそこに、即座に続けた。


「俺と大使のお方はメシュラルド出身なんで、同胞なんですけど。もう一人は生まれも育ちもロトアロフなんで、同胞とは呼ばないでいただきたく」

「そうだったのか? しかし半分は我が国の人間だろう?」

「それはそれ、これはこれ。それにヴィンセント様同様に神殿に身を置いていますし、何よりも本人が嫌がってるので」


 もう一人、とはルイスのことだ。

 見目こそメシュラルドの人間と変わりないが、中身は完全にロトアロフの人間だ。ルイス自身、自己をロトアロフの人間と認識しているからこそ、メシュラルドの人間だと言わんばかりに他者から言われるのはたまったものではないはずだ。

 と、静は自分勝手に考えた。あっているとは言わないが、同胞と呼ばれた時のルイスは不愉快そうにしていたため、ほぼほぼこの認識はあっているはずだ。

 フェルドは少しばかり眉をひそめたが、しかしゆっくりと頷いた。


「それなら駄目だな。ありがとう、教えてくれて」

「いえ」


 否定せずに受け入れてくれたフェルドに、ロビンは安堵したように表情を和らげた。

 静もつい、人知れずに安堵の息を吐きだす。そのせいか、それとも満腹になったせいか、ほんの少しだけ睡魔がひっそりとやってきていた。



 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 薄暗い王宮の長い廊下。つるりとした白い石に敷かれた細長い青の絨毯は、今は夜のせいか色はずいぶんと濃い色を落としていた。


「お、これもなかなか良い壺だな」

「物色するな」

「見ているだけだって」


 廊下の点々と飾られている調度品や壺を見て、一々足を止めては目利きをしているヴィートにルイスは舌打ちを小さくこぼした。


「宴には参加しなくて良いのか?」

「するわけないだろ」

「静様がいるってのに?」


 夕暮れから始まった宴が終わったと言う報告は届いていない。低い位置にあった白い月はずいぶんと高くなってきていた。

 ルイスは無意識に右手を握る。手套越しに感じる薬指にはめている硬い指輪の感触が伝わり、すぐに右手を緩めた。


「……側にライリーとエリカがいるから問題ない」

「その割には不満そうじゃねぇか」


 周囲に明かりはなく、ヴィートから見たらルイスは月光を背にしている為に表情は見えないはずだ。だと言うのに、ヴィートは何故か楽し気に笑っていた。

 ルイスが口を閉ざしたのに気付いたのか、ヴィートはまた肩を揺らし、月光を見上げた。


「どうだ。初めての異国は」

「……想像以上に暑いんだが」

「ははっ! そりゃそうだ。ロトアロフに比べたら、こっちはとんでもねぇ暑い国だろうな」


 風通りを優先しているのか、部屋は異なるがこの廊下には窓硝子がなく、ただの大きな開口だけが連なっているだけだ。おかげで移動は楽ではあるが、他所の国の騎士はもちろん、漆黒に近い兵士もいる為に好き勝手に動くことは難しい。

 ヘクターからの報告になるが、どこの国の兵士は数は少ないものの手練れの暗殺者のような動きをしているともあった。不必要な争いは避けるべきだ。気づいたら近づかないように全員には周知しているが、それだけでうまく過ごせるか。

 先のことを考えるだけでルイスはいつになく強い頭痛を覚えた。


「にしても、お前から誘われるなんて思わなかったわ」

「語弊がある」

「はいはい。確認だろ? 何も問題ねぇよ。体調もばっちしだ」


 大きく肩をすくませたヴィートはルイスの横に並ぶように移動し、月光を背に開口に寄りかかった。

 別に大したことはない。ただ、ルイスは今回の合同騎士隊の隊長として、親善大使でもあるヴィートの様子を確認しにきたに過ぎない。それだけの理由の、はずである。


「一応さ、王都の産まれではあるんだよ」

「……それなら、ここは」

「そう、俺の生まれ故郷ってことだ。ずいぶんと、変わっちまった。けど、思ったよりも変わってなかったわ」

「……どっちなんだ」

「どっちも、だな。変わったところもあるし、変わってないところあるって意味だ」


 奴隷として産まれたヴィート。一体どうやってそこから生きてきたのか、ルイスには全く想像が出来なかった。何せ、ヴィートが奴隷だと知ったのはその背の小さな焼印を見て、兄達と調べたからだった。だからまさか、こんなにも人懐っこく豪快に笑う人が奴隷だったなんて一切分からなかった。


「無理やり帰らされたことについちゃあ、確かに余計な世話だってのは思ったけどさ。もう少し早く帰って来ても良かったくらいには、今は思っている」


 いつもと変わらない横顔。であるが、いつになく柔らかな声色にルイスはようやく、胸の内にあったしこりのような物が解けた気がした。

 王命だから。メシュラルドのことをよく知っているから。だからルイスは奴隷であったヴィートが何を言おうと半ば無理やりに連れてきた。もちろん今、この国は奴隷なんてものはいないが、あまりにも良い思い出ではないはずだ。

 だというのにずいぶんと穏やかに語った父の姿に、ルイスは身勝手にも細やかながら報えた気がしたのだ。


「……もし」

「親兄弟が生き残っているかどうか、ってのは期待してねぇよ」


 そして、だからルイスは更に報いたいが為に言葉をこぼす。しかし、ヴィートは続くルイスの言葉を被せてきた。まさに、今ルイスが言おうとしたことであった。


「だが」

「っていうか、あれよ。俺だけ一人売られたってところでもうお察しってところだ。あの牧場を見ただろう?」

「……ああ、あのスライムの」


 炎の塊のようなスライムを集められた場所。正直ルイスはなんと碌でもない場所だと思った。

 しかしそれと今の会話に一体どんなつながりがあるのか、どこか嫌な予感はしつつもヴィートの続く話に耳を傾けた。


「そうそう。世話している奴は大変だろうとは思うぜ? 前はあれの世話、奴隷がやっていたんだよ。それに今は餌だって魔物の残材だが、その時までは売れ残った、役にも立たねぇ奴隷が餌だった」


 世話までならば、ルイスはそうだろうなと理解できた。だが、その後の餌という言葉にはどうしても頭が理解を拒んだ。

 本当に、ヴィートの表情も声色も変わらない。柔らかい声のままだったのが、余計にルイスの腹の底を冷やしていた。


「もちろん有能な奴は地位も与えられたし、金も得ることが出来た。とは言え奴隷だから全ては主人の物って扱いだった。美しければ飾られた。才能があればその才を持つ奴隷が欲しいからと子を強要された。まさに家畜そのもの。それが奴隷って奴だ」


 ようやくヴィートはルイスを見やる。眉をひそめ、いつになく静かな赤い瞳はまっすぐにルイスを映していた。


「なかなかに業が深い国だろう? ここは」

「……そうだな」


 奴隷というものが表向きにいなくなってはいる。だが、それでも裏で奴隷という名称を使わずにまさに家畜という名前で扱っているとの情報はすでにルイスは得ていた。

 だからと言ってルイスはそれに対して動くことはしない。何せここは異国であるし、王たるランスロットにも報告はしているが動くような命は受けていない。そして静には秘匿しているが、報告をしたところで、そう、と言うだけだろう。内にいれていなければ、より冷徹になる。それは静の良いところでもあるとルイスは好ましく思っていた。 


「別に、この国を好いてほしいとは欠片も思わねぇけどさ? 理解は出来ればしてほしいっては思っている」

「分かっている」

「なら俺から言うことは何もないな」


 ヴィートはそして、いつもと変わらずにルイスと同じ顔で大きな笑みを浮かべた。よくもあれほど表情が動くものだとルイスが感心していれば、ヴィートは赤い瞳を細めた。


「ノーマンを借りて良いんだろ?」

「問題ない。父上ならうまく使ってくれるんだろう?」

「当然。悪い用にはしねぇよ」


 ノーマンは元よりヴィートの護衛として側につく。今も近くにいるが、今までの会話は防諜の魔術によって聞こえていない。だから遠慮なく、物を扱うようにルイスが言えば、ヴィートもまた同じように言葉を返した。

 一体どう使うのか、ルイスは聞いていないがヴィートが使いたいと望んだのであれば拒む必要はなかった。とくにノーマンには眷属である梟のフーリュがそばにいる。夜、まさに今の時間から動くにはうってつけの存在だった。

 そしてルイスは翠玉も右目の視界に流星のような光が走ったのを見て、すぐに防諜の魔術を解いた。


「悪いね。親子での会談中に」

「構いません、ジグルド副隊長」


 月光によって照らされた廊下であると言うのに、ジグルドは一切の気配も音もなく、ルイスの側に立っていた。

 さすが漆黒の副隊長。まだ己の未熟さを痛感していれば、隣から大きく息を吐き出す音が聞こえてきた。


「……本当、漆黒の奴らっていつの間に現れるんだよ」

「慣れてくれ。いい加減に」

「無理だって」


 未だに突然現れる漆黒の騎士達に慣れていないヴィートは何故か数歩後ろへと下がっていた。その行動の意味が分からずに、ルイスはつい顔をしかめていれば、今度はジグルドが防諜の魔術を展開させた。

 ルイスはすぐにジグルドへと姿勢を正しながら向き直れば、何故かジグルドは口角を緩めつつも報告を告げた。


「どうやら宴の場で、今回の祭事で舞う舞手を選んだらしい」

「どういう意味ですか?」

「言った通りの意味だよ。メシュラルド含む、他の国賓の者達が画策して、我が国に選ばせたというわけさ。おかげでちょっとした騒動になったよ」

「……結果は」

「国王陛下の婚約者殿。伊織様と静様が分かっていながらにお選びになった」


 確か、ロビンが望んでいた人物だとルイスは思い出す。どのように選ばせたのかは不明であるが、とくに全てが見える伊織と、変に見る目がある静が選んだのだから間違いがないとルイスは確信した。


「王女殿下は結果を受け入れた様子だったけども、神官殿はずいぶんとお冠だったらしい」

「そうでしょうね」


 選ばれなかった側からすれば当然の反応だ。ルイスが他人事に頷き、ジグルドはさらに報告を続けた。


「それと明日、この衣服の魔具について話をしたいとのことだよ。なので出席をお願いしたいとのことです。ヴィート殿」

「お、さっそくか。ってか、俺に敬語はいらないって」

「いえ。さすがに、あのエヴァンハイン家のお方ですし」

「ルイスもだけど? 籍は抜けているけどさ」

「ルイスは別ですよ。しかし本当、ここまで大きくなるとは……。入隊当時はあれほど小さいうえに、小生意気だったのが嘘のようです」


 ヴィートに対して丁寧な物腰を見せるジグルドは、そのままに昔のルイスの姿を告げた。

 反射的に舌打ちをこぼしてしまったルイスに、ジグルドは拳で口元を隠して小さく笑みを零した。


「おや、小生意気なのは今も変わらず、という所かな?」

「余計な一言です」

「申し訳ないね」


 相手が相手でなければ吊っていた。静の魔力を請け負ってから魔力の糸はうまく編むことが出来なかったが、最近はようやくまともな糸を編めるようになってきていた。

 そのうちに人相手でも試したいと思っていたが、さすがにいきなり副隊長であるジグルド相手に試す気にはなれなかった。

 ジグルドの様子からそれ以上の報告はないことを確認したルイスは、大きく顔を背ける。そして、また翠玉の右目側の視界に流星のような光が横切った。

 すぐにルイスはその光の先を追うようにして開口の外へと身を乗り出し、下を覗き込む。


「……あれは……」


 ちょうどルイス達がいるのは三階だ。おかげで上から覗き込んでも、気付かれにくい場所だった。


「ベルナルト殿下だね。それと隣にいるのは……」

「あの姿からして、神官だな。……おっと」


 そこにはベルナルトの姿があった。そして隣には比べてベルナルトから小さな白い布を頭からかぶっている人の姿。

 ジグルドとヴィートも続けて同じように覗きこみ、その隣にいるのがこの国の神官のであることを知った。

 二人は並んで月光の下を歩く。と、ジグルドが腕を伸ばし、抱き寄せる。

 ヴィートはそれを見てすぐに顔を引っ込ませる。ジグルドとルイスは同じように見続けた。

 ルイス達からは周囲に人の姿らしきものは見えないが、ジグルドはどこかを見ていた。


「ジグルド副隊長」

「一応警戒はしておこう」

「よろしくお願いします」


 この場へと着くまで、ベルナルトはしつこいほどにルイスへと近づき語りかけてきた。止めろと言ったのに同胞と言い続ける始末だ。

 だからルイスはもはや遠慮というものを持つことを止めた。少しでも怪しいと思えば全てを調べ見張る。漆黒にいた時に学んだことの一つだ。

 それを教えた一人であるジグルドは当然のように答え、そうしてすぐに姿を魔術で隠し遠くへと気配を消し去った。

 ルイスはそこから動かない二人を確認後、ようやく体を廊下へと引き、新たに増えた別の気配の方へと振り返った。


「どうした、ジル」

「何してんだよ。師匠」

「確認だ」


 宴がある広間の近くで控えていたはずのジルがヨカゼと共に立っていた。顔をしかめつつもジルは姿勢を正したまま、報告を告げる。


「まだ宴は終わってないけど、静様と伊織様が寝そうだから部屋にお戻りになられた」

「分かった。ジルはもう休め」

「いや、まだ」

「寝ろ」


 まだ未成年であるジルは今年で十二歳になる。体は常に鍛えているとはいえ、無茶を強いることは出来ない。

 ジルは不満げな顔を見せるが、ヨカゼがジルの裾を噛んで引く為、大人しく不本意そうに小さく頷きながら今度は疑いの目を向けてきた。


「分かったよ。ってかさ師匠、ちゃんと飯食ったよな?」

「おう。俺と食ったから安心しろよ」


 ヴィートが笑って言うと、ようやくそこでジルは安心したように大きく頷き、素直にその場を後にした。

 ジルとヨカゼの姿が見えなくなったのを確認した後、ルイスはヴィートへ睨むように見やった。


「……礼は言わないからな」

「はいはい。ほら、さっさと行けって」


 軽く手を振るヴィートに、ルイスはすぐに背を向けて廊下を足早に歩みを進めた。

 別にルイスはさすがに異国ともあって何が起きるか分からないからこそ食事は抜いてはいない。ただ量は減らし、一人でさっさと食事を終えている。

 故にヴィートとは共に食事をとっていない。だがジルを安心させる為だろう、ヴィートは表情を一切変えずに嘘を告げたのだ。

 本当に不愉快になる。ようやく報えたというのに未だに助けられしまっている事実に、ルイスは人知れずに小さく舌打ちを零した。

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