二つの思いは心の許容を上回り存在する。
息を呑む暇もない綺麗な色の瞳が僕を映す、
無表情なのに「胡散臭い」そう言いたいんだろうな、そう分かる瞳が割増で増えるのが目に見えて分かる事に、僕は思わず笑を零す。
自分の頭が僕の膝の上に乗せられてるのに気が付いたのだろう、キミは目の前で見ていても”一切分からない”技法で飛び起き、ヌルリと距離を取った。
「──………。 迷惑をおかけしました姉弟子。 それと…はじめまして…?」
ふふ、分かってはいたが、笑える程不審者への対応だな──
僕は、「ほーん? 人生初めての僕の膝枕にそんな対応をするんだな? 」なんて思いを何とか押さえ付け、
──表面上そう思った。
やはり失礼じゃないか? このオスガキィ…! と青筋が浮かびそうな表情筋を押し殺し、僕は微笑みを浮かべる。
「はじめまして、弟弟子。 じゃあ模擬戦でもしようか。」
「────────なんで???」
なるほど、後から思うと抑えきれてないな、僕。
理由を後付けで付け足し、それで納得? してしまったキミ。
困惑顔のキミに気が付かず、僕はどう僕好みに教育してやろうかと考えていたな。
この時、僕はキミの才能、執念、狂気を理解していながら、こと戦闘については負けるとは、毛程も想像していなかった。
なぜか、って? 当たり前だろう。 この時の僕は魔術を使い始め、5年と少し、
一ヶ月と少し、魔術を齧った程度のキミに、戦闘運用する魔術戦で負ける気などしなかった。
確かにキミの魔術には感動を憶えた、震えた、見惚れた。 だが、”魔術構築”と”魔術戦闘”は畑違いにも程がある、
───つまりは、僕は油断も慢心もしていたのさ。
〘王位〙なんて、なんとも過小評価されてるような二つ名を持つと、魔術に関係ないものでも持っているらしい、その一つが”広大な土地”
師匠が保有する魔法協会の土地、景色は良く、風も気持ちがいい絶景。 年中無休で寒い事を除けばいい場所である。
そんな所で僕とキミは相対する。
緩やかな笑みを浮かべ”魔術の触媒として使える”魔導書を片手に持つ僕、目に隈を作り無表情で棒立ちするキミ。
そしてニヤニヤと意地の悪そうな笑いを作り、僕とキミの間に立つのは師たるネシス師匠、
「なーんでそうなるのか、目の前で見ていた儂ですら分からぬが、愉しいそうじゃからよしっ! じゃ! じゃ、準備はよいかの? 」
僕は何時でも、”何処でも”魔術を発動出来るように、薄く魔力を体外に放出し、辺りに充満させる。
「僕は何時でもいいよ。」
「大丈夫。」
なんの下準備もなく突っ立つキミを見て、僕は思った、魔術戦の心得をこの模擬戦後、存分に教えてやろうと。
姉弟子感を出したく、警戒のけの字すらなく、僕はそう思ったんだ。
────呑気にも。
ぶら〜ん とやる気の欠片も感じられない手を上げる、師匠。
僕はそれと同時に、”催眠””幻影”の特性を持つ魔術を即座に発動出来るように待機させた。
「姉らしく、大人気なくデリカシー諸々教育してあげるよ。」
「……????? 」
「────ヒヒッ、
────────初めェ!!!!!」
模擬戦の始まりを決める手が、振り下ろされた。
小手調べに僕は、キミの視覚を惑わせようとした。
そうすれば”見え過ぎる”キミの目で、その奥側にいる僕をハッキリと見ると予想をしたからだ。
そうすれば、”視覚から得られる情報で落とせる催眠”が決まる、
なんとも雑な戦術だが、小手調べには丁度いいだろう、そう思い、発動させた。
だが、予想は裏切られた。 僕が無いだろうな、そう思っていた広範囲魔術によって。
惑わされても、広範囲を一掃すれば意味などない? なるほど、至極当然の結論だ。
だが、だ。 魔術を反射する魔術なぞ、珍しくも無い時代だぞ? 反射を突き破れる一点突破の魔術や、反射の意味を成さない高火力の大魔術ならまだしも。
ただの広範囲魔術なんぞ、一利にもなりやしない。
だから無い、と一考もせずに切り捨てていた可能性だった。
虚を突く為のモノか? そう軽く判断した僕はお返しに反射の魔術で大地から生え迫る槍の波を、返すことにした。
「魔を返す。───”リテイション”」
薄く拡がっていた魔力が色付き、銀色の魔力となる。 その様はまるで鏡、反射の魔術、らしいものだった。
迫る槍は、銀色の魔力に突き当たり────
────突き破った。
驚愕に目を見開く僕の脳内には、幾つかの推測が浮かんでいた。
その中でもありそうな候補はこの二つだった。
一つ、有り余る魔力を魔術に流し込んだ、過剰量威。
本来なら魔術暴走を引き起こす、過剰な魔力を初級魔術などに流し込み、紛れで威力増加を成功した事を呼ぶ現象。
もう一つが、魔術が二重に発動されていた。
これは、その言葉の通りだ。
大地を槍にし、槍にした物質を進ませる魔術、が一つの魔術だとすると、二つ目が反射を無効化する、或いは破壊する”付与”魔術。
それが同時に発動させられていた。
どれも有り得る可能性なだけに僕は思わず自らの馬鹿さ加減を呪った。
一度の魔術勝負は完全なる負けだ。
だから二度目、今度は先手を打つつもりで僕は得意になった”強化の魔術”を発動する。
迫る槍を踏み潰すのと同時に発動した。
「”ビス”」
槍を踏み潰す脚に───ではない。
”踏み潰した後”に発生する震度に、だ。
地を伝う震度に、そして空気を伝う震度に。
僕の周囲が、粉々に変わる、固形を持つ物質総てが無制限に強化された震度により、粉砕される。
強化された震度は拡がり、キミへ届く、
____揺れる綺麗な白髪、吸い込まれそうな黒い瞳、僕好みの綺麗なキミの顔が僕を見て、ミキの瞳が僕を射抜く。
「ゴボッ···」
明らかに近過ぎるキミの顔を見ながら僕は気が付いた、「あぁ、負けたのか、」と。
「容赦ないなぁ…」と清々しい思いと共に感じる腹を貫くキミの腕を撫でながら、僕は驚く程あっさりと負けを認められた。
先程まで入り交じっていたいいようのない不満が空くようで、思わず苦笑いから笑へ変わってしまった。
────今、自分がどんな状況かも考えないで。
この時の笑みが原因で、まだ確定していなかった僕の癖が決まるとは、流石に、この頃の僕は思ってもみなかった。




