⑧ 君がいないと世界はモノクロの景色
メイセイが去り、僕は一人で駅に向かう。
景色が変わっている。
世界がモノクロになっている。
世界は僕に目を止めない。
僕も世界に目を止めない。
そんな中で、ずっと僕を見てくれていたメイセイ。
死ぬまでに一度、僕と恋人をしてみたいと願ったメイセイ。
たった二日の夢に、自分からケジメをつけたメイセイ。
メイセイはひどく目立つ、話が合う鉄オタの後輩だった――二日前までは。
でも、
でも、
でも……
――僕は後ろを向くと、学校に向かって走り出した。
楽しかった。
メイセイといると楽しかった。
世界がこんなに色づいているなんて思わなかった。
明日からまた部長と後輩になって、
こんな風に会って、話して、走って、笑うこともなくなる。
この二日間も、なかったことになる。
ホモ?
ゲイ?
部長?
後輩?
なにもかもよくわからないけど、僕は……
――街灯の白い光が落ちる上り坂を、ポツンと一人、
白いスクールシャツがゆらゆら上っているのが見える。
僕は加速する。一人だと走行音は聞こえない。
「メイセイ!」
その白いスクールシャツは角を曲がろうとしている。
「メイセイ!」
白シャツは目を見開いて立ち止まった。
僕は必死に走り寄る。
「僕も――楽しかった!」
見上げたメイセイの顔は泣き腫らして真っ赤だった。
「わざわざ……言いに来……」
「付き合ってください。」
「は?」
メイセイは一瞬呆気にとられた顔をしたが、すぐに目を逸らして呟いた。
「部長、無理しなくていいっす……」
「え?だめ?――もう遅かった?」
「俺、強引に部長を……」
「3数える間に拒否しなかったら、メイセイは僕の恋人です。3……」
「え?」
「2……」
「へ?」
「1……」
「本気で……」
僕はメイセイの真正面に立った。
「0……メイセイ、あー……」
メイセイは爆発しそうな顔で、目に涙をいっぱいに溜めている。
「えーと……よろしくお願いします、でいい?」
とうとう、メイセイの目から、水鉄砲のように涙が噴き出した。
「いい……いいけど、
――本気?部長、本気で?」
「スバルくん。慣れて?」
「……お、俺、二年も悩んだのに、スバルくんは、二日で決められんの?」
「え?」
僕は、涙まみれのメイセイの顔を覗き込んだ。
「メイセイに告白されたから、僕もOKってだけじゃない?」
僕はメイセイに近寄る。
メイセイの背中が、公園のフェンスの網目にカションと当たる。
「3秒以内に答えないとキスします。3……」
「え?スバルくん……」
「2,1……」
「……」
「0」
僕は、メイセイの唇にゆっくりとキスをした。
高3にして、僕のファーストキス。
すごく柔らかくて……涙の味がする。
息苦しくなってそっと離すと、
メイセイの潤んだ目がきらめいている。
次の瞬間、メイセイはフェンス下の植栽に僕を押し倒し、
目眩がしそうな熱いキスをはじめた。
メイセイの顔ごしに見える世界は、
もうすっかり夜なのに、
色どりを取り戻して息づいている。
メイセイが熱い吐息のまま唇を離す。
僕は、肩で息をしながらメイセイを抱き締めると、耳元で出発の汽笛を囁いた。
「ポォ――――ッ……シュッシュッ……」
メイセイも合わせる。
「シュッ……シュッシュッ……」
僕たちは、手を取り合って立ち上がる。
二人同時に『ポォ――――ッ!』といった瞬間、
思わず照れ笑いしてしまった。
そして、前後に並び、メイセイが僕の肩に手を置いて小走りを始める。
僕たちは、人の目を盗んでキスをしては出発し、停車して周りを見回してキスをして、
二人でいることが楽しいことを刻みつけるように走り回っていた。
――――
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