⑥ 死んでもいいから告ってみようと思い詰めた
全13話。連休中にどんどん更新して、連休明けに完結予定です。
俺、宵野メイセイは、【恋】というものがさっぱりわからなかった。
恋をすると目の中にハートが浮かんだり、
胸がドキドキしたり、
そういう決まった症状に決まった数だけ当てはまらなくとも、
人間は、自分のその気持ちを【恋】と呼ぶらしい。
中学2年のときに彼女ができた。
向こうから告白されて、断る理由もないから承諾した。
でも、この女子に対するどの気持ちが、
心に浮かぶどの感情が【恋】に該当するのかよくわからない。
姿を見かけたときに「おっ」と思う気持ち?
人に「彼女いるの?」と驚かれるときの気持ち?
面白いことを言われて面白いと思う気持ち?
それともこれが全部足し合わさったものが【恋】?
年上で経験者のその彼女は、俺を引っ張ってくれたから、
キスも初体験も、自分の気持ちを確認しないで円滑に済ませた。
彼女がどんなときに、何を求めているのかを把握して、
先回りしてこちらから誘う。
こちらから触れる。
したいと言われれば恥をかかせない。
女子を見て勃つことはなかったが、物理的にこすれば勃つから、
その勢いで最後までやっていた。
***
中3になって、「働く乗り物部」が廃部になり、俺は鉄研に転部することになった。
前の部と同じようなオタクの雰囲気は居心地がいい。
「US貨物列車、渋くない?」
向こうの方で声がする。
(うん、US貨物列車は間違いなく渋い。)
俺はそちらの方向に歩く。
その声の人物は、俺に背を向けて座っている。
「あんまり興味引かないんじゃない?」、
「幼児向けのアニメくらいでしょ?」、「次世代リニアの方が目立つ」……
俺は思わず声をかけた。
「ダブルスタックいいスよね、輸送量を可視化するの熱いかも。」
皆が俺を見上げて、その人も振り向いて俺を見た。
その人は――スバルくんは顔をクシャクシャにして笑った。
「最高だよな!!」
それからは、部活が楽しくて幸せな日々だった。
彼女からも、鉄研に入って明るくなったと言われる。
鉄道に詳しくて、
頭が良くて、
なんとなく抜けていて、
目立たない眼鏡の奥の顔が意外とかわいい。
部活の前日は「明日は部活」と思える。
部活の日は「今日は部活」と思える。
それ以外の日は「学校のどこかで会えるかも」と思える。
しかし、それはある日、急に終わった。
***
5月の学園祭が終わり、高2のスバルくんたちが高3の後を引き継いだ。
部長になったのはスバルくん。
一番詳しくて、鉄道愛が深くて、当然だと思ったし、
前に立つ姿を遠慮なく見つめられるのが最高に嬉しかった。
夏の鉄研合宿のとき、順番が重なって、スバルくんと一緒に温泉に入ることになった。
俺は先に浴槽に入っていたが、後から来たスバルくんの身体を見たときに、興奮してしまったのだ。
そう、初めて俺は、人の身体を見て興奮したのだ。
――男の身体を見て、
――スバルくんの身体を見て。
俺は逃げるように温泉を出た。
「――男って女を見て興奮するんじゃないの?」
「――俺、なんで部長を見て興奮してんの?」
「――なんで?――」
その問いに対して導き出される答えがあまりにも衝撃で、
俺は吐きそうになった。
(もうダメだ。この世界で生きていけない。)
幸せだった記憶も、
大好きだった部活も、
世界の中心だったスバルくんも、
心のクローゼットの奥深くにしまい込んで、
鍵をかけたのだった。
***
部活にはほとんど出なくなった。
でも、部活の日には自習で教室に残る――鉄研の部室の電気が消えるまで。
中庭を挟んだ向こうの部室、ゆるゆると部員が出始めて、
しばらく経って、スバルくんが電気を消して出てくる。
扉に鍵をかけて、その鍵を振り回しながら階段を下りていく。
俺は胸がツンとなる。
急いで教室を出て、スバルくんを追いかける。
職員室に消えて、職員室から出てきて、いなくなる。
俺はうすぐらい廊下を、うつむいて教室に戻る。
バックエンドの皆勤賞だ。
彼女と向き合えばこの気持ちも消えるかと思ったが、結局別れた。
高2になって、とうとう部活の日にスバルくんを見られなくなるときが近づいて、
バレたら生きていけないけど、
会えなくなるくらいなら、死んでもいいから告ってみようかと思い詰め、
夕暮れの廊下で、向かい側の部室の光を見ていたときに……
センコーに声をかけられたのだ。
「部室に残っている天牛に帰れと言ってくれ。」
そしてその後、俺は告白して、スバルくんを半強制的に恋人ということにしたのだった。
――どうせ死ぬなら、ちょっとの間、スバルくんと恋人でいたいと願って。
……
……
【R18/BL『終局の悪魔』完結しましたꕤ*.゜】
「愛してる」も「好き」も言えない二人の物語
優美な白髪高官ドルチェ×口の悪い赤髪悪魔フィーネ
R18版は、なろう版から1話追加して全52話
終盤のep.49~51もR18版として大幅に書き直しました
『【R18】終局の悪魔―俺を利用するはずの白髪高官が、なぜか俺の目を美しいと言ってくる―』
https://novel18.syosetu.com/n2839mt/
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