⑤ メイセイといると楽しかった
全13話。連休中にどんどん更新して、連休明けに完結予定です。
翌日、予備校が終わったその足で、スバルは学校に向かった。
まだ昼過ぎだが、どんより曇り空が重苦しく垂れこめている。
開放教室Cには誰もいない。
スバルは後ろの方の席に座って、自習を始めた。
と、ガラリと戸が開く。
スバルの心臓は飛び上がったが、気づかない体でテキストから顔を上げない。
……しかし、真ん中くらいに座ったその生徒はメイセイではなかった。
その次も、
その次も、
その次も、
ガラリと戸が開くたびに心臓は飛び上がり、
気付かない体で勉強を続け、
違う生徒を見てため息をつく。
(ポ――!!!!シュッ……シュッ……)
SLのD51(デゴイチ)の汽笛を頭で再生すると、緑の森を背景に自分も走り出せる気がする。
ようやく、スバルは英語の長文の森に入り込んだ。
――しばらくして、大問一つ解き終えたスバルが少し背筋を伸ばす。
そのとき、耳に固い感覚と同時に、音が聞こえて来た。
《トゥ―ルルルルルル―――ガタンゴトン、ガタンゴトン……》
(メイセイ?)
ハッと振り向くと、後ろの席に座ったメイセイが、
片耳にイヤホンを付け、頬杖をついたままスバルの耳に手を伸ばしている。
(イヤホンか……)
そのとき、イヤホンに触ろうとしたスバルの手と、メイセイの手がコツンとぶつかった。
引っ込めようとしたスバルの人差し指の先端を、メイセイの指が捕らえ、固く握る。
メイセイは刺すようにスバルの目を凝視している。
《ガタンゴトン、ガタンゴトン、キィィィ――――》
数人しかいない静まり返った教室で、二人の耳に走行音が鳴り響く。
『ガタン』
他の生徒が立ち上がる音に驚いて、スバルは思い切り指を引っこ抜き、慌てて前を向く。
《……次はMノ瀬、Mノ瀬、お出口は右側です――》
片耳ずつ付けた骨伝導イヤホンから伝わる車内放送。
――僕は……僕は……
どうしていいのか、わからない。
…………
18時のチャイムが鳴る。
残っていた生徒たちが教室を出て行き、スバルとメイセイだけが残された。
と、片耳からイヤホンが外される。
「どうだった?」
振り向くと、メイセイの切れ長な目がスバルを見上げている。
「最高。」
「アッハハハハハハ!」
あまりのスバルの即答ぶりがツボにはまったのか、
メイセイがお腹を抱えて笑い出した。
「アハハハハ!乗りながら勉強してる感じになるっしょ?」
「それな。」
二人はガタガタと音を立てながら立ち上がる。
「聞き終わるとき、ちょっとグッとくるな。
『ありがとう!トゥルリラインバータ!』ってなる。」
「スバルくんと乗りたかった……絶対楽しいヤツ。」
「それな……」
楽しそうだと純粋に思ったのに、言葉に詰まる。
メイセイはスバルが高1のときに、中3で入部してきた。
もともと在籍していた部が廃部になったからだ。
外見からしてオタクが多い鉄研に、目が覚めるようなハンサムが入ったものだから、
スバルたちは心底驚いた。
名ばかり部活だと言う者もいた。
しかし、そんな噂も、学園祭、合宿などで垣間見えるメイセイの「てっちゃん」ぶりにかき消されていった。
面も頭も良くて、
登下校時に彼女を連れているメイセイは、
鉄研の誰もが密かに認める隠れた花形だった。
***
でも、スバルが高2の冬くらいになると、段々部活を休みがちになった。
登下校のときに女子といることも少なくないが、
部活の日は、近くの開放教室で自習していることが多い。
部員は当然いい顔をしない。
それまで特別視していた分、裏切られた気持ちになったのだ。
高2では副部長、高3では部長になったスバルは、そういった部員たちのメイセイへの陰口を耳にしていた。
ただ、スバル自身は大して何も感じなかった。
皆勤賞の者、
休みがちになる者、
退部する者、
――色々いる。
メイセイが陰口を叩かれるのは、
メイセイが目立つ……それが理由のほとんどだと知っていたからだ。
薄暗い廊下を並んで歩きながら、スバルは思い出した。
(コイツが中3、高1のときは楽しかったよな……)
スバルが学園祭で、出店のパネルの一つとして「USの貨物列車」をやりたいと言ったら、
誰も乗って来なかった。そのときメイセイが、
「ダブルスタックいいスよね、輸送量を可視化するの熱いかも。」
とか言いながらやって来たのだ。
途端に参加者が増え、盛り上がったものだ。
そう――楽しかったのだ。メイセイといると。
そのメイセイが戻って来た。
スバルのことを好きだという告白を引っ提げて。
なんという皮肉だろう、そして……
――なんという難題だろう。
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ꕤ*.゜ このお話とはまた違う、少年王の恋も連載中です
感情の乏しい13歳の少年大王シリウスが、
天敵である猫族少女リヒトと出会うところから始まる恋愛ファンタジー。
三年後に再会した二人は、少しずつ距離を縮めていきます。
現在は、昔スンとしていたシリウスが恋をして、照れて、浮かれて、甘々お祭りデート中です(笑)
その一方で、物語の奥では二百年前から続く因縁も動いています ꕤ*.゜
『神鼠の大王は猫を愛せない』
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