⑪ とうとうホテルに着いた、スバルくんと俺
スバルくんと俺は、とうとうホテルに着いた。
ガサガサとコンビニの袋の音をさせながら、ホテルの部屋のドアを開ける。
「お、キレイ!」
「ホントだ、意外と広い!」
俺たちは声を上げる。
「靴ってここら辺で脱ぐの?」
「あ、スリッパある。はい、メイセイ。」
スバルくんから渡されたスリッパの袋を、
俺はうまく開けられず、無理矢理破った。
その間も、
――頭が、ずっとぐるぐるしている。
スバルくんはゲイじゃない。
それでも、俺と付き合ってくれて、
泊まりの意味もわかったうえで、この旅行に誘ってくれた。
5月に付き合い始めてから3か月くらい。
人のいないところで手を握る。
キスもしてる。
でも、それ以上に進むと、どうなるんだろう?
実際に、それ以上に進んだら、俺を見たら分かってしまうんじゃないか?
――男とは付き合えないことに。
だから……
――本当は、この旅行の誘いを断るべきだったのかもしれない。
それでも俺は、「その瞬間」に俺たちの関係が終わってしまうとしても、
ただの恋愛ごっこのまま、ふいにいつか終わってしまうより……
二人で身体に触れ合った思い出くらい、
――この手に残したかったんだ。
それに、もしかすると、一万分の一の可能性だけど、
スバルくんも「悪くない」と思ってくれるかもしれない。
そうしたら、「同情の好き」から、もう一段上の「好き」になるかも。
そうしたら、
そうしたら……
***
「メイセイ!お弁当、冷蔵庫に入れるよね?」
俺は目が覚めたようにハッとした。
「うん、お願いしま……す。」
俺も、ごそごそとリュックから飲み物を出す。
「メイセイ。」
俺はハッと振り向いた。
すぐ後ろにスバルくんが立っている。
「シャワー、した方がいいよね?」
俺の胸に熱した鉄球がガァンとぶつかった。
頬があり得ないほど燃え立ってくる。
「あ、うん。」
「じゃあ、僕、先にするね。」
俺はカサカサに乾いた口を開けてスバルくんを見送った。
それから、順番にシャワーを浴びる。
俺がユニットバスからそろりと出ると、部屋にスバルくんの姿がない。
慌てて部屋の方に走ると、
「どうしたの?」
と驚いたスバルくんの声。
スバルくんは壁側のベッドで、壁にもたれて座っていた。
「い、いなくなったと、思って……」
スバルくんは困ったように笑う。
「そんなわけないじゃん。」
こういうとき、どうすればよかったんだっけ。
年上の元カノはどう言ってたっけ。
別のときはどうしてたっけ。
ノンケの、
失敗するといなくなる、
二年間想い続けた、
大好きなスバルくんには、
どうすればいいんだっけ。
急に、スバルくんがベッドの上に立って、俺の方に近づいてくる。
「お!こうすると、僕の方がメイセイよりも背がめっちゃ高い。」
ベッドの上から俺を見下ろして笑うスバルくん。
笑顔が遠い。
――いや、もともと、遠いんだ。
遠いところにいる人なんだ。
俺は歯を食いしばる。
急に、ボロボロと涙が頬や鼻を伝い落ちる。
会えないのは嫌だ。
話せないのも嫌だ。
本当は、ずっと恋人でいたい。
でも、きっと、今日のことを、俺のことを、スバルくんが後悔する日が来る。
彼女が出来て、
結婚する女性が出来て、
昔、男の俺と恋人だったことが胸のトゲになる日が。
「メイセイ。どうして泣いてるの?」
俺は鼻をすすり上げた。
「なんとなく……」
「なんとなくで泣かないでしょ。」
今、ここで止まれば、トゲにならずに済むんだ。
スバルくんと俺は、今日並走した新幹線とSLみたいなもの。
ちょっと楽しいイベントがあって、一瞬並走しただけ。
本当は、列車の種類も行き先も違う……




