編集前
遅れてしまいました!
第七話です!
ユウの葬儀は三日後に行われた。
雨は降らなかった。
空は相変わらず乾いていて、灰色だった。
小さな共同墓地。
並ぶ簡易墓標。
戦争が始まってから、この場所は何度も拡張されているらしい。
棺の前で、ミナはずっと俯いていた。
泣き疲れたのか、もう涙は出ていない。
周囲には近所の人々が集まっている。
誰も大声では泣かない。
静かだった。
あまりにも静かだった。
死に慣れている。
シオンはその事実に寒気を覚えた。
子どもの死が、“珍しくない”世界。
それが戦争だった。
「……ごめんね」
ミナが小さく呟く。
「もっと早く帰ればよかった」
シオンの胸が締め付けられる。
本当は違う。
悪いのは彼女じゃない。
だが、そう言う資格が自分にはなかった。
自分が座標を送った。
自分がこの死を作った。
葬儀が終わった後も、シオンはしばらく墓地に残っていた。
風だけが吹いている。
その時。
スマートコンタクトへ暗号通信が入る。
《至急接続》
軍情報局。
シオンは人気のない路地へ移動し、通信を開いた。
ヴェルナー少佐の顔が浮かび上がる。
『報告が遅い』
「問題ありません」
『感情揺れが観測されている』
シオンの背筋へ冷たいものが走る。
情報局は兵士の視線速度、心拍、入力間隔まで解析している。
迷いは数値化される。
『任務を忘れるな』
「……了解」
『今回の爆撃は成功だった。地下送水ルートを大きく破壊できた』
成功。
その単語に吐き気がした。
『民間被害は想定範囲内だ』
少佐は淡々と言う。
『必要な犠牲だった』
通信が切れる。
シオンはしばらく動けなかった。
必要な犠牲。
昔なら納得していた。
だが今は、その言葉が異様に冷たく聞こえる。
夜。
シオンは浄水施設へ向かった。
任務ではない。
ただ、一人になりたかった。
施設内部は静かだった。
非常灯だけが薄暗く通路を照らしている。
機械音。
流れる水の低い振動。
その時だった。
施設奥の制御室から話し声が聞こえる。
「……また編集か」
「仕方ないだろ。軍広報部の指示だ」
シオンは足を止めた。
扉が半開きになっている。
中では数人の職員が映像データを確認していた。
モニターへ映るのは、先日の爆撃映像。
崩れる建物。
逃げる市民。
炎。
そして――。
レヴァニア軍のドローン。
だが次の瞬間、映像が切り替わる。
ドローン機影が加工される。
識別コード変更。
紋章削除。
色調変換。
アストラ軍仕様へ書き換えられていく。
シオンの呼吸が止まりそうになる。
「これでまた“レヴァニアの非人道攻撃”完成だな」
「市民感情煽らないと徴兵率下がるし」
職員たちは慣れた様子で作業していた。
まるで事務仕事みたいに。
シオンは動けなかった。
頭の中で何かが崩れていく。
レヴァニアでも、似た映像を何度も見てきた。
燃える街。
泣き叫ぶ子ども。
“敵国の蛮行”。
だが。
それは本当に全部真実だったのか?
自分たちは何を見せられてきた?
何を信じてきた?
その時、職員の一人が笑いながら言った。
「どこの国もやること同じだよな」
「戦争って結局、“どれだけ国民を怒らせられるか”だし」
シオンの視界が揺れる。
胃の奥が冷たくなる。
敵も。
祖国も。
同じことをしている。
憎しみを作っている。
人々を煽っている。
戦争を続けるために。
その瞬間、幼い頃の記憶が蘇った。
学校。
教室。
燃える村の映像。
教官の声。
『敵を人間だと思うな』
あの映像は?
あれも編集されていたのか?
父は本当に“英雄”だったのか?
それとも。
国家に利用されただけなのか。
シオンは壁へ手をつく。
呼吸が浅い。
頭が痛い。
世界の輪郭が崩れていく。
正義だと思っていた。
祖国を守っていると思っていた。
人々を救っていると思っていた。
だが実際は。
自分は、誰かが作った憎しみの上で人を殺していた。
その時。
背後から声がした。
「……シド?」
ミナだった。
シオンは反射的に振り返る。
彼女は不思議そうにこちらを見ている。
「こんな時間に何してるの?」
シオンは答えられなかった。
もし今、自分の正体を明かしたら。
彼女はどんな顔をするだろう。
弟を殺したのがお前だと知ったら。
シオンの喉がわずかに震える。
だが結局、何も言えなかった。
ミナは近づいてくる。
「顔色悪いよ」
その優しさが、逆に苦しかった。
シオンは静かに目を伏せる。
自分はもう、“正義の側”へ戻れない気がしていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
次回はしっかり日曜日20時に投稿します!




