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渇きの境界線  作者: すずはる


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2/12

英雄の条件

こんにちは!

第二章です!

ぜひ最後まで読んでください!

 軍学校地下第三訓練区画。

 そこには窓が存在しなかった。

 白いLED照明だけが無機質に空間を照らしている。

 シオンは射撃姿勢のまま標的を見つめていた。

《心拍数:61》 《視線安定率:97%》 《射撃補助リンク接続完了》

 スマートコンタクトが視界へ情報を重ねる。

 風速。

 距離。

 弾道予測。

 照準支援。

 標的の頭部へ赤い円が表示された。

「撃て」

 ヴェルナー少佐の声。

 シオンは引き金を引いた。

 乾いた破裂音。

 標的中央へ着弾。

 周囲の生徒たちがわずかにざわめく。

 またか。

 そんな空気だった。

 シオンは射撃成績でも常に上位だった。

 感情の揺れが少ない。

 脈拍が乱れない。

 恐怖反応が薄い。

 軍にとって、それは“理想的”だった。

「優秀だ」

 少佐が言う。

「お前は迷わない」

 シオンは無言で銃を下ろした。

 褒められることには慣れていた。

 だが、嬉しいとは少し違う。

 認められると安心するのだ。

 自分は正しい側にいるのだと確認できるから。

 訓練終了後。

 生徒たちは食堂へ移動する。

 薄い栄養食。

 水分量まで管理されたスープ。

 壁面モニターでは戦況ニュースが流れていた。

『アストラ共和国による新型地下掘削兵器を確認』

『国境地帯の緊張が高まっています』

 誰も驚かない。

 食事を続ける。

 戦争は日常だった。

「なあ、シオン」

 向かいへ座った青年が声をかけてくる。

 レオ・グランツ。

 同期の中でも成績優秀者として知られている男だった。

 短く刈った金髪。

 鋭い目。

 だがシオンより感情が表に出るタイプだ。

「今日も満点か」

「普通だ」

「普通じゃないだろ」

 レオは苦笑した。

「お前、機械みたいだな」

 その言葉を周囲の生徒たちも笑う。

 シオンは否定しなかった。

 昔から何度も言われてきた。

 痛みへの反応が薄い。

 恐怖が少ない。

 冷静すぎる。

 だから軍は彼を高く評価していた。

「でも助かるよな、そういう奴」

 別の生徒が言う。

「感情的な奴から死んでくし」

 誰かが頷く。

「この前の東部戦線でも、新兵がパニック起こして部隊壊滅したらしいぜ」

「だから感情はいらないんだよ」

 笑いながら話す。

 まるでスポーツの戦術でも語るように。

 シオンはスープを口へ運びながら、ぼんやりモニターを見つめていた。

 そこには“英雄兵士特集”が流れている。

 義手の帰還兵。

 失った足。

 勲章。

 涙を流しながら敬礼する家族。

『彼らの犠牲が、我々の水を守っています』

 ナレーションが響く。

 食堂の何人かが自然に拍手した。

 シオンも小さく手を叩く。

 その時だった。

 モニター映像が切り替わる。

 国境地帯。

 黒煙。

 破壊された輸送車。

 そして一瞬だけ映った、小さな少女。

 泣いていた。

 泥だらけの顔。

 何かを叫んでいる。

 だが音声はない。

 すぐ映像が切り替わる。

『敵国による卑劣な攻撃を決して許すな』

 食堂では怒号が上がった。

「クソ野郎ども……!」

「絶対潰せ!」

「水泥棒が」

 皆、本気で怒っていた。

 シオンも同じように思う。

 アストラは敵だ。

 父を殺した国。

 人々から水を奪う国。

 そう教わってきた。

 疑う理由などなかった。

 食後。

 シオンは廊下を歩いていた。

 窓の外では夕焼けが広がっている。

 赤い空。

 その中を軍用輸送機が飛んでいく。

「シオン」

 背後からレオが呼び止めた。

「少し付き合えよ」

 訓練棟裏。

 人の少ない場所。

 レオは壁へ寄りかかりながら缶飲料を開けた。

 もちろん水はほとんど入っていない。

 合成栄養液だ。

「お前さ」

 レオが空を見上げる。

「怖くないのか?」

「何がだ」

「戦争」

 シオンは少し考えた。

「怖がっても意味はない」

「……まあ、お前らしい答えだな」

 レオは苦笑する。

「でも俺、たまに分かんなくなるんだよ」

「?」

「本当に終わるのかな、この戦争」

 珍しい言葉だった。

 軍学校でそんな疑問を口にする人間は少ない。

「終わるだろ」

 シオンは即答した。

「アストラを倒せば」

「本当にそれだけか?」

 シオンは眉をわずかに動かす。

 レオは続けた。

「戦争始まってもう二十年以上だぞ」

「それだけ敵がしつこいってことだ」

「……かもな」

 だがレオの表情には納得がなかった。

 遠くでサイレンが鳴る。

 防空訓練開始。

 校内アナウンスが響いた。

『訓練警報。全生徒は地下シェルターへ移動してください』

 生徒たちは慣れた動きで移動を始める。

 誰も焦らない。

 誰も騒がない。

 戦争が長すぎたのだ。

 恐怖すら“いつものこと”になっている。

 地下シェルターへ降りる途中、小学生くらいの子どもたちが見えた。

 近隣学校の避難訓練らしい。

 小さな少年が笑いながら友達へ言う。

「オレ将来ドローン兵になる!」

「俺は狙撃兵!」

 教師が笑顔で頷く。

「立派ですね。祖国を守ってください」

 シオンはその光景を見つめた。

 違和感はなかった。

 むしろ自然だった。

 それがこの国の“普通”だったからだ。

 地下シェルターへ入る。

 コンクリート壁。

 人工照明。

 息苦しい空気。

 壁には大きな標語が貼られていた。

『水を守る者が、未来を守る』

 その隣には、新しい徴兵ポスター。

 若い兵士が笑顔で銃を掲げている。

『次に祖国を守るのは君だ』

 シオンは静かにそのポスターを見上げる。

 その時、スマートコンタクトへ通知が表示された。

《軍情報局 適性選抜対象者通知》

 一瞬、周囲の音が遠くなる。

 軍情報局。

 それは軍の中でも特別な存在だった。

 潜入。

 情報操作。

 暗殺。

 国家の“見えない戦争”を担う部署。

 選ばれるのは、ごく一部。

 レオが通知画面を見て目を見開く。

「……お前、マジか」

 シオンは小さく息を吐いた。

 胸の奥が熱くなる。

 認められた。

 祖国に必要とされた。

 それが嬉しかった。

 ヴェルナー少佐の言葉が頭をよぎる。

『お前は迷わない』

 シオンはまだ知らなかった。

 その“迷わなさ”が、やがて自分自身を壊すことになることを。


読んでくださってありがとうございました!

今回は少し日常寄りな所もある話でした。

でも、戦争って実はこういう“普通の日常”のすぐ隣にあるものなんじゃないかなと思っています。

シオンもまだこの時点では、自分の信じてきたものを疑い切れていません。

これから少しずつ世界の見え方が変わっていきます。

あと個人的に、スマートコンタクトとか監視社会っぽいものを考えるの楽しかったです笑

次の章からは物語もかなり動いていくので、ぜひ続きも読んでもらえたら嬉しいです!

コメントとかございましたらぜひ送っていただけたら嬉しいです!

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