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渇きの境界線  作者: すずはる


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11/12

壊れた英雄

11話です!

 吹き飛んだ扉の向こうに立っていたのは、ミナだった。

 黒い防護コート。

 息を切らしている。

 その後ろでは警報灯が赤く点滅し、煙が通路へ流れ込んでいた。

 一瞬、シオンは現実感を失う。

「……なんで」

 ミナは答えない。

 ただ真っ直ぐこちらを見ていた。

 その目には怒りと、迷いと、恐怖が全部混ざっている。

 ヴェルナー少佐が拳銃を構える。

「動くな」

 低い声。

 だがミナは止まらなかった。

「シオン!」

 その名前を呼ばれた瞬間。

 少佐の目が細くなる。

「やはり正体を明かしていたか」

 シオンは拘束具を引き剥がそうとする。

 金属が軋む。

 神経抑制コードが皮膚へ食い込む。

《過負荷警告》

「逃げてろ!」

 シオンが叫ぶ。

 だがミナは動かない。

 少佐が静かに銃口を向けた。

「敵国民に情を移したか」

「違う」

 シオンは睨み返す。

「人間として見ただけだ」

 その言葉に、少佐はほんの僅かだけ表情を変えた。

 失望だった。

「それが弱さだ」

 銃声。

 ミナが咄嗟に身を伏せる。

 壁へ弾丸がめり込む。

 次の瞬間、施設全体が再び揺れた。

 遠くで爆発音。

 侵入者は一人じゃない。

 混乱が広がっている。

 ミナが拘束装置へ飛びつく。

「これ外せる!?」

「右側の制御コードを切れ!」

 彼女は震える手で工具を差し込む。

 少佐が再び銃を向ける。

 シオンは反射的に拘束具ごと身体を捻った。

 発砲。

 肩へ焼けるような痛み。

 血。

 だがその瞬間。

 拘束装置が外れる。

 シオンは即座に少佐へ体当たりした。

 二人が床へ倒れ込む。

 拳銃が滑る。

 殴打。

 肘打ち。

 訓練された動き。

 少佐は異常なほど強かった。

「感情に流されるな!」

 殴りながら叫ぶ。

「お前は兵士だ!」

 シオンは歯を食いしばる。

「俺はもう、お前らの道具じゃない!」

 少佐の拳が頬へ叩き込まれる。

 視界が揺れる。

 だがシオンは止まらない。

 頭の中でユウの顔が浮かぶ。

 ミナの涙。

 編集映像。

 軍需企業。

 全部。

 全部、燃えるみたいに脳裏を駆け巡る。

 その瞬間。

 シオンは少佐の拳銃を掴んだ。

 照準。

 互いの額。

 呼吸音だけが響く。

 少佐が低く言う。

「撃て」

 シオンの指が震える。

「お前が否定した“戦争の論理”を、今お前自身が選ぶんだ」

 撃てば終わる。

 少佐は死ぬ。

 憎しみの象徴。

 洗脳。

 情報操作。

 戦争維持。

 その中心にいた男。

 だが。

 シオンは撃てなかった。

 少佐を見てしまったからだ。

 この男もまた、“国家の正義”を本気で信じている。

 狂っている。

 だが悪意だけじゃない。

 それが分かってしまった。

 だから簡単に引き金を引けない。

 少佐が静かに笑う。

「甘いな」

 その瞬間。

 ミナが後ろから消火ボンベを少佐へ叩きつけた。

 鈍い音。

 少佐が崩れる。

 シオンは呆然とする。

 ミナは息を荒げながら叫んだ。

「行くよ!」

 警報音が響く。

《拘束対象逃亡》 《施設封鎖開始》

 通路の隔壁が降り始める。

 二人は走った。

 煙。

 赤い警告灯。

 兵士たちの怒号。

 銃声。

 シオンはミナの手を掴み、施設通路を駆け抜ける。

 背後ではヴェルナー少佐がゆっくり立ち上がっていた。

 額から血を流しながら。

 それでも追ってこない。

 ただ静かに二人を見ている。

 その目には怒りよりも、諦めに近いものがあった。

「シオン!」

 ミナの声。

 二人は非常出口へ飛び込む。

 冷たい夜風。

 外だった。

 遠くで施設の一部が炎上している。

 空には監視ドローン。

 サーチライト。

 都市全体へ緊急放送が流れていた。

『国家反逆者を確認』

『市民は発見次第、即時通報してください』

 シオンは荒い呼吸のまま立ち尽くす。

 反逆者。

 少し前まで、自分が追う側だった言葉。

 ミナが静かに言った。

「……もう戻れないね」

 シオンは夜空を見上げる。

 監視ドローンの赤い光が、無数の目みたいに瞬いていた。

 そして彼はようやく理解する。

 自分は今、本当に“国家の敵”になったのだと。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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