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第8話 女子高生の姿をした九尾

 外へ出ると、白い狐は歩道の真ん中にいた。


 街。


 人の流れ。


 車の音。


 信号機。


 会社員。


 学生。


 その中に、白い狐が一匹。


 当然、目立つ。


「あ、狐!」


「え、本物?」


「かわいい!」


 何人かが足を止める。


 スマホが向けられた。


 妲己の耳がぴくりと動く。


 赤い目が周囲の人間を見る。


「人間は」


 小さく吐き捨てる。


「すぐ見る」


 さらにスマホが向けられる。


「妲己さん!」


 俺が声を上げる。


 その瞬間、白い影が妲己自身を包んだ。


「え」


 狐の輪郭が揺らぐ。


 小さな身体が伸びる。


 白い毛並みが髪へ変わる。


 前足が腕へ。


 後ろ足が脚へ。


 尾が、身体の内側へ溶けるように消えていく。


 ほんの数秒。


 白い狐がいた場所に、一人の少女が立っていた。


 小柄。


 十六、七歳くらい。


 白い髪。


 赤い目。


 少し大きめの黒いパーカー。


 袖が長い。


 黒いスカート。


 狐耳はない。


 尾も見えない。


 ぱっと見れば、少し変わった髪色の女子高生にしか見えなかった。


 周囲の人たちが戸惑う。


「あれ?」


「狐は?」


「今、女の子いなかった?」


「動画撮れた?」


「……人になった」


 佐伯さんが言った。


「人の姿も取れるって」


 俺も言う。


「そこも、本当だったんですね」


「そうみたい」


 黒川さんが妲己を見ている。


「黒川さん」


「はい」


「今は描かないでください」


「わかっています」


 本当にわかっている顔だった。


 妲己は、自分の身体を一度だけ見下ろした。


 服。


 手。


 足。


 驚いてはいない。


 この姿も、妲己にとっては普通なのだ。


 狐の姿も、人の姿も、どちらも妲己。


 妲己はこちらを振り返る。


 白い髪が揺れる。


「ではな、宮田」


「待ってください!」


 聞かなかった。


 そのまま人の流れへ入る。


 会社員。


 学生。


 買い物客。


 その間へ、白髪の少女が紛れ込む。


 さっきまで誰もが足を止めていた白狐が、人の姿を取った途端、街の風景の中へ溶けていく。


「……まずい」


 俺が言った。


「探す対象が、狐から女子高生になりました」


 佐伯さんが頭を抱える。


「もっとまずくなった」


 光秀がすぐにスマホを取り出した。


「手分けしましょう」


「はい」


「ただし、宮田さん単独での追跡は避けてください」


「なぜです?」


「十六、七歳程度に見える女性を、成人男性が追跡する形になります」


「言葉にすると最悪ですね」


「信長様と一緒にお願いします」


「私が宮田の付き添いか」


「社会的に必要です」


「面倒だな、現代」


 佐伯さんと黒川さん。


 光秀とジャンヌ。


 俺と信長。


 三方向へ分かれる。


「発見したら連絡を」


 光秀が言う。


「わかりました」


 俺は人の流れを見る。


 白い髪はもう見えない。


「行くぞ、宮田」


「はい」


 俺たちは現代の街へ散った。


 探すのは、もう白い狐ではない。


 女子高生くらいの姿をした、一国を相手にできる九尾だった。

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