表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/22

第9話 監視を継続します

 その時、PC画面の隅に、見慣れない通知が出た。


 赤い四角。


 白い文字。


 ――監視対象イベントに指定されました。


 ――修正史管理局・史観監査課。


 次の瞬間、開発フロア全体のモニターが一斉に暗転した。


 悲鳴が上がる。


 誰かが「サーバー落ちた!?」と叫ぶ。


 高橋さんが「まだ本番じゃないです!」と叫び返す。


 佐伯さんが立ち上がる。


「全員、落ち着いて! まず影響範囲確認!」


 その声は震えていたが、プロデューサーの声だった。


 黒川さんは信長の前に立ち、ジャンヌは静かに目を閉じる。


 信長はフードを脱いだ。


 黒い猫耳が、はっきりと現れる。


 開発フロアの何人かが、それを見て固まった。


 だが、もう隠している余裕はなかった。


 モニターの一つに、白い文字が表示される。


 ――警告後の歴史改変行為を確認。


 ――当該イベントの公開停止を推奨します。


 信長が、笑った。


「推奨、か」


 彼女の手が刀にかかる。


「ずいぶん穏やかな言葉を使う」


 俺は、自分のPCを抱えたまま立ち上がった。


 怖くないわけではない。


 むしろ、めちゃくちゃ怖い。


 管理局が何をできるのかもわからない。

 ストア審査も止まっている。

 社内説明も無理だ。

 七日後に三周年イベントが出せる保証なんてどこにもない。


 それでも、さっき打った文は残っている。


 ユーザーのコメントも残っている。


 信長はここにいる。


 なら、まだ終わっていない。


「佐伯さん」


「何、宮田くん」


「俺、シナリオ続き書きます」


「今?」


「今です。消される前に」


 佐伯さんは、一瞬だけ目を閉じた。


 そして言った。


「わかった。書いて。サービスはこっちで守る」


 その言葉で、腹が決まった。


 俺はPCを開く。


 画面の警告文を無視して、シナリオファイルを開く。


 タイトル。


 《獣血天魔・織田信長 ――本能寺の先へ》


 その下に、続きを書く。


 ――彼女は炎の中で終わったのではない。


 ――炎の中で、次の名を待っていた。


 文字は消えない。


 今度は、消えなかった。


 信長が背後で言う。


「宮田」


「はい」


「私は、何と名乗ればよい」


 俺は少し考えた。


 そして打つ。


 ――織田信長。


 ――第六天魔王。


 ――獣血を宿す半妖の姫武将。


 ――そして、現代に召喚されたヒスガル三周年限定SSR。


 信長が沈黙した。


「最後のは必要か」


「必要です」


「なぜだ」


「この時代で戦うなら、そこもあなたの名です」


 信長は、しばらく黙っていた。


 それから、呆れたように笑った。


「まったく、貴様の書く私は、私の知らぬ私だ」


「すみません」


「謝るな」


 信長は言った。


「腹立たしい。だが、悪くない」


 その瞬間、暗転していたモニターの一つが復帰した。


 次に、もう一つ。


 また一つ。


 開発フロアに、少しずつ光が戻っていく。


 高橋さんが叫んだ。


「SNS予約、復旧しました!」


 別のスタッフが続く。


「画像サーバー戻りました!」


「ストア申請、再提出できます!」


 佐伯さんが、ようやく椅子に座り込む。


「勝った……?」


 ジャンヌが首を横に振った。


「いいえ。押し返しただけです」


「ですよね」


 佐伯さんは乾いた笑いを漏らした。


 モニターの警告文は消えていなかった。


 最後に、一行だけが残っている。


 ――監視を継続します。


 その文字を見て、信長は鼻で笑った。


「見ているがよい」


 彼女はモニターに向かって言った。


「私は、もう記録の中だけには戻らぬ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ