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第2話 九尾そのものにしてみた

 二日後。


 会議室Bで、正式に次回大型イベントの企画会議が開かれた。


 モニターの前には、俺と黒川さん、佐伯さん。


 そして、信長、光秀、ジャンヌ。


「では」


 佐伯さんが言った。


「次回大型イベント候補。妲己」


 モニターへ名前を出す。


「妲己」


 ジャンヌが小さく読み上げた。


「宮田くん、お願いします」


「はい」


 俺は最初の資料を映した。


 殷王朝末期。


 紂王に寵愛された美女。


 王を惑わせた悪女。


 王朝滅亡の象徴。


 後世には、狐妖、九尾の狐とも結びつけられた存在。


「一般には、この辺りが有名です」


「それを、そのまま使うのか?」


 信長が聞く。


「いえ」


 次の画面へ切り替える。


 白い狐。


 その背後に広がる九本の尾。


「今回は、こっちを主軸にします」


 光秀が画面を見る。


「九尾の狐」


「はい」


「美女に狐の要素を加えるのではなく、妲己そのものを九尾にします」


「理由は?」


 佐伯さんが聞いた。


「普通に作ると、九尾が装飾になるからです」


「装飾」


「傾国の美女がいて、その後ろに九本の尾を置く。それだけでも妲己には見えます」


 俺は人型のラフを表示する。


 妖艶な美女。


 赤と金を基調にした衣装。


 その背後に九本の尾。


「最初はこんな感じでした」


「妲己らしくはあるな」


 信長が言った。


「そうなんです。でも、尾を全部消してもキャラクターとして成立する」


 黒川さんが頷く。


「九尾が本人ではなく、妲己らしさを示す記号になります」


「それが嫌で」


 俺は次のラフへ切り替えた。


 白い狐。


 九本の尾。


「逆にしました」


「逆?」


 ジャンヌが聞く。


「最初から九尾がいるんです」


 次。


 白髪の少女。


 狐耳。


 九本の尾。


「その九尾が、人の姿も取る」


 光秀が資料を見る。


「妲己という美女が、後に狐妖と結びつけられたのではなく」


「妲己そのものが、最初から狐の妖怪だったことにします」


 信長が少しだけ笑う。


「ずいぶん盛ったな」


「まだあります」


「まだ?」


 俺は最後の項目を出す。


 ――一国を相手にできるほどの力を持つ九尾。


 一瞬、会議室が静かになった。


「宮田くん」


「はい」


「改めて見ると、かなり盛ったね」


 佐伯さんが言った。


「限定SSRなので」


「それで許されるのか」


 信長が笑う。


「たぶん」


「たぶんで作るな」


 黒川さんが補足する。


「九尾は演出ではなく、身体の一部として設計しています。狐形態も設定画を作成済みです」


「人型を本体、狐を変身形態とするわけではないのですね」


 光秀が確認する。


「そのつもりです」


 俺は答えた。


「どちらも妲己」


「主軸は九尾ですが、本人性に上下はつけません」


 黒川さんが続ける。


「人型をメインビジュアルに置き、物語側で九尾そのものが妲己だと見せます」


「絵としては?」


 佐伯さんが聞く。


「成立します」


 黒川さんは即答した。


「九本とも実体として設計しています」


 光秀が人型ラフを見る。


「画面占有率がかなり大きいですが」


「構図で対応します」


「衣装との干渉は?」


「設定画で処理します」


「さすが細かいな、光秀」


 信長が言う。


「必要な確認です」


「光秀さんらしいですね」


 ジャンヌが微笑む。


 いつもの企画会議だった。


 少なくとも、その瞬間までは。


「じゃあ」


 佐伯さんが言う。


「この方向で、もう少し詰め――」


 モニターが揺れた。


「……ん?」


 俺は画面を見る。


 白狐のラフ。


 九本の尾。


 その一本が動いた。


「黒川さん」


「はい」


「今、動かしました?」


「いいえ」


「ですよね」


 もう一本、ゆっくりと尾が揺れる。


 白狐がこちらを見る。


「宮田さん」


 ジャンヌが少しだけ椅子を引いた。


「これは」


「たぶん」


 俺はもう知っていた。


 この会社で絵が勝手に動いた時、ろくなことは起きない。


 画面の中で白狐が一歩前へ出る。


 モニターの表面が、水のように揺れた。


 次の瞬間、白いものが会議机の上へ降りた。


「……」


 誰もすぐには声を出せなかった。


 白い狐。


 小柄な身体。


 白い毛並み。


 そして背後には、九本の大きな尾。


 俺たちが二日前に描いたものと、よく似ている。


 いや、似ているどころではない。


 その狐は会議机の中央へ座ると、赤い目でゆっくり俺たちを見回した。


「なかなか」


 狐が言った。


「面白いものを描くではないか」


「喋った」


 佐伯さんが言った。


「そこですか」


「いや、だって狐が」


「佐伯さん」


「はい」


「たぶん、もっと大きい問題があります」


「わかってる」


 狐がこちらを見る。


「騒がしい人間どもじゃな」


 信長が腕を組んだ。


「貴様」


「何じゃ」


「妲己か?」


 白狐の目が少しだけ細くなる。


「その名で呼ばれたこともある」


 会議室が静まり返った。


 白狐は、そんな俺たちを順番に見た。


「それで」


 赤い目が細くなる。


「そなたらは何者じゃ」

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