第22話 活史修正
翌朝。
御堂真白は、予定通り午前十時に来社した。
会議室へ入るなり、机の上へ端末を置く。
画面には、昨夜の配信映像が停止された状態で表示されている。
ジャンヌが白銀のマイクを持っている場面だった。
「確認事項が増えました」
御堂は言った。
「ですよね」
「まず、新イベントについて」
画面が切り替わる。
『アイドル・ジャンヌ☆ 聖女はステージで夢を見る』
御堂はタイトルを読み上げなかった。
画面を無言で見つめた。
一秒。
二秒。
三秒。
事前に予想した三十秒まではいかなかった。
だが、御堂にしては長い。
「星は必要ですか」
「必要です」
黒川さんが即答した。
御堂は深追いしなかった。
「修正史におけるジャンヌ・ダルクの人物像から、大きく逸脱しています」
「ゲーム内の期間限定イベントです」
俺が答える。
「一時的な衣装や役割であっても、大衆認識へ影響します」
「でも、本人が選びました」
「本人の選択であれば、影響がなくなるわけではありません」
「分かってます」
御堂はジャンヌを見る。
「あなたは、この姿を望んでいますか」
「はい」
ジャンヌは答えた。
迷いはあった。
だが、他人の顔色を見てから出した答えではない。
「聖女としての自分を否定するために?」
「いいえ」
「では、なぜ」
「聖女だけが私ではないと、お伝えするためです」
「伝える必要がありますか」
「私には、あります」
御堂の指が端末の上で止まる。
「それにより、修正史における人物像が変化する可能性があります」
「はい」
「あなたが模範的な顕現として許容される可能性も低下します」
「承知しています」
「アルカディアや、他の顕現体へ不利益が及ぶ可能性も」
ジャンヌの表情が、わずかに揺れた。
そこを突かれると弱い。
自分の選択で他人が傷つく。
以前の彼女なら、すぐに引き下がっただろう。
だが、信長が先に口を開いた。
「また私を盾に使うつもりか」
「危険性を説明しています」
「私の不利益は私が決める」
光秀もうなずく。
「私も同意します」
「皆様」
ジャンヌが二人を見る。
信長は面倒そうに手を振った。
「同じ話を二度させるな」
ジャンヌは目を伏せる。
そして御堂へ向き直った。
「それでも、私は続けたいと思います」
「理由は」
「私は、誰かを守るために自分を押し殺すことを、正しいと思っていました」
「それは修正史におけるあなたの人物像と一致します」
「はい」
ジャンヌは否定しない。
「それは、今も私の一部です」
「では、何が問題なのですか」
「その一部だけを選び続けることで」
ジャンヌは胸元へ手を置く。
「私が何を望んでいるのか、私自身が分からなくなっていたことです」
御堂は黙っている。
「誰かを守りたいという思いは、本当です」
「聖女として生きたことも、否定いたしません」
「ですが、自分の願いを持つことが、誰かを見捨てることと同じではないと」
「皆様に教えていただきました」
宮田たち。
信長。
光秀。
会社。
視聴者。
さまざまな関わりの中で、彼女は少しずつ答えを作った。
「あなたが具現化した物体について確認します」
御堂は話題を切り替えた。
「再現できますか」
「はい」
ジャンヌは右手を開いた。
目を閉じる。
淡い光が集まる。
やがて、白銀のマイクが手の中に現れた。
御堂の端末が反応する。
数値らしきものが激しく変動している。
「聖剣ではありませんね」
「はい」
「本来史に存在した記録もありません」
「はい」
「修正史にも」
「ありません」
「では、これは何です」
ジャンヌは手の中のマイクを見る。
「私の思いを、皆様へ届けるためのものです」
「機能ではなく、存在上の分類を聞いています」
「私には、それ以上は分かりません」
御堂が俺を見る。
「宮田春樹」
「俺ですか」
「あなたは、これをどう認識していますか」
「現代版の聖剣」
思ったまま答えた。
「剣ではありません」
「役割としてです」
「本来史のジャンヌさんは、人々の思いを聖剣として形にして、それを掲げて導いた」
「今は、自分の思いをマイクとして形にして、自分の言葉を届けようとしている」
「形は違いますけど、本質は同じだと思います」
「本質」
「思いを形にする力です」
御堂は光秀を見る。
「あなたは」
「宮田さんと同意見です」
「織田信長」
「本人が剣ではなく、これを望んだ。それだけであろう」
「分類になっていません」
「分類せねば存在できぬのか」
「管理には必要です」
「ならば、好きに名を付けよ」
信長は退屈そうに言った。
「どうせ、存在が先で名は後だ」
御堂は答えない。
しばらく端末を操作したあと、画面へ新しい項目が表示される。
活史修正。
「これは?」
俺が尋ねる。
「暫定的な分類です」




