第17話 聖女に⭐︎を付ける理由
会議は一度休憩になった。
ジャンヌは企画書を持ったまま、窓際へ移動した。
外には、いつもの街が広がっている。
ビル。
車。
駅へ向かう人々。
誰も、かつての聖女がゲーム会社の会議室でアイドル化を検討しているとは思わないだろう。
「宮田さん」
黒川さんが、いつの間にか会議室へ入ってきた。
「企画、見ました?」
「見ました」
「個人的には自信作です」
「今のジャンヌさんに刺さりすぎです」
「昨日の配信を見て、朝までに書きました」
「寝てください」
「衣装案もあります」
黒川さんが、大きなファイルを机へ置く。
「早い」
「清純派聖女アイドル案。軍旗モチーフ案。現代カジュアル案。本人プロデュース前提の白紙案」
「白紙?」
「ジャンヌさん自身に描いてもらうためです」
黒川さんは楽しそうだった。
「何を着たいか、本人が考える。それを私が形にします」
「それ、いいですね」
「でしょう?」
「でも、アイドル化を押し付けないでくださいよ」
「ゲーム内イベントですから。現実の本人には、広報配信を増やしてもらう程度です」
「程度と言いますけど」
「歌って踊らなくていいです」
「広報として、会社やゲームの情報を発信する」
「はい」
ゲーム内ではアイドル。
現実では広報。
どちらも、人前に立って自分を見せる。
だが、完全に同じではない。
ジャンヌ本人へ現代のアイドル活動を強制するわけではない。
イベントシナリオの中で、象徴的に大きく振り切る。
現実側では、配信や告知を通して少しずつ露出を増やす。
「アイドルは、少し盛りすぎでは」
俺が言うと、黒川さんは首を振った。
「そのくらいじゃないと、聖女像は崩れません」
確かに。
聖女の休日。
聖女の料理。
聖女の現代生活。
その程度では、全て聖女という枠へ回収される。
清らかなジャンヌが、可愛らしく過ごしている。
それで終わる。
アイドル・ジャンヌ☆
星まで付ける。
そのくらい軽く、派手で、現代的な姿でなければ、視聴者の中にある像は揺れない。
「ただし、シナリオは軽くしすぎないでください」
「分かっています」
「ジャンヌさんがアイドル服を着て恥ずかしがるだけでは駄目です」
「そこも必要では?」
「必要ですけど」
必要なのか。
ソシャゲだから、たぶん必要だ。
「本人が、見せたい自分を選ぶ物語にします」
「なら、衣装は本人に決めてもらいます」
黒川さんはジャンヌの方を見る。
彼女は窓の外を見ながら、企画書を胸元に抱えていた。
「宮田さん」
「はい」
「今回、売れると思います?」
黒川さんが小声で尋ねた。
「売れます」
俺は即答した。
「ですよね」
「ただ、売れるからやるんじゃありません」
「でも、売れなかったら困ります」
「それもそうです」
理念と商売は両立させなければならない。
アルカディアは会社だった。




