第15話 聖女ではないジャンヌ
配信が終わる。
画面が暗転した。
数秒間、誰も動かなかった。
「終わりました」
スタッフが言う。
その言葉で、スタジオの空気が戻る。
ジャンヌは大きく息を吐いた。
「怖かったです」
「見てて分かりました」
「途中で逃げたくなりました」
「逃げなくてよかったですね」
「はい」
ジャンヌは市販のマイクを見る。
「これは、難しい道具ですね」
「話すだけですよ」
「剣の方が簡単です」
「やっぱり比較対象そこなんですね」
光秀がコメント欄の集計を確認している。
「好意的な反応が七割。判断保留が二割。否定的な反応が一割程度です」
「もう集計したんですか」
「大まかにですが」
「炎上は?」
佐伯さんが尋ねる。
「継続しています」
「駄目じゃない」
「ただし、論点が変わりました」
光秀は画面を見せる。
配信前は、イベント表現の是非について争っていた。
配信後は、
『聖女ではないジャンヌとは何か』
『本人が望む新しい姿を見たい』
『運営が変な方向に走らないか心配』
という話題が中心になっている。
「運営が変な方向に走らないか心配」
佐伯さんが読み上げる。
「ユーザーはよく見てるね」
「現時点では何も決まってません」
俺は言った。
「そこが一番心配だよ」
信長が菓子を食べ終え、立ち上がる。
「まずまずであった」
「信長さんの評価、厳しくないですか」
「まだ、己の望みを語っただけだ」
「それが難しかったんですよ」
「ならば次は、形にせねばならぬ」
信長はジャンヌを見る。
「言葉だけなら、誰でも申せる」
「信長さん」
「貴様の見せたい姿とやらを、余にも見せてみよ」
そう言って、スタジオを出ていった。
「応援してるんですよ、あれ」
俺が言う。
「そうなのでしょうか」
「かなり」
光秀が断言した。
ジャンヌは少し嬉しそうに笑った。
その日の配信は、予想以上に広がった。
切り抜き動画が作られた。
記事になった。
本人役の演者が、キャラクターの死を美化する表現に異議を唱えた。
アルカディアが、キャラクター本人監修という体裁を本気でやり始めた。
そう受け取られた。
もちろん、実際には本当に本人が監修している。
そこだけは、誰も信じていなかった。
◇
翌朝。
俺の机には、企画案が山ほど届いていた。
社内公募をした覚えはない。
だが配信を見たスタッフたちが、それぞれジャンヌの新イベント案を送ってきたらしい。
『戦場の指揮官ジャンヌ』
『もしもジャンヌが現代の女子高生だったら』
『聖女の休日』
『ジャンヌと巡るフランス史』
『ジャンヌの異世界食堂』
『炎上聖女のSNS講座』
最後は却下した。
生々しすぎる。




