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第14話 自分の言葉

 コメントが止まったように見えた。


 実際には流れている。


 ただ、それまでの軽い言葉が減った。


『怖かったです』


『苦しかったです』


『生きたいとも、思いました』


 その言葉が、スタジオへ落ちる。


 信長も、光秀も、何も言わない。


『それでも、私が信じたものを捨てなかったことを、私は後悔していません』


『そのために戦ったことも、人々のために立ったことも、私の誇りです』


『ですが、私の苦しみを、美しい物語としてだけ受け取られることには』


 ジャンヌは、一度息を吸った。


『寂しさを感じます』


 昨日より、はっきりと言った。


 少しだけ、とは付けなかった。


 コメント欄に、言葉が戻り始める。


『ごめん』


『なんか刺さる』


『公式がここまで言うのすごい』


『ジャンヌをキャラとしてしか見てなかったかも』


『でも史実の人物に本人の気持ちとか言うのは違くない?』


『いやこれは作品内設定の話でしょ』


『解釈違い』


『私は、今回のイベントを変更していただきたいとお願いしました』


 実際には、宮田たちが先に止めた。


 だが、ジャンヌ自身も今、それを選んだ。


『聖女である私を消したいわけではありません』


『ただ、それ以外の私も、皆様に知っていただけるものへ変えたいと思っています』


 ここで、ジャンヌの言葉が止まった。


 聖女以外の自分。


 それが何なのかは、まだ分からない。


『どんなイベントになるの?』


『戦闘指揮官ジャンヌ?』


『日常系?』


『ギャグ落ちはやめて』


『聖女要素消さないでほしい』


 質問が増えていく。


 ジャンヌは困った顔をした。


『まだ、決まっていません』


 正直に答えた。


『私は、聖女ではない自分が、どのようなものなのか』


『まだ、よく分かっていません』


 通常の公式配信なら、絶対に言わない言葉だった。


 商品としての方向性が決まっていない。


 企画の結論もない。


 ただ、迷っていると公表している。


『それでも』


 ジャンヌは続ける。


『皆様に望まれた姿を、ただお見せするのではなく』


『私自身が、どのような姿をお見せしたいのか』


『それを考えてみたいと思います』


 声が、先ほどより強くなる。


『そして、その姿を皆様に受け入れていただけるのか』


『確かめてみたいのです』


 それは、ジャンヌが初めて公にした願いだった。


 誰かを守るためではない。


 会社を守るためでもない。


 自分のために、確かめたい。


『どうか』


 ジャンヌは頭を下げた。


『もう少しだけ、お待ちいただけますでしょうか』


 コメントが一気に流れた。


『待つ』


『何でもいいから本人が笑えるやつにして』


『この人ほんとにジャンヌじゃない?』


『役作りだとしてもすごい』


『楽しみにしてる』


『聖女じゃないジャンヌって何だろ』


『急にアイドルイベとか来たら笑う』


 最後のコメントが、妙に目に残った。


 アイドル。


 ジャンヌが?


 俺は横を見る。


 白いブラウス。


 緊張で固くなった表情。


 それでも、自分の言葉を絞り出した少女。


 ない。


 いや。


 だからこそ、あるのかもしれない。


『では、本日の配信は――』


 俺が締めようとした時だった。


『もう一つ、よろしいでしょうか』


 ジャンヌが言った。


「どうぞ」


 完全に素で返事をしてしまった。


『私は、これまで人前に立つ時、何かを示さなければならないと思っていました』


 ジャンヌはカメラを見る。


『正しさ。信仰。勇気。希望』


『私を見た方々が、進むべき方向を見つけられるように』


『そうでなければ、私が人前に立つ意味はないと思っていました』


 机の上で、彼女の指がわずかに動く。


『ですが、昨日』


『誰もついてこなくてもよいのだと、教えていただきました』


 それは少し違う。


 ついてこなくていいと言った。


 意味は、たぶん同じだ。


『私は、それがまだ少し怖いです』


『誰にも求められない私を、お見せすることが』


『ですが』


 ジャンヌは微笑んだ。


 聖女の笑顔ではない。


 不安を隠しきれず、それでも前へ進もうとする少女の笑顔だった。


『次は、私が皆様へ見ていただきたいと思った姿で、お会いしたいです』

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