第7話 七日間
御堂は淡々と告げた。
「期限は、七日間。その間に、ジャンヌ・ダルクの顕現後の方向性、および修正史へ与える影響を再評価します」
「七日ですか」
「十分でしょう」
「人間が新しい自分を見つけるには短くないですか」
「顕現体は人間と同一ではありません」
「本人の前でそれ言います?」
「宮田さん」
ジャンヌが苦笑した。
先ほどまでの寂しそうな笑顔とは、少し違って見えた。
「七日もいただけるのでしたら、十分です」
「本当に?」
「分かりません」
ジャンヌは、もう一度そう言った。
けれど今度は、その言葉にわずかな明るさがあった。
「ですが、分からないことを、分からないと言うところから始めてみます」
御堂は黒いケースを閉じた。
「本日の監査は、ここまでとします」
立ち上がり、会議室の出口へ向かう。
扉の前で、御堂は足を止めた。
「宮田春樹」
「はい」
「あなたは、顕現体へ不要な変化を促している可能性があります」
「不要かどうかは、本人が決めることだと思います」
「その考えが、修正史にとって最も危険です」
そう言い残して、御堂は会議室を出ていった。
扉が閉まる。
しばらく、誰も話さなかった。
最初に口を開いたのは佐伯さんだった。
「七日後に、会社が消される可能性が増えたという理解で合ってる?」
「消去とは言ってません」
「規定上あるって言ってたよね?」
「可能性の話です」
「その可能性を、君がさっき上げたんだよ」
「すみません」
「だから謝ればいい話じゃないんだよ……」
佐伯さんは机に突っ伏した。
信長は愉快そうに笑っている。
光秀は、すでにノートへ何かを書き始めていた。
「何を書いてるんですか」
「今後七日間の行動計画です」
「もう?」
「時間が限られていますので」
「何をすればいいか、まだ決まってないですよ」
「決まっていないからこそ、候補を整理します」
さすが光秀だった。
戦場が会議室に変わっても、まず布陣を考える。
俺はジャンヌを見た。
彼女は先ほどまで御堂が座っていた椅子を見つめていた。
「ジャンヌさん」
「はい」
「余計なことをしたかもしれません」
「そうですね」
「そこは否定してくれないんですね」
「アルカディアにとっては、穏便に終えられる機会でしたから」
「ですよね」
「ですが」
ジャンヌは自分の胸へ手を当てた。
「宮田さんに止めていただかなければ、私はきっと、あのまま受け入れていました」
「それがジャンヌさんの意思なら、止めるべきじゃなかったとも思います」
「私の意思ではありました」
ジャンヌは言った。
「皆様を守りたいと思ったことも、聖女である自分を否定したくないと思ったことも、本心です」
やはり、偽物ではない。
「ですが、それだけを選べばよいと、最初から決めていたことも事実です」
ジャンヌはゆっくりと、空の手を開いた。
「それ以外の自分を、考えようともしませんでした」
その手の上に、淡い光が集まった。
最初は、小さな粒だった。
やがて光は線となり、輪郭を作る。
長い柄。
鍔。
刃。
白銀の輝きを放つ一本の剣が、何もない空間から形を得た。
「え」
俺は間の抜けた声を出した。
佐伯さんが顔を上げる。
光秀の筆が止まる。
信長だけが、目を細めた。
ジャンヌは具現化した剣を両手で持った。
荘厳だった。
ゲームの最高レアリティ武器として、そのまま実装できる。
いや、むしろ実装させてほしい。
絶対に売れる。
「それ……どこから出したんですか」
俺が尋ねると、ジャンヌは少し困ったように笑った。
「これが、私の本来史における力です」
聖剣。
神秘。
現代の常識では説明できない力。
二度目の監査が終わった、その日。
俺たちは初めて、ジャンヌ・ダルクという存在が、本来史でどのような力を持っていたのか、その一端を目にした。
だが、ジャンヌは美しい剣を見つめながら、寂しそうに言った。
「今のこれは、空っぽです」
「空っぽ?」
「はい」
白銀の刃は、まばゆいほどに輝いている。
それなのに彼女は、何もないものを見るような目をしていた。
「この修正史には、もう」
ジャンヌは剣を胸元へ引き寄せた。
「この剣に託される、誰の思いも残っていませんから」




