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第5話 私は……

「宮田さん」


 今度は少し強い声で、ジャンヌが俺を止めた。


「これ以上は、皆様にご迷惑がかかります」


「迷惑かどうか、俺たちが決めてもいいんじゃないですか」


「ですが――」


「私を勝手に守るな」


 信長の声が響いた。


 ジャンヌが振り向く。


 信長は椅子に深く座ったまま、頬杖をついていた。


「誰が、貴様に己を捨ててまで守れと申した」


「しかし、信長様に処分が及ぶ可能性が」


「その程度、私が決める」


「ですが」


「貴様が聖女として己を差し出すことを望むなら、好きにせよ」


 信長の猫耳が、わずかに後ろへ倒れた。


「だが、それを私のためなどと申すな。私は、貴様が己を捨てることで助かりたいとは思わぬ」


 ジャンヌは言葉を失った。


 光秀が静かに続ける。


「誰かを守りたいと思うことと、自分をなかったことにすることは、同じではありません」


「光秀さんまで……」


「あなたが私たちを大切に思ってくださることは理解しています」


 光秀は柔らかく微笑んだ。


「ですから、私たちがあなたを大切に思うことも、認めていただけませんか」


 ジャンヌの視線が揺れた。


 初めて、彼女が逃げ道を失ったように見えた。


 他人のためなら、我慢できる。


 だが、その相手たちから「我慢してほしくない」と言われた時、ジャンヌには何を選べばいいのか分からない。


「俺も、聖女であることが間違いだとは思ってません」


 俺は言った。


「ジャンヌさんが誰かを守ろうとするのも、本当のジャンヌさんなんだと思います」


 修正史の聖女像は、完全な嘘ではない。


 ジャンヌの中にあるものを切り取り、分かりやすく整えた姿だ。


 だからこそ、強い。


 だからこそ、彼女自身も否定できない。


「でも、それだけでいいんですか」


 ジャンヌは俺を見た。


「それ以外の自分を、全部なかったことにしてもいいんですか」


「私は……」


 言葉が途切れる。


 しばらくして、ジャンヌはかすかに首を振った。


「分かりません」


 それは、彼女がこの場で初めて口にした、模範的ではない答えだった。


「私は、何者になりたいのでしょう」

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