第4話 待ってください
会議室が静かになった。
これは質問ではない。
確認だった。
この場で「はい」と答えれば、ジャンヌは安全になる。
アルカディアへの評価も軽くなる。
信長と光秀を含めた、アルカディア全体の評価にも多少は有利に働くかもしれない。
ジャンヌは、それを理解していた。
彼女は一度、信長を見た。
次に光秀。
佐伯さん。
最後に、俺。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「はい。私は――」
「待ってください」
自分でも驚くほど、大きな声が出た。
ジャンヌが目を見開く。
御堂は俺を見る。
「何でしょう」
「今の質問、本人の意思確認になってません」
「意思を確認しています」
「受け入れれば全員が助かる状況で、ジャンヌさんが断れると思いますか」
「選択肢は提示しています」
「断った場合は?」
「再評価を行います」
「信長さんと光秀さんの処分にも影響しますか」
「監査結果は総合的に判断されます」
「ほら」
俺はジャンヌを見た。
「それで『はい』って答えても、それが本人の希望かどうか分からないじゃないですか」
「宮田さん」
ジャンヌが静かに俺の名前を呼んだ。
責める声ではない。
むしろ、止めようとしていた。
「私は大丈夫です」
やっぱり、そう言う。
「この程度のことで、皆様の立場が守られるのでしたら」
「この程度なんですか」
「私にとって、聖女と呼ばれることは苦痛ではありません」
「じゃあ、嬉しいですか」
ジャンヌは答えなかった。
御堂が割って入る。
「本人が受諾しています。第三者がその意思を否定する理由はありません」
「第三者じゃありません。俺は、この人のシナリオを書いてます」
「それが?」
「本人監修です」
何を言っているのだろう。
世界の秩序を守る機関の監査官に対して、ソシャゲの本人監修を根拠に反論している。
改めて考えると、ひどく弱い。
だが、それしかなかった。
「俺たちは、本人が納得する形にするために監修してもらってます」
「娯楽作品の設定と、修正史の維持を同列に扱わないでください」
「でも、ジャンヌさん本人を見ないで、ジャンヌ・ダルクの正しい形だけ決めるなら、やってることは同じでしょう」
御堂の目が細くなる。




