第25話 あなたも歴史を修正している
会議室に沈黙が落ちた。
御堂真白は、俺を見ていた。
感情の読めない目。
だが、さっきまでよりも、少しだけ深く見られている気がした。
「宮田春樹様」
「はい」
「あなたは、自分が歴史修正を行っている自覚がありますか」
その問いに、俺は息を止めた。
歴史修正。
それは、管理局がやっていることだ。
俺たちが抗っているものだ。
でも。
信長を書き換えた。
光秀を書き換えた。
ジャンヌの扱いも、たぶんこれから書き換える。
それは、本来史の復元ではない。
本人がもう一度生きられるように、歴史を再構成している。
それもまた、歴史修正だ。
「あります」
俺は答えた。
御堂のペンが止まる。
「ただし」
俺は続ける。
「あなたたちとは、目的が違うと思っています」
「どう違いますか」
「管理局は、世界を守るために歴史を平凡にする」
御堂は否定しない。
「俺は、彼女たちが消えないために、物語を書く」
「それは、あなたの主観です」
「はい」
「危険ですね」
「はい」
俺は認めた。
「危険だと思います」
御堂は、しばらく黙っていた。
そして、静かに言った。
「率直なのですね」
「嘘をつくと、たぶんすぐバレるので」
「はい。バレます」
「ですよね」
佐伯さんが小声で言う。
「宮田くん、今かなり危ないこと言ってるよ」
「わかってます」
「でも、たぶん大事」
「はい」
御堂は、資料を整えた。
「現時点での監査判断を伝えます」
全員が息を止める。
信長は笑っている。
光秀はペンを握る。
ジャンヌは目を伏せる。
佐伯さんは胃を押さえる。
黒川さんは、御堂のスーツからようやく目を離した。
御堂は言った。
「即時削除措置は、保留します」
佐伯さんが、目に見えて息を吐いた。
「保留……!」
「ただし」
御堂は続ける。
「貴社の活動は、史観逸脱として監視対象に指定されます」
「監視対象」
「はい」
「具体的には?」
光秀が聞く。
御堂は淡々と答えた。
「今後、ヒスガルにおける歴史人物表現、顕現存在の扱い、大衆認識への影響、イベント・プロモーション・二次創作との相互作用について、継続的に監査します」
佐伯さんが、遠い目をした。
「継続監査……」
「はい」
「月次ですか?」
「必要に応じて」
「それが一番怖い」
御堂は、最後に俺を見た。
「宮田春樹様」
「はい」
「あなたの物語は危険です」
「さっきも言われました」
「何度でも言います」
彼女は立ち上がった。
「ですが、現時点では、即時に削除するほど危険ではない」
信長が笑う。
「褒めておるのか」
「評価です」
「つまらぬ」
御堂は、信長に一礼した。
次に光秀に。
ジャンヌに。
佐伯さんに。
そして俺に。
「次回監査までに、商品化と本人尊重の両立方針を文書化してください」
光秀が即座に答える。
「提出期限は」
「七営業日以内」
「承知しました」
「本当に承知するのですね」
「監査ですので」
御堂は、ほんの少しだけ目を細めた。
「明智光秀様」
「はい」
「貴女の存在は、管理局にとって厄介です」
「承知しています」
「ですが」
御堂は、少しだけ間を置いた。
「貴女がいることで、織田信長様の逸脱が一定範囲に収まっていることも確認しました」
光秀が、少しだけ目を見開く。
信長が笑った。
「聞いたか、光秀。貴様、管理局にも認められたぞ」
「嬉しくありません」
「そうか?」
「はい」
御堂は黒いファイルを閉じた。
「本日の監査は以上です」




