第23話 私は、例外でよい
俺は、その言葉に胸を突かれた。
呼吸可能な物語。
それは、俺たちがやろうとしていることに近い。
正しい歴史ではない。
完全な復元でもない。
でも、彼女たちが息をできる物語。
御堂は、今度は信長を見た。
「織田信長様。あなたはどうですか」
「私か」
「はい。あなたは、ヒスガルという商業作品内の例外として扱われることを受け入れますか」
信長は、つまらなそうに笑った。
「受け入れるも何も、私はもう立っておる」
「質問に答えてください」
「嫌だ」
光秀が即座に言う。
「信長様」
「何だ」
「監査です」
「わかっておる」
「質問には答えてください」
「面倒だ」
「必要です」
「……ちっ」
信長は舌打ちした。
御堂が少しだけペンを止める。
「明智光秀様の制止は有効ですね」
「記録するな」
信長が言った。
しかし、今度はちゃんと答えた。
「私は、例外でよい」
会議室が静かになる。
「ただし、記録の隅に置かれる例外ではない」
信長は、御堂をまっすぐ見た。
「この時代で、誰かが私を見て、好きだと言い、消さないでくれと言った。その認識があるなら、私はそこに立つ」
「それが商業作品内であっても?」
「構わぬ」
信長は笑った。
「戦場も、城も、茶会も、ゲームも、場所が違うだけだ。そこに人が集まり、名を呼ぶなら、私は立つ」
御堂は、淡々と記録する。
「織田信長様。商業空間を新たな立脚地として認識」
「何だその書き方は」
「監査記録です」
「気に入らぬ」
「修正しますか」
「する」
光秀がすぐに言った。
「“ユーザーの認識を、現代における立脚地として認識”ではいかがでしょうか」
「よい」
御堂は、少しだけ光秀を見た。
「……貴女は、監査側に向いていますね」
「褒め言葉として受け取るべきか迷います」
「褒めています」
「では、ありがとうございます」
信長が不満げに言う。
「光秀を取るなよ」
「取る予定はありません」
御堂は即答した。
「彼女は現在、史観逸脱側の重要構成要素です」
「やはり気に入らぬ書き方だ」
会議室に、少しだけ笑いが起きた。
御堂だけは笑わなかった。
だが、空気がわずかに変わった気がした。
完全な敵対ではない。
少なくとも、話はできる。
そう思った矢先だった。
御堂が、黒いファイルを閉じた。
「ここまでの説明で、貴社の方針は理解しました」
「では」
佐伯さんが少し身を乗り出す。
「監査終了ですか」
「いいえ」
御堂は淡々と言った。
「ここからが本題です」
佐伯さんの顔から血の気が引いた。
「まだ本題じゃなかった」
「はい」




