表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/22

第5話 本来史は、ファンタジーではありません

「混沌……」


「ええ、そこは神々、妖魔、半妖、異能者、亡霊、魔術師。人智を超えた存在たちが、時代も国境も越えて干渉し合っていた世界」


 ジャンヌは、淡々と言った。


「貴方たちの言葉で言うなら、神話級のファンタジー世界です」


 佐伯さんが、ぽつりと言った。


「ファンタジー世界……」


「はい」


 ジャンヌは真面目にうなずく。


「ただし、現代人が楽しむためのファンタジーではありません。神々の気まぐれで国が揺れ、妖魔の怒りで都市が滅び、英雄の異能が戦争の勝敗を変える世界です。美しく、苛烈で、あまりにも不安定な歴史」


 信長は黙っていた。


 彼女はその世界を知っているのだろう。


 懐かしむでもなく、否定するでもなく、ただ、そこにいた者の顔をしている。


「では、今の歴史は何なんですか」


 黒川さんが聞いた。


「今の歴史は、修正された歴史、修正史とでもいいましょうか」


 ジャンヌは答える。


「本来史の混沌が、人間社会に耐えられる形へ再構成された歴史。神話は神話へ。妖怪は伝承へ。偉人は人間へ。魔術は迷信へ。奇跡は偶然へ。そう整理された秩序の歴史です」


 俺は、さっきの管理局の文面を思い出した。


 歴史は、正しく平凡であるべきです。


 神話は、歴史にしてはなりません。


 英雄は、記録の中で眠るべきです。


「修正史管理局は、その秩序を守っているんですか」


「はい」


「じゃあ、敵なんですか」


 俺が聞くと、ジャンヌはすぐには答えなかった。


 少しだけ、悲しそうな顔をした。


「簡単に敵と呼べるほど、話は単純ではありません」


「でも、信長さんを消そうとしてます」


「はい。それは事実です」


「だったら」


「ですが」


 ジャンヌの声は静かだった。


「彼らがいなければ、貴方たちの現代社会は今の形を保てなかったかもしれません」


 俺は黙った。


 それは、考えたくない方向の話だった。


 管理局は悪い。

 信長を消そうとしている。

 だから止める。


 そう言い切れれば、話は楽だった。


 でも、ジャンヌはそれを許さなかった。


「本来史がそのまま戻れば、現代は神話に飲まれます。教科書が書き換わるだけでは済みません。国家の成り立ち、宗教、血統、科学、社会制度、人々の記憶。すべてが揺らぎます」


 佐伯さんが、胃を押さえた。


「つまり、うちのイベントが世界崩壊案件になる可能性があると」


「可能性はあります」


「三周年で?」


「三周年で」


「やめてほしいなあ」


 佐伯さんは本気でつらそうだった。


 俺も同感だった。


 三周年イベントは、普通、ログインボーナスと限定ガチャと記念ストーリーで構成される。


 決して世界の歴史構造を揺らすものではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ