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第12話 ご主人さま、大好きにゃ♡

 そのとき、奥から声が聞こえた。


「すみませーん、戻りました!」


 紙袋を抱えた作者本人らしき女性が戻ってくる。


 そして卓の前を見た。


 信長が自分の本を持っている。


 光秀が真剣に解説している。


 ジャンヌが静かに要望を伝えている。


 宮田が頭を抱えている。


 作者は数秒固まったあと、小さくつぶやいた。


「……夢?」


 売り子が震える声で聞いた。


「あの……皆さん、もしかして公式の方ですか?」


 会話が止まった。


 俺は答えに詰まる。


 黒川さんは「公式レイヤーです」と言いかける。


 信長は「本人だ」と言いかける。


 光秀は「説明すると長くなります」と口を開きかける。


 ジャンヌは困ったように微笑む。


 沈黙は三秒ほど続いた。


 俺は深く頭を下げた。


「今日は、そのあたりでお願いします」


「そのあたりって何ですか!?」


「それはそうと宮田さん」


 黒川さんが財布を取り出した。


「成人向けも含めて数冊、資料として購入してください。社内共有用です」


「分かりました」


 俺は資料になりそうな本を数冊選ぶ。


 衣装の描写。


 構図。


 人気カップリング。


 タイトルの付け方。


 売れている理由。


「このあたりですね」


「十分です」


 ――そこで。


 視界の端に、一冊だけ妙に目立つ本が入った。


 猫耳の信長が、頬を真っ赤に染めてこちらを見上げている。


『ご主人さま、大好きにゃ♡』


「……」


(いや、これは資料じゃない)


(でも、なんでこんなのが売れるのかは気になる)


(資料として、一応……)


 気づけば手が伸びていた。


 会計を終えた紙袋を信長がのぞき込む。


「……宮田」


「はい」


「これは何だ」


  信長が一冊の本を開く。


 数ページ眺めたあと、ぴたりと止まった。


「……宮田」


「はい」


「これ」


 信長が俺へ向ける。


 そこには、猫耳の信長が満面の笑みで描かれていた。


『ご主人さま、大好きにゃ♡』


「…………」


「これ、どこかで見覚えがあるのだが」


 光秀が横からのぞく。


「ああ」


「初期実装ですね」


 空気が止まった。


 黒川さんも静かにページを見る。


「サービス開始時のボイスです」


 ジャンヌが首をかしげる。


「つまり……宮田さんがお考えになったのですか?」


「違います!」


「違わぬであろう」


 信長がじっと俺を見る。


「この『にゃ♡』はやはりおまえの好みではないか」


「当時はそういうのに萌えを感じてたんです!」


 黒川さんが静かに頷く。


「開発者あるあるですね」


「あるあるで済ませないでください!」

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