第10話 #隣に来た
続いて、光秀の撮影タイムになった。
彼女は最初、少し硬かった。
白と紺の参謀衣装。
手には戦況図。
刀ではない。
刃ではなく、言葉と配置で立つ光秀。
列の先頭にいた青年が、少し緊張した様子で言った。
「あの、レーヴァテインの配信に出てた人ですよね」
光秀の表情がわずかに固まる。
「はい」
「今はヒスガルなんですか」
「……はい」
「それって」
青年は苦笑した。
「また裏切りっていうか……そういう売り方なんですか?」
少し離れた場所で、若い男性が首をかしげていた。
その隣にいた女性が、小さく首を振る。
「昨日の配信、見ました?」
「途中だけ」
「あれ見てて、ちょっと嫌だったんです」
「嫌?」
「光秀さんが何か言おうとするたびに、周りが別の意味にしちゃって」
「……ああ」
「だから、ちゃんと話せてよかったなって」
青年は少しだけ黙り、
「……そういう見方もあるのか」
と小さく呟いた。
「だから、こっちに来てくれてよかったです」
光秀は、何も言えなかった。
会場はうるさい。
人は多い。
あちこちで列が動き、スタッフの声が飛び、紙袋が揺れている。
それでも、その一言は、彼女にちゃんと届いた。
光秀は、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
声が少しだけ震えていた。
信長は横を向いた。
「ふん」
「信長様」
「泣いてはおらぬ」
「誰も言っていません」
女性参加者は、照れたように笑った。
「あの、写真いいですか」
「はい」
光秀は姿勢を正す。
その隣に、信長が自然に並んだ。
参加者が息を呑む。
「え、二人で?」
信長が言った。
「隣にいるのでな」
光秀が、少しだけ目を見開く。
それから、小さくうなずいた。
「はい。隣にいます」
シャッター音が鳴る。
その写真は、その日の午後にはSNSで大きく拡散された。
タグは、
#本能寺再提出
#次は隣にいろ
#光秀は裏切ってない
#隣に来た
だった。




