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第5話 決起文は、三行の声明になる

 信長が腕を組む。


「当然だ。貴様の姿を使うなと、堂々と言え」


「そのまま書けば、企業間抗争になります」


「すでに抗争ではないか」


「現代では、抗争にも法務確認が必要です」


「面倒な時代だな」


 光秀はキーボードを打ち始めた。


 速い。


 迷いがない。


 そして、長い。


「光秀さん」


 俺は横から画面を見た。


「これ、公式投稿ですよね?」


「はい」


「長くないですか」


「必要事項を記載しています」


「十二段落ありますけど」


「背景説明が必要ですので」


 佐伯さんも画面をのぞき込んだ。


「光秀さん、これ声明文というより」


「はい」


「決起文だね」


 光秀の指が止まった。


「決起する意図はありません」


「でも冒頭が、“私の名と姿を利用するすべての者へ告げます”になってます」


 信長が満足そうにうなずく。


「よい書き出しだ」


「よくありません」


 佐伯さんは胃を押さえながら、その原文を法務へ送った。


 数分後。


 文書は赤字だらけになって戻ってきた。


「早いですね」


 俺が言うと、佐伯さんは遠い目をした。


「たぶん、法務部も嫌な予感がしてたらしく、待機してくれてた」


 光秀は修正指示を確認した。


 冒頭の一文には、大きく赤が入っている。


 ――「私の名と姿を利用するすべての者へ告げます」

 ※威圧的です。削除してください。


 信長の耳が動いた。


「どこが威圧的だ」


「全体的にです」


 佐伯さんが答える。


 次の一文。


 ――「私の姿を奪うことを、私は許しません」

 ※「奪う」は相手方の違法性を断定する印象があります。表現を弱めてください。


「弱めるな」


 信長が即座に言った。


「奪っておるではないか」


「信長様」


 光秀が静かに言う。


「企業公式アカウントですので」


「ならば、企業公式アカウントで強く言え」


「それをすると佐伯さんの胃が終わります」


「もうかなり終わってるよ」


 佐伯さんが胃を押さえたまま言った。


「でも、完全には終わってないから。そこは守ってほしい」


 光秀は赤字を見つめた。


「では、“私の意思を離れて扱われることを望みません”に変更します」


「弱い」


「意味は残っています」


「斬れぬ」


「声明文ですので」


「燃やせぬ」


「投稿ですので」


 信長は不満そうに椅子へ戻った。


 さらに下には、


 ――「私は誰かの都合で再び反逆者にされるつもりはありません」

 ※作品設定および競合他社への批判と受け取られる可能性があります。要調整。


 ――「私の位置は、私が決めます」

 ※主旨は問題ありません。残してください。


 と書かれていた。


「最後は通った」


 俺が言う。


「はい」


 光秀は、ほんの少しだけ表情を緩めた。


 それから文章を削った。


 十二段落が八段落になり。


 八段落が五段落になり。


 最終的に、三行になった。


「ずいぶん減ったな」


 信長が言う。


「企業公式投稿としては、これでも長めです」


 佐伯さんが答える。


「決起文から声明文になったね」


「最初から声明文です」


「うん。そういうことにしておこう」


 光秀は、完成した文章を読み上げた。


 ――明智光秀として、私は自分の言葉と姿が、私の意思を離れて扱われることを望みません。


 ――アルカディアゲームスは、本人の意思確認と尊重を前提に、今後のプロモーションを行います。


 ――私は、反逆者としてでも、話題性のある素材としてでもなく、ヒスガルの物語の中で、自分の位置を選びます。


 会議室が静かになった。


 信長は腕を組んだまま、少しだけ目を細める。


「短くなったが」


「はい」


「悪くない」


 光秀は、小さくうなずいた。


「ありがとうございます」


 佐伯さんが最終確認ボタンにカーソルを合わせる。


「では、投稿します」


「待て」


 信長が言った。


「何ですか」


「最後に、“文句があるなら私に言え”と足せ」


「足しません」


「なぜだ」


「法務確認をやり直すことになるので」


 信長が黙った。


 法務確認という言葉は、最近の信長によく効く。


 佐伯さんが投稿ボタンを押した。


 三行の声明は、数秒後にはSNSへ流れていった。

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