↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/150

第3話 配置図を制する者は、コミケを制する

 翌日、光秀はコミケの配置図を印刷してきた。


 それも一枚ではない。


 企業ブース、一般サークル、コスプレエリア、休憩所、救護室、トイレ、自販機、最寄り駅からの導線、待機列形成想定。


 全部で二十七枚。


「戦か?」


 信長が言った。


「イベントです」


 光秀が訂正する。


「だが、これは戦の地図だろう」


「人流管理です」


「兵站ではないか」


「近いです」


 佐伯さんは、それを見て心底感心していた。


「光秀さん、コミケ初参加ですよね?」


「はい」


「初参加でここまで把握できます?」


「必要な資料が公開されていますので」


「強い」


 黒川さんは、配置図よりも衣装チェックに集中していた。


 テーブルの上には、信長、光秀、ジャンヌの公式衣装案が並んでいる。


 ただし、会場用に露出や装飾は調整済み。


「信長さんは、猫耳の固定を強化します」


「耳は本物だ」


「本物なので、なおさらカバーが必要です。人混みで接触される可能性があります」


「触れた者は斬る」


「斬らない方向で」


 光秀が即座に言った。


「信長様の耳接触時対応は、スタッフへ引き継ぎます」


「そんな対応を作るな」


「必要です」


 ジャンヌは自分の衣装を見て、穏やかに微笑んだ。


「今回の衣装は、比較的まともですね」


「比較的」


 俺がつぶやくと、ジャンヌはこちらを見た。


「宮田さん」


「はい」


「比較対象が火刑台ショコラティエですので」


「本当にすみません」


「謝罪は受け取ります。反省は継続してください」


「はい」


 光秀は、自分の衣装案を見て少しだけ首を傾げた。


「これは、私ですか」


「はい」


 黒川さんが答える。


「《本能寺再提出》後の公式衣装です。レーヴァテイン側の“反逆の白刃”との差別化として、刀ではなく戦況図と筆記具を持たせます」


「武器ではなく」


「はい。止める人、整える人、隣で見る人として」


 光秀は、しばらく黙っていた。


 そして、小さく言った。


「……ありがとうございます」


「ただし、眼鏡の反射は演出上使います」


「そこは譲れませんか」


「譲れません」


 信長が横からのぞき込む。


「悪くない」


「信長様にそう言われると、不安になります」


「なぜだ」


「勢いで言っている可能性があるので」


「光秀、貴様」


「事実です」


 こういう会話にも、少しずつ慣れてきた。


 信長が突っ込み、光秀が止める。

 光秀が理屈を積み、信長が突破しようとする。

 その間で佐伯さんが胃を押さえ、黒川さんが衣装を直し、ジャンヌが柔らかく刺す。


 そして俺は、その全部をメモする。


 最近、どこまでが仕事でどこからが歴史改変なのか、わからなくなってきた。


 その日の夕方。


 光秀は、完成した運営計画書を満足そうに閉じた。


「これで、想定できる事態は概ね網羅しました」


 佐伯さんがぱらぱらとページをめくる。


「すごい……」


「企業ブース導線、撮影列、物販列、休憩交代、迷子対応、救護室誘導、駅までの帰宅経路も整理済みです」


「完璧だ」


 黒川さんが、静かに言った。


「コミケは、その通りにはなりませんよ」


 会議室が少し静かになる。


 光秀が首を傾げた。


「なぜでしょう」


「毎回、誰かが予想外のことをします」


「例えば?」


「壁サークルの列が突然伸びたり、コスプレエリアが移動したり、企業ブースの待機列が別方向へ回されたり」


 佐伯さんも苦笑する。


「あと、電波が死ぬ」


「電波が」


「死ぬ」


「……通信障害ですか」


「人が多すぎるんだよ」


 光秀は少し考え込んだ。


「資料にはありませんでした」


「だからコミケなんです」


 俺が言うと、光秀は静かにうなずいた。


「なるほど」


「つまり、計画は必要ですが」


 黒川さんが続ける。


「最後は現場対応です」


 信長が笑う。


「それなら得意だ」


「だから信長様は、勝手に現場判断をしないでください」


「もう止める前提なのか」


「はい」


 光秀は手帳を開いた。


「では、『予想外の出来事』という項目を追加します」


 佐伯さんが笑う。


「その項目だけは、毎回更新されるよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。