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第25話 レーヴァテインとの決裂

 配信は、予定より十五分早く終了した。


 司会が無理やりログインボーナスと限定パックの紹介へ戻し、プロデューサーが笑顔で締めた。


 だが、もう予定通りではなかった。


 配信のコメント欄は、最後まで荒れていた。


 炎上ではない。


 もっと厄介なものだ。


 ユーザーが、運営の用意した解釈から外れて考え始めていた。


 終了後、スタジオの扉が開く。


 まず司会が出てくる。


 次にシナリオライター。


 その後ろから、プロデューサーが出てきた。


 彼は廊下にいる宮田たちを見つけると、露骨に顔をしかめた。


「アルカディアさん」


 声が低い。


「これはどういうことですか」


 佐伯が前に出る。


「お疲れさまです。急にお邪魔してすみません」


「急にどころではないでしょう。配信中に公式アカウントでこちらのイベントに被せるような投稿をして」


「そちらの配信内容が、うちの信長を直接的に巻き込んでいましたので」


「競合イベントですよ。互いに多少意識するのは当然でしょう」


「意識と利用は違います」


 佐伯の声は穏やかだった。


 だが、退くつもりはなかった。


「明智光秀さんの言葉を、かなり都合よく切り取っていましたね」


「明智光秀さん?」


 プロデューサーは笑った。


「あの方のことですか。彼女はあくまで歴史解釈協力者です。制作判断は弊社が行っています」


「名前も出さずに?」


「本人確認もできない方の名前を出すわけにはいきません」


「その割には、解釈だけは使うんですね」


 佐伯の言葉に、プロデューサーの目が細くなる。


「そちらに言われる筋合いはありませんよ。御社だって偉人を美少女化して売っているでしょう」


「それは否定しません」


「なら同じです」


「同じところもあります」


 佐伯は言った。


「でも、同じにしないために、こっちは今かなり胃を痛めています」


「は?」


「いえ、こっちの話です」


 プロデューサーは苛立ったように息を吐いた。


「とにかく、今後こちらのイベント名やキャラクターに絡むような投稿は控えていただきたい。ユーザーが混乱します」


「ユーザーが混乱するのは、悪いことばかりではありません」


 宮田は思わず口を挟んでいた。


 プロデューサーがこちらを見る。


「あなたは?」


「アルカディアゲームスの宮田です。ヒスガルのシナリオ担当です」


「ああ。信長を書いた方ですか」


 その言い方には、棘があった。


「盛りましたね、ずいぶん」


「はい」


「結果、かなり当たっている。羨ましいですよ」


 プロデューサーは笑った。


「でも、だからといって本能寺を独占されても困るんです。こちらにも商売がありますので」


「本能寺は、うちのものじゃありません」


「なら」


「そちらの商品でもありません」


 言った瞬間、空気が張った。


 プロデューサーの笑みが消える。


「綺麗事ですね」


「かもしれません」


「商売で歴史キャラを扱っている人間が、商品じゃないと言うんですか」


「商品ではあります」


 宮田は答えた。


「でも、商品だけではないです」


「それを言い出したら、商売になりませんよ」


「そうかもしれません」


 宮田は、信長を見る。


 彼女は黙ってこちらを見ていた。


 次に、スタジオの奥へ視線を向ける。


 まだ光秀は出てきていない。


「でも、商品だけとして扱ったら、たぶん誰かが消えます」


 プロデューサーは鼻で笑った。


「大げさですね」


「大げさじゃないんです」


「御社の世界観では、でしょう?」


「はい」


 宮田は認めた。


「俺たちの世界観では、です」


 プロデューサーは呆れたように肩をすくめた。


「なりきりに付き合う余裕はありません」


 その時、奥の扉が開いた。


 光秀が出てきた。


 配信中の硬さは少し解けていたが、疲れた顔をしている。


 手には、赤字だらけの資料。


 その資料を見たプロデューサーが、軽く舌打ちした。


「明智さん。配信中に予定外の発言をされると困ります」


 光秀は、まっすぐ彼を見た。


「予定内では、私の言葉は届きませんでした」


「それは制作側で調整する部分です」


「調整とは、削ることですか」


「見せ方を整えることです」


「整えた結果、私はまた別の役割に置かれました」


 プロデューサーは、面倒そうに眉をひそめる。


「明智さん、何度も言いますが、これはゲームです。ユーザーに刺さる形にする必要があります」


「刺さる形とは、誰かを切る形ですか」


「言葉遊びはやめてください」


 光秀は黙った。


 しかし、もう昨日のようにはうつむかなかった。


「私は、協力を取り下げます」


 その一言で、廊下の空気が止まった。

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